─紫の問─ 真実編

第一章

第1話 誰かと誰かの会話




 狭い窓から、まぶしいほどの光が降り注ぐ。小さな机を挟んで、私を睨みあげる男がいた。


 そんなに怒らないでよ。全く、こんな狭い所に連れて来られて、怒りたいのは私の方だ。


 外はこんなにも天気がいいのに。もうこんな狭い所から出て、早く外に出かけたいな。


「おい、黙ってないで、答えたらどうなんだ」


 男はもの凄い形相で言った。


 机を挟んで互いに向き合う私たち。


 私は、面倒臭そうに溜息ためいきを吐いて、頭をかいた。


「なんとなく、かな?」


 男があまりにもうるさいもんだから、答えてやった。


 大体、私が質問に答えた所で、どうせ、目の前の男には、理解なんて出来やしない。


「な、なんとなく、だと?」


 ほらね?


 男は目を丸くしながら私を見ている。


 だから答えるのが嫌なんだ。理解出来もしないのに、聞かないで欲しい。


「いいでしょ別に。大袈裟だよ?」


 私は、言った。


 だってそうでしょ?今聞かれている事は、ただの日頃の生活習慣についてなんだから。


 私が、日常生活の中で、彼と違う事をしているから、彼はありえないと怒っているの。私にとっては、当たり前の事で、ただの日課なのに。


「大袈裟?なんとなく?ふざけるなよお前」


 男は、目の前の机を叩いて、怒鳴るように言った。興奮のあまり男は立ち上がる。


 机を叩いた音と男の声、しかも急に立ち上がったもんだから、びっくりした。でもすぐに、心が苛々と脈打つ。


「怒鳴らないでよ! びっくりした。あなたにとってはそうでも、私にとっては違うの。それだけの話しだよ」


 私は、苛々した心境を、そのまま声に出して言った。


 男は、頭を抱えて座り込んだ。


「理由を言え。なんで、お前は…」


 理由…?


「理由…?難しい事を聞くんだね?」


 、ね。


「難しくないだろ。なんであんな事をしたのか、理由が知りたい」


 人と言うのは、何で理由を知りたがるのか。不思議だよね。なんでああ言うことを言ったのか、あの人は、どういうつもりなのかとか。何でもかんでも、何故、と答えを知りたがる。


 何も、答えなんかないのに。


「朝、歯を磨くのに、理由が必要なの?」


 私は、肩を上げて、言った。


「何?」


 男は、首をかしげる。


「朝、会社に行くのは、学校に行くのは、理由が必要なの?」


 なんでもかんかでも、行動に理由がある訳じゃない。すべてに答えがある訳でもない。


 理由、動機、答えなんて、ただ、納得したいがために、皆が勝手に求めてるだけで、そんなもの端から存在しないんだよ。


「私の行動に、対して理由なんかないよ。ただ、そうしたいからしただけ。習慣だよ、習慣。ただの、ルーティーンだよ?」


 男は、立ち上がる。


「狂ってる。ふざけるな。ふざけんなよ」


 彼の声は、震え始めた。


「ルーティーンだと!?日常だと!?なんの理由も動機もなく、200人以上もの人を殺したって言うのか!!!」


 もーうるさいなぁ。声大きいよ。


 それに、200人以上もいたかな?まぁ何人でもいいけど。


「わかったよ。そう怒んないで。人を殺した理由?動機?になるかわかんないけど、全部教えるよ。に、一体何があったのかを」


 私は、怒りに震える男に対して、肩を上げて口を開いた。


「どうせ、死刑になるんだし」


 最後に、語ってあげるよ。


 もう、怒鳴られるの嫌だしね?


 の、のすべてを───。


 うーんと、どこから話そうかな。


 そうだ、確か、始まりは


 ゆりちゃんたちが、殺し合った後からだったかな──。


 ゆうくんがね、私にあまりにも怒ってたから、特別に教えてあげたんだ。


『ゆりちゃんたちの家、取り壊されちゃうよ?』


 って───。


 懐かしいなぁ。話すなら、まずはそこからだよね?





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