第28話 王都到着
「長閑ねぇ~」
「そうね~」
あれから7日経っていた。
現在は王都に向かって移動中です。
あの後食堂に戻ると、なんかキノコでも頭から生やしそうなほどにどんよりとした雰囲気を纏った王太子様の姿に、「一体何があったの!?」と、三人で突っ込むことになった。
理由が、仲間外れにされたからというしょうもないものだったので、後でエフィーに「余計なことで心配させないで」と叱られていて、さらに落ち込んでいた。
あれがトドメになっていたのを多分エフィーはわかってないと思う。
わかってやってたら魔王かなにかだよ。
無自覚って怖い。
「この馬車って揺れが少なくていいね。サスペンションみたいなのでも使っているのかな?」
「さすぺんしょん····って何かしら」
「揺れを少なくするための物。この馬車には付けてないの?」
「揺れを抑えるのは魔導抑震器ね」
魔導抑震器、と口の中で繰り返す。
わざわざ普通に物理でどうにかなるものを魔導具で再現するなんて。その分むっちゃ値が張りそう。
そう思って金額を聞いてみると一組驚きの、金貨1000枚(日本円で一億円)らしい。
もはや、一つの部品の値段じゃなくない?普通に家を一軒買えるし。
今のわたしの総資産から見れば、1000万分の1にもならないけれど、とてもではないけれど個人が気軽に買えるようなものじゃない。
普及させるには、値段から下げないとねぇ。
つらつらとそんな事を考えていると、エルメダがひょこっと顔を出してきた。
「どうかしましたの?何やら考え込んでいたみたいですけれど」
「ああ、ごめんごめん。ちょっとこの魔導抑震器を普及できないかなぁ、と思って」
「そうでしたの」
エルメダとはこの移動中にかなり仲良くなった。好きなものとか、苦手なものとかどんな魔法を使えるのかとか色々なことを話したりした。この旅の間に、同じ部屋で寝泊まりするぐらいには。
にしても、好きなものは何かと聞いたときに、ヴィルフリートを言ったのはすごく可愛かった。その後、自爆したことに気づいて顔を真っ赤にするのは、もうなんていうか殺人的な可愛さだった。
普段のキリリとしたすこしキツそうな顔はギャップが凄い。
「シオリ、エルメダ。ほら王都が見えてきたわよ」
その声にわたしとエルメダが窓の外に目を向けると、遠くの方に白い重厚な城壁が見えていた。
「大きい·····どうやって作ったのかな?」
その実用的な雰囲気に圧倒されてつぶやくと、エフィーが呆れたように言った。
「それは魔法に決まっているでしょう。人が人力であんなのを作ってたら、数十年はかかるわよ」
「まあ、確かに」
重機もないこの世界で魔法を使わずにあれを建てるとなると確かにそうなる。
しかし、あれを作ったのが魔法だとしても、どうやって作ったんだろうな。あの規模の壁を作る魔法ともなると、とんでもない量の膨大な魔力が必要となるし、あの外観も作ったのなら、凄まじい魔力操作能力も必要になるはず。それに恐らく<保存>の魔法がかかってそうだし、その維持もとなると·······
う〜んと頭をひねる。わたしならいくつかに壁を分ければいけるかもしれない。
「また難しい顔をしてますわ」
「あ、また考え込んじゃってたかー。」
「次は何を考えていたんですの?」
「ん〜、あの壁を作れないかなって。魔力的にちょっとギリギリだけど頑張ればいけそうかなぁ。問題はデザインだけど、それは後付でいいし。でも、あの<保存>の魔法だけがよくわからないの」
シン、となったのでどうかしたのかと顔を上げると、呆れたようなエフィーと絶句しているエルメダが見えた。
「相変わらずめちゃくちゃなことを考えるわね。あれは当時の宮廷魔導師たちが20年以上の準備期間と、国家予算100年分という莫大な資金をかけて作り上げたものよ。本当ならもう作ることは不可能な、失伝魔法の一種なの」
失伝魔法とは、何らかの理由によって消失した魔法のことで、その中には禁呪や生贄魔法も含まれる。失伝した理由は大まかに分けて3つで、当時の権力者の都合、偶発的な出来事による継承者及び資料の消滅、禁忌として長らく封印し続けられたもの。
これの場合は恐らく、2つ目に該当するらしい。
ちなみにわたしの<転移>も失伝魔法の一つになってる。
「も、もう意味がわかりませんわ!あれは国中の魔法学者が解析すら殆どできていない、王国最大の魔法分野の謎と言われるものですのよ。それをこんな短時間でなんて······」
「これがシオリです。早く慣れないと心臓が持ちませんよ」
「それはもはやただの思考放棄では······?」
「そうでもないといちいち驚いていたら、本当に死にかねないわ。早く慣れるのが一番楽で確実よ?」
完全に何かを悟ったかのようなエフィーに、エルメダがゴクリと喉を鳴らす。
わたしが、「人をびっくり箱みたいに言うな!」と抗議したけれど聞こえていないとばかりにアッサリと流されてしまった。
二人で意気投合?しているのを尻目にプリプリと怒っていると、周囲の喧騒が大きくなった。
窓から見ると威圧感のある門が目の前にまで迫っていた。
「やっぱりこれ、戦争を前提に作られてるし、かなり古そう。他にも古代の遺物みたいなのありそう」
自由時間が取れるようになったら王都近辺を探索でもしてみようかな。もしかしたら遺跡とかが見つかるかも。異世界の古代文明とか面白そうだし、探索ってロマンの一つだよね。
あ、もしかしたらダンジョンとかもあるかも!皇国に帰ったら探して攻略してみようか。
さすがファンタジー世界。夢と希望で満ちてるねぇ〜。
「おおお!すごい人の数。うちの皇都といい勝負してるなぁ」
やっぱりこれだけの数の熱気は凄い。市場も栄えているし、ちらりと見える裏路地の方もスラム化しているようには見えないし、無茶苦茶汚い場所というわけでもないみたい。
わたしがその事を聞くと、どうやら三年前にヴィルフリートが作った法律で一気にスラムの衛生環境は良くなったらしい。疫病を防ぐとかの観点から見ると素晴らしい成果を上げていると言える。
「みんな楽しそうに笑ってる」
国民には統治者の性格がよく出る。暴君であれば顔色をうかがうし、圧政者なら貧しくなる。国民の豊かなこの国は、少なくとも王が愚物ではないということだろうな。
「当たり前よ。笑って過ごせる国になるように、お父様とお兄様はずっと努力を続けてこられたのですから」
その言葉にはその姿を見続けたものにしか出せないような重みが感じられた。事実、その努力の結果が今のこれなんだから、確かに実を結んでいるって言える。
「さて·····国王陛下は一体どんなのかなぁ」
王城に入っていく馬車の中で、わたしは誰に聴かせるでもなく呟いた。
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