3. 村での生活

 三日目。朝ご飯を食べて、ピーテとおっちゃんの所に剣を習いに行く。ちなみに朝ご飯はマコモの塩焼きとサラダだった。


「今日も来たな。感心。感心。昨日すぐへばってたからもう来ないのかと思ったぞ」


 俺、信用無いな。まあ、異世界人ですし、変な耳ですもんね。

 木刀を受け取り、昨日のように素振りをする。まずは縦斬りの素振りからだ。


「一。二。三。四……」


 あれ、何か昨日と感じが違う。昨日は剣なぎもヘロヘロで曲がっていたが、今日は真っすぐ素直に振れる。一回一回に力が込められている気がする。ピーテが横目でこっちを見てニヤニヤしている。


「なんか、今日は剣筋が昨日よりいい感じですね。才能あるかもしれません」


 そういって褒めてくれる。教官のおっちゃんは、昨日と別の子供たちの剣を見て、あーだ、こーだ言っている。

 俺は調子に乗って回数を重ねていく。今度はおっちゃんもこっちを見てくれるようだ。


「たかが素振りと思うなよ。これの積み重ねが重要なんだ。どれどれ、様になってきたではないか。すばらしい! グレイト!」


 おっちゃんもおだててくる。俺は少し気恥ずかしくなってきた。


「俺なんてまだまだですよ」

「謙遜するな。俺は褒めて伸ばすタイプなんだ」

「てことは、やっぱりまだまだですね」

「うん、まあ、そうだな」


 俺は頑張ったので素振り百回を楽々こなした。


「今日は余裕があるな。じゃあ、縦以外の横、斜め斬りなんかも混ぜてみよう」


 おっちゃんが見本を見せて俺とピーテがそれに続く、それを何回も繰り返した。

 回数を数えていなかったので何回かは分からないがかなりやったと思う。おっちゃんは途中から見本をやめてまた子供たちのほうへ行った。見てみると、子供たちが休憩に入っても、おっちゃんだけが一人で楽しそうに素振りを続けている。


「訓練、訓練、また訓練」


 おっちゃんはもうそれ以上強くならなくても良いように思う。

 この日はさらに少し剣を振っただけで、終わりになった。


「この後は何する予定なの?」

「今日は釣りに行こうと思います」


 ピーテの家に戻り、今日は弓矢の代わりに釣り竿を持つ。餌はなくて、疑似餌がくっついている。リールもなく、釣り竿の先から数メートルの糸と針があるだけの物だ。


「昨日とは反対側に川があって、そこで釣ります」


 ピーテについて川まで向かう。川は比較的幅の狭い緩やかな流れだった。水深はそこそこあるようで、濃い紺色をしている。

 二人で出っ張っている大きい石の上に立ち、そこから竿を水のほうへやる。ピーテがお手本を見せてくれる。適当に竿を斜めにしてピクン、ピクンと上下に動かす。しばらくすると、突然竿がしなり持っていかれそうになる。引きが弱くなったタイミングで竿を上に持ち上げると、先端の針に魚が付いていた。

 俺は魚に詳しくないのでよく分からないが、イメージ的にはニジマスみたいな感じの銀色の透明感のある魚だ。


「ね、簡単でしょ」

「はあ、とりま、やってみる」


 俺もピーテに続いて釣りに挑戦する。俺は海沿いの街に住んでいたが、釣りをしたことはなかった。親も友達も連れて行ってくれなかった。なぜだ。

 一生懸命、微妙に上下に動かしながらやっているが、全然ヒットしない。

 あー、飽きてきたな。コンビニだけの用だったのでスマホも持ってきていなかった。

 布団に入ってぬくぬくしてネットしたいなー。


 いきなりグッと竿に重みが掛かった。俺の可愛いお魚ちゃんキター。


「来ましたよ。慎重に竿を上げてください」


 ピーテも竿を上げるジェスチャーをしつつ、こっちを見てくる。

 えいやーと、俺は竿を上げる。

 掛かっていたのは、真っ赤な魚だった。三十センチくらいある立派な奴だ。ピチピチ跳ねて元気がいい。


「やりましたね。しかし……」

「しかし?」

「この魚、食べられるには食べられるんですが不味いんです」

「あ、そうなんだ。逃がす?」

「普通は即リリースです」

「あ、はい」


 俺は、しょんぼりして赤魚を放流する。


「元気で生きろよ。さらば」

「次はきっと、美味しいのが釣れますよ」


 気持ちを切り替えて、俺は再度釣りに挑戦する。

 すると今度はほどなくして次が掛かる。今度は何かな。


「赤魚です」

「あ、はい」


 また次を狙う。ランダムのアイテム取得は試行回数勝負なんてゲームの基本だ。


「また赤魚です」

「あ、はい」


 負けない。俺は負けない。絶対にだ。最後に勝つのは俺だ。


 次に掛かったのは、何やら引きが今までより弱い。探られている感じだ。特に強い抵抗もなしに、俺は竿を上げる。

 俺が釣りあげたのは、最初に見たニジマスモドキであった。


「ちょっと小さいですが、白魚です。ちょっと小さいですが」

「これはリリース?」

「ぎりぎり、オーケーなサイズだと思います」

「よっしゃ」


 結局、俺の初釣果はこのちょっと小さい白魚のみだった。

 一方ピーテは、白魚のちょうど食べ頃のサイズが三匹だった。これで家族四人分食べれるね。やったね。


 この日の晩ご飯は、もちろん白魚の葉っぱ包みの蒸し焼きにサラダだった。もちろん俺の魚だけサイズが小さかった。あとサラダ好きだなこの村。

 この釣り竿、ピーテ父母の思い出の品で、よく二人で釣りデートをしたという。父が川に落ちたり、まったく釣れなかったりと色々な思い出を教えてくれた。


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