第30話 王の立場と親の立場
吹っかけた要求を丸投げした謁見のあと、わたしは一人別の応接間に案内された。
「こちらで少々お待ち下さい」
紅茶と茶菓子をだすと、一礼してメイドさんが退室する。
「あ、美味しい······」
一口飲んでみると、いつも城で出されるのと違う香りと味わいが舌を楽しませた。メイドの紅茶入れの技術もかなりのものだと感じた。
そのまま高そうな紅茶と茶菓子を楽しんでいると、扉の外から声がかかった。
「はい」
「失礼します。国王陛下がお越しになりました」
「·····!?!?」
え、なんで?なんで国王が来てるの!?
わたしは用事はないんですけど!?
というか聞いてない!!
慌ててキッチリ身だしなみを整える。
「だまし討ちのような真似をしてすまぬなシルトフォード姫王」
「いえ、元々押しかけたのはこちらですから」
ほんとにね!!と言いたくなるのを我慢して、なんとか返す。
若干、顔が引きつってしまったのは見逃してほしい。
「私ははじめましてね。王妃のローゼマリー・フィン・ファルサスです。よろしくね」
「は、はい。シオリ・スメラギ・フィン・シルトフォードと申します。以後、よろしくお願いします」
ヒョコ、と王様の後ろから現れた王妃様が自己紹介してきた。そういえば、さっきはいなかったような·····?
「ここ最近、暗殺を警戒して、公的な場には二人で出ないことにしているの。こういう王宮の奥まったところなら、警備も分厚くて安全なのだけれどね」
「ああ、なるほど。そういう理由でしたか」
公爵派が王太子と王女を殺ったと思って、大胆にも暗殺を試みていたらしい。
まあ、どんなのであろうとも生きているということは、それを全て跳ね除けたということだし心配無さそうだ。
それに、二人が戻ってきたことだし、ある程度は一時的にでも沈静化するはず。
「それでは改めて。ヴィルとエフィーを無事に届けてくれたこと、誠に感謝する」
「顔を上げてくださいベルトラム王。わたしはたまたま漂流していたお二人を見つけて保護しただけですよ。そこまで礼を言われるほどのことはしていませんよ」
事実、二人を見つけたのはリグルスだし、世話をしていたのも彼だ。私がやったことといえば、たまにお茶を飲みに行ったことと、支援をした程度。半分以上はわたしの手柄じゃない。
「それでも助けて下さったのは確か。これは正当な報酬だ。それにこれは親としてと言うのもある」
「ですから、どうか受け取ってほしいのです」
「そういうことなら」
わたしがうなずくとベルトラム王がよし、とうなずいた。
いつの間にか現れた執事が箱を机においた。
······いつの間に近づかれたのかわからなかったんだけど。
地味に戦慄する。暗殺者かなにかなのかな?
「どうぞ」
開けてもらった箱を見ると入っていたのはイヤリングだった。
ーーーーーーーーーー
天玉の耳飾り
・感覚鋭敏化
・風聞き
・気配遮断
・精霊の加護
ーーーーーーーーーー
いや強っ!?
これはもしかしなくても国宝級の代物でしょ!!
流石にこれは報酬として過剰すぎない?
「ベルトラム王。このような素晴らしいものは流石に·····」
「この程度は受け取ってもらわねばならぬ。どのみちこれを使う予定の者はいないのだし、宝物庫の肥やしにしておくより、使ってくれたほうがありがたい」
「·····わかりました。ありがたく使わせていただきます」
「ぜひそうしてくれ」
取り敢えず一段落着いたようなので紅茶を一口飲み、一息をつく。
「ところでモノは相談なのだが」
「?」
おもむろに口を開いたベルトラム王になんだろうと耳を傾ける。
「ヴィルフリートの嫁に来るつもりはないか?」
「····!?ーーーんぐっ、ケホッ、ケホッ、ケホッ。べ、ベルトラム王?い、いき、いきなり何を」
あまりにも唐突にパスされた爆弾発言に、一瞬の思考停止の後に理解すると同時に、飲んでいた紅茶を吹き出しそうになった。
なんとか王の前で醜態をさらさないように吹き出すのは意地でも抑えたけれど、流石にむせた。
い、意図が、全くわからない。
「いや何。ヴィルフリートのやつめ、帰ってきてからずっと姫王のことばかりでな。エフィーリアとも仲がいいみたいだし、どうかと思ってな」
「あの子は何があっても仕事仕事で、いつまで経っても婚約者を連れてこないの。このままじゃ良い条件の令嬢はみんな売れきっちゃうわ」
「あーーー、まあ、はい。そうでしょうね·····」
それに関しては全面的に同意する。ファルサスに帰ってきたとき、普通の人間なら帰ってこれた安心感で多少は気が緩むはず。けれど、彼は気が緩むどころか、馬車での移動中も溜まっていた書類の決裁を行うというワーカホリックっぷり。
もはや完全に病気だろう。
「あなたなら、いけるかなって思って」
もうなんかベルトラム王と王妃が可哀想だ。今までずっと色々と手を尽くしてきただろうに。でもあのルックスなら、いくらでも女の方から寄ってきそうなんだけれど。なんでだろう·····?
そう聞いてみたらーーー
「そんなのは頭のゆるい女しかいないだろう」
「愛人枠にはいいでしょうけど、王妃にはちょっと····ねえ?」
散々な言われようだった。
まあ、大体はあってそうだけどね。顔と地位と金を持っている王子様なんて、狙わない理由なんて逆に殆ど無いだろうし。
やっぱり、愛って必要だよね。ベルトラム王と王妃も仲がいいみたいだし。これも一種の理想だと思う。
「で、どうかしら」
「すいません。わたしはちょっと·····」
別にヴィルフリートが嫌いというわけではないけど、恋愛対象として見れるかと言われれば答えはNO。
わたしたちはあくまでも友達だし、何よりエルメダがいるからね。横槍なんか入れて仲が悪くなるのは嫌だ。女の嫉妬は怖いし。
「それは残念だな」
「ですが、今、エフィーリア殿下と共にある計画を練ってまして」
計画と聞いて二人が期待の目をする。
どれだけ切羽詰まっているんだろうか。
「ほう、エフィーリアとか。それで、計画というのは?」
「それはですねーーーー」
ヴィルフリートとエルメダをくっつける計画を二人に打ち明けた。
「なるほど、エルメダ嬢か」
「あの子なら信頼できそうですし、いいんじゃないかと思いますよ」
「うむ。我らもそれに協力しよう。どのみちこれ以上の良策はあるまい。せめて伴侶ぐらいは良い相手を当ててやりたい」
「ありがとうございます!」
よっし。かなり心強い味方ができた。これなら根回しも簡単にいきそう。
2カ国の王が包囲網を引いたんだし、本人たちの問題を除けば、ほぼ問題は無い。
·····まあその本人の問題か一番厄介なんだけどね。
このあと、少し雑談に講じて、結構実りのあった話し合いはお開きとなった。
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