【完結】「侯爵令息は婚約破棄されてもアホのままでした」
まほりろ
第1話「7年婚約した幼馴染に婚約破棄された」
婚約者のエアハルト伯爵家の長女ブルーナが、父親のエアハルト伯爵と弁護士を連れて我が家にやってきた。
ブルーナは茶髪に茶目、地味な色のドレスばかり着ているぱっとしない女だ。
ブルーナとの婚約は、彼女の母親と僕の母親が友人だから結ばれたもので、僕はもともとブルーナとの婚約には乗り気じゃなかった。
応接室に通されたエアハルト伯爵は、書類の束をテーブルの上に置いた。
「アーク・ヴェルナー候爵令息が浮気した証拠七年分です」
エアハルト伯爵がそう言って僕を睨め付けた。
僕とブルーナが婚約したのが十歳のとき、それからずっと僕を監視していたというのか?
陰険な奴らだを
僕は金色の髪にエメラルドグリーンの瞳、神に愛されて造形された美貌を持つ絶世の美少年。
それなのに婚約者は地味な色の服しか着ない、化粧もしない、アクセサリーで自分を飾ったりしない地味な女。
そんな女と婚約していたら浮気もしたくなるさ。
「アーク・ヴェルナー侯爵令息と我が娘ブルーナ・エアハルトとの婚約を破棄させていただく。
理由はアーク・ヴェルナー侯爵令息の数々の不貞行為。
ヴェルナー侯爵令息の不貞が原因での婚約破棄ゆえ、エアハルト伯爵家はヴェルナー侯爵家にそれ相応の慰謝料を請求する。
それから我が家がヴェルナー侯爵家に貸していた金も耳を揃えて返してもらうので覚悟しておくように」
エアハルト伯爵が僕の父を睨みつけ、温度のない声で言い放つ。
「伯爵風情が偉そうに!
ブルーナのような頭でっかちで説教ばかりしてくる可愛げのない女、こっちから願い下げだ!
……ごひっ!」
エアハルト伯爵にたんかを切ったら、父に頭を抑えられ床に額をこすりつけられた。
「痛いですよ!
何するんですか父上!」
「黙れ馬鹿者!
エアハルト伯爵息子にはよく言って聞かせます!
どうか今一度チャンスを!
今エアハルト家に手を引かれては我が家は……!
アークお前も謝罪しろ!」
「ごふっ! がはっ! 痛いっ!
止めてください父上!」
僕は父に頭を捕まれ床に何度も頭を打ち付けられた。
「ヴェルナー侯爵、ご子息を教育するならもっと早くにするべきでしたね。
アークは七年間、娘がどれだけ言っても行いを改めなかった。
しかも婚約者の父親である私にもこの態度だ……今さら再教育したところで、どうにかなるとは思えませんね」
エアハルト伯爵はそう冷たく言い放つと、席を立った。
ブルーナと弁護士も伯爵と同じタイミングで椅子から腰を上げた。
「ああそれから、これからは他人になるので借金の返済が滞ったときはきっちり利息をいただきますからね」
エアハルト伯爵はそう言い残し、娘と弁護士を連れて部屋を出て行った。
「侯爵家の当主である父上がこんなに謝ったのにあの態度!
エアハルト伯爵の思い上がりは目に余る!
父上、あんな奴とはこっちから絶縁してやりましょう」
「黙れ愚か者!
エアハルト伯爵に事業から手を引かれたら我が家は終わりだ!」
父上が拳を握りしめ振り上げる。
「止めてください父上っ!
顔は、顔だけは殴らないでください!」
「うるさい!
この顔だけしか取り柄のない鳥頭の馬鹿息子が!
あれだけブルーナを大事にしろ、浮気をするなと言って聞かせたのに!」
父上が僕の背中をポカポカと叩く。
「痛っ……! やめっ! 叩かないで!」
このままでは僕の美しい顔に傷がついてしまう! 逃げなくては!
「僕のこのパーフェクトな顔さえあれば、公爵家の令嬢だろうが王族様だろうが簡単に縁を結べますよ!
たかが伯爵家の令嬢に婚約を破棄されたぐらいでそんなに怒らないでください!」
「このうつけ者!」
父が顔を真っ赤にし、ついに
このままここにいたら父に何をされるかわからない。
「あーーもううるさいなっ!
気晴らしに遊びに行ってきます!」
杖を振り上げた父上を突き飛ばし、僕は部屋を飛び出した。
「待て! アーク!
戻ってこい!」
父が怒鳴っているが無視し、僕は建物を飛び出し馬車がある小屋に向かった。
馬車に乗り込み御者に行きつけのレストラン「バッケン」に行くように指示を出した。
エアハルト伯爵と父に怒られて腹が空いてしまったからな、まずはレストランで腹ごしらえだ。
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