29. 砂漠へ

 あの後は、なんとか食事も再開して普通っぽい感じになったものの、宿屋の部屋に戻ってきてもちょっと変な雰囲気は残っていた。


 アリスが俺の裾を掴んで、俺を見てくる。


「ホクト、私たちも人間ウサ。耳としっぽは違うけど、それ以外は同じウサ」

「そうだろうな、たぶん」

「ホクトは見たことないから、はっきりとは断言できないウサね」

「まぁ、そうだけど」

「じゃあ、あの、私の体、全部見てください。全部ウサ」

「っちょ」


 俺が止めるまでもなく、なぜか俺がフルベールに羽交い締めにされた。

 アリスだけでなくピーテとソティも全裸になって、俺に見せてくる。

 俺にはまぶしかったとだけしか言えない。


 ちなみに人間には獣人を含んでいて、俺たちは人族と呼ばれている。


 そんなこんなあって、確かに耳としっぽ以外は違いがほとんどないらしい。

 みんなそろって美少女とかは何か差があるのかはよく分からない。


 見ちゃいました。

 これで今度から、獣人だって人間と違わないってはっきり言える。

 いや正直者補正みたいのないけど、嘘をつくという俺のためらいみたいのがなくていい。だって見たんだもの。

 でも逆に見ちゃった後ろめたさはあるんだけど、これはどうにもならないわな。

 だいたい、見た程度でみんな恥ずかしがってたけど、別に嫌がっていないみたいだし。

 俺の個人の奴隷だもんな。譲渡とかはできないらしいし。


 この日はアリスがベッドで甘えてきたので、たっぷり耳かきをして甘やかした。

 頭もたっぷりなでなでした。



 そんなこんなで二週間が過ぎ、砂漠へようやくたどり着いた。

 悪魔の話は東ほど知られていないようで、あれ以来は絡まれることはなかった。


 不思議なものでこちら側は緑があるのに、砂の山が突然目の前に現れて、そして砂山がある。

 その最後の村の所で馬車を売った。預けるということは無理らしい。

 確かにこの先を進む民族もいるが、数でいえばあまりいない。珍しいらしい。

 そんな、生きて帰ってくるかも分からないのに馬車なんて保管してくる人がいるはずもない。

 この辺境には冒険者ギルドもないのでそういう力も無力だった。


「なんか緊張してきますね」


 これはピーテ談。

 俺たちはこの砂漠を収納魔法の容量それなりに、食べ物やテントとかを入れて出発した。

 ここから先は、オアシスとかもあるそうなので、進むこと自体は不可能ではない。

 意を決して砂山を進む。

 しかし何でもないように砂があり、普通に歩きで進むだけだったりする。


「砂ぁ、すなぁ~砂しかない~あ~~カニ食べたああいい」


 ソティはカニが食べたい変な歌を歌う。

 まあ気がまぎれるなら別にいいけど、調子くるいそうだ。


「なあフル、森のエルフは砂漠に弱いとかないの」

「そんなのないのです」

「そっか」

「はいなのです」


 なるほど。エルフってなんでか砂漠に弱そうと思ってたけど、見当違いだった。

 むしろ俺のほうが先にバテそうだ。

 そして数日が経過した。


「サンドワーム、ウサ。右二時方向、数は一。すぐ出てくるウサ」


 耳がいいのはアリスだ。だてにうさ耳を生やしていない。


 ズザーっと砂をかき分けて目の前に飛び出してくるサンドワーム。

 どうも直接食べちゃったりしないで、一度顔を出す習性らしい。ありがたい。


 バンバン魔法を飛ばして、凍らせると、あっという間に動かなくなり、やっつけられた。

 剣士組は暇だが、巨大サソリとかもたまに出てくるので、油断は禁物だ。



 サンドワーム=サンには三回ほどお世話になったが、数日後、一つ目のオアシスに到着した。

 俺たちはもう帝国の範囲を超えているので、俺たちはみんな薄手のフードをかぶっている。

 この辺の人たちは肌が黒い人が多く、俺たちとはちょっと人種が違うようだ。


「珍しい客人だね」


 よかった言語は同じだった。異世界の神秘、助かる。

 一人目のこの子も美少女だがエキゾチックな感じだった。


「ふーん。なかなかの甲斐性じゃあないか。美少女を四人、それも忠誠奴隷を三人もねぇ、こりゃ夜は大変だぁ」

「ち、違うって、そういうことはしてない」

「ふーん。そうなんだ、なにこの人、やることやってないんだって? バカなの?」

「いやいや、大切にしてるんだよ」

「ふーん、気に入った。私の家族の所でお世話してあげる」

「そりゃありがたいが、お金ふんだくるなよ」

「あははは、いや商売もできれば嬉しいけど、単純に興味出てきただけだよ」

「そうか。助かるよ」

「私はパンニャ」

「俺はホクト」

「ふーん」


 みんなも順番に挨拶をして、握手を交わした。握手する習慣があるんだななんて思った。そりゃそうか、交易とかもしてるんだもんな。

 彼女の家族のテントの場所に案内してもらい、その横に俺たちのテントを設置した。

 ついでにパンニャにちょっと話を聞いてもらう。


「魔王って知ってる?」

「あー知ってるよ。砂漠を抜けた向こう。もっと東だね。砂漠のすぐ先に魔王城があるっていう、風の噂」

「そうなんだ。魔王ってどんなやつなの?」

「それは知らないなぁ。すごく怖いかもしれないし、紳士かもしれないね」

「紳士か」

「うん、紳士ね」


 俺はちょっと変態紳士を思い浮かべたけど、パンニャは違うらしい。


「イケメンとかイクメンかもしれない」

「な、なるほど」


 ちょっと、いやだいぶ違った。魔王のイメージなんて分かんないよな。

 ちなみにピーテたちはみんなで泉に水浴びに行った。

 俺は変態ではない紳士なので覗きに行ったりはしない。


「それで、ご主人様は奴隷の水浴び見にいかないの?」

「行くわけないだろ、パンニャ」

「えー。つまんない。奴隷連れてる奴なんて、みんなそういうことするもんだよ」

「俺はしないの」

「えー」

「えーもヘチマもない」

「ヘチマって何」

「それは説明するのが難しい」

「余計気になるよ、ヘチマ」

「キュウリみたいな植物だよ」

「キュウリって何」

「えっそこから?」

「えっ」

「じゃあスイカ」

「ああ、スイカね。それならあるよ」

「あるんだ」

「おう、オアシスの水で育ててる」


 ちなみに今このオアシスに滞在している客は俺たちしかいないので、何かするとすぐ分かる。

 そういう意味では、他の奴隷商人みたいなやつに俺のパーティーが覗かれたりする心配もなくていい。

 ちょっと過保護なぐらいがちょうどいい。何かとトラブルを誰か持ち込んできたりするし。


 交易というほどではないけど、ピーテたちが収納魔法を使えるので、ポコジャーキーなどを少し交換した。

 金貨や魔力結晶なんかでももちろん交換できるけど、外の食べ物とかも喜ばれたので、色々細かいものを交換してみた。

 なんか地味に金貨が増えてしまった。生活物資は積んできたので、あまり欲しいものがなかった。

 一番欲しいのは女性陣からしたらシャワーを持ち運びたいぐらいだろう。そういう意味でオアシスそのものが欲しいんだと思う。

 全財産はたけば買えないこともないけど、利益にはならないだろうな。第一、この先に進まないと意味がない。


 一日休憩したらまた進むことにした。


「パンニャ、じゃあまた」

「ああ、ホクト、じゃあまた」


 砂漠ではさよならは言わないらしい。「じゃあまた」と言い合って別れるのが礼儀だそうだ。

 もう一生会わないという人たちも多いのだろう。

 水を多めに積んだ俺たちは、再び砂漠を進んだ。


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