第12話 意外に長期休暇って暇するよね~って時に急用が入る事ってない?
夏休み中盤。一応暇にならない様に学校内の雑用をしつつ、プルメリアは倉庫での運搬女王とか言われ始めた頃。明日辺りデートでもしよう。って事でプルメリアを誘った。
まぁ、その後にテンションが上がって、襲われたんだけどね。
そして良い感じで盛り上がってきました、って時にドアがノックされ、お互いに見つめ合ってため息を吐いた。
「はい。なんでしょうか?」
「お楽しみ中のところ悪かったわね。ちょっと急用で、貴方の知恵を貸して欲しいのよ」
ドアを開けたら学園長が立っていた。なんか頑丈そうな卒業証書みたいなのが入ってるような筒を持って。
「ソレに関係あります? 中の雰囲気を察しても中断するくらいに」
「えぇ、物凄く。ってか真っ昼間から盛るな。夜中にしろ、夜中に」
そう言われて筒を渡されたので、ポンッと開けて中を確認すると古代文字やら魔法陣の写しと思われる物が描いてあった。
「こういうのが古代の遺跡型のダンジョンの壁の奥から出てきたから、解読できる人を早急に探して欲しい、もしくは知らないか? って知り合いの使い魔が来たんだけど……。得意よね? 教師時代にちょっと私用で頼んだ事もあるし」
得意よね? って言われても、なんで決めつけてくるんだ? まぁ、暇だからある程度かじってるけどさ。
「んー、多分だけど五百年くらい前の時代に流行った崩しに、東の方の癖も入ってんなー。鏡文字も所々ある。これは上下逆のタイプだな……。癖しかないな……。えーっと、この奥に進みたければ、
俺はそう言って紙を丸めて筒に戻し、学園長に渡してドアを閉めようとしたら、つま先を突っ込まれて阻止された。
「なに簡単に読んでんのよ! 嫌味か!」
「いやー。この手の解読って暇な時にやってたんで、このタイプの文字なら読めますよ? ってか俺は学園長みたいに、魔法だけやってた訳じゃないんで。広く浅くって奴です。ってか五百年前だったら、古代に足突っ込んですらいませんよ?」
ってか、怪盗セクシーバインバインってすげぇ名前だな。全裸強盗で胸しか見てなくて、顔を覚えてないってのと同じ系統な気がする。
「そんなの知らないわよ。馬車を用意するから、明日向かってちょうだい!」
「明日デートなんですが?」
「遺跡デートしなさい」
「魔物が勝手に住み着いてる、遺跡型のダンジョンですよね?」
「防壁から馬車で半日のところにある、初心者が散々お世話になってる場所だから討伐されてて安全よ」
「言いたい事はそうじゃないんですよ……」
知ってる。俺も何回かそこに行ったし。
「別に私はかまわないよー? 初めて行く場所だし、少しくらい薄暗くても見えるし」
学園長のお願いを断ろうとしていたのに、プルメリアが同意してしまった。
「ダンジョンコアが存在しないから、死骸が吸収されないでそのまま。腐って空気がよどんでる事が多いんだぞ?」
「お偉いさんの許可があって、五年くらい前に天井に穴開けて空気の流れはあるから、そこまで酷くないわよ? それと早急にって言ったでしょ?」
どうしても行かせたいらしい。諦めよう。プルメリアも良いって言ってるしな。
「わかりました。ある程度好きにさせて良いって一筆書いてください。それが最低条件です」
「……わかったわ。明日の朝までに用意しておくから、学園から出る馬車で向かってちょうだい。あ、続けて良いわよ」
そう言って学園長は、つま先をどけてドアを閉めた。
「続ける気分じゃないよな?」
「まぁね……」
「報酬の件を話し忘れたわ。まぁ、あの学園長に貸しが作れるなら良いか」
そう呟いてため息を吐きながらベッドに座ったら、プルメリアが押し倒してきたがそれ以上何もなくお昼寝になった。
まぁ、夜はガッツリありましたけどね!
◇
「これが私のサイン入りの、昨日言われた一筆ありの手紙よ。調査期限というか、貸し出し期間は長期休暇が終わるまでだから。お風呂とか食事は向こうの人達に頼って。あ、言い忘れてたけど、遺跡の中は殲滅されてるって事は昨日言ったけど、一般人立ち入り禁止になってるし、出た物は国の所有物だから」
「冒険者が先に開けない限り、国の所有物になるのは知ってますよ」
そう言って馬車に乗り込み、プルメリアの手を掴んでエスコートらしい事もしておいた。
レイブンは屋根の上だし、ムーンシャインはまたお留守番だ。今度どこか遠出してやるか……。
□
「見事に洞窟だねー。大昔に地震とかでできた崖?」
「そうだな。層が綺麗にでてるから多分地震じゃないか? で、中が切り開かれてて、遺跡風になってるんだよ。この間のダンジョンと同じ様な感じになってるんじゃないか? 来たのは結構前だし、魔物とか冒険者に荒らされてなければだけど」
馬車が止まり、なんか柵が厳重すぎる切れ目の、出入り口になってる場所の前で降りて二人で洞窟を見る。
「なんか警備の人がずっとこっちを見てるんだけど」
「そう言うのは、聞こえない様に言わないと睨まれるぞ」
そんな事を言っていたら、横にあった大型テントの中からメガネをかけ、土埃で汚れまくった二十代後半に見える、ショートボブの女性が近寄ってきた。
髪の毛は汚れてキシキシしてそうだし、服は汚れても良い露出の少ない奴を着ている。もう三日くらい着てそう。
「シナモンさんの紹介で来て下さった、その手の知識が豊富なエルフさんですか?」
あーあ、今まで学園長としか言ってなかったのに、こんな所で名前がプルメリアにばれたぞ?
「そうだ。これはシナモンさんからの手紙になってる。確認してくれ」
俺は女性に手紙を渡すと、封蝋を雑に取って中を確認している。
「自己紹介がまだでしたね。カルミアと言います。今日から夏の長期休暇が終わるまで、よろしくお願いします」
「ルークだ。こっちはプルメリア。プルメリアの方は見学って形だが、許して欲しい」
「中の物を壊さなければ、自由に見ていただいて結構ですよ。では行きましょうか!」
カルミアさんは行き詰まっていたのか、俺達にお茶も出さずに早速警備の人を無視して洞窟の中に入っていった。
「入っても良いんだよね?」
「良いんじゃないか? 良いんですよね?」
俺は警備の人に一応確認はとる。思いこみで入って止められたら気分悪いし。
「はい。カルミア女史との会話は聞こえていましたので、どうぞお通り下さい。今来客用の証明書を作りますので、一度出てくる頃には好きに入れる様になるかと思います。ですがお連れの方は、貴方と一緒ではないと入れないと思いますので、ご了承下さい」
「わかりました。では失礼します」
ふむ。丁寧で良い人だな。好感が持てる。ちなみにレイブンはさっさと森の方に飛んで行き、声がし始めたので情報交換か、世間話しでもしているんだろう。
「じゃ、入るか。一応言うけどその辺を触るなよ?」
「わかってるって。けどさ、今まで魔物が住んでて、冒険者が討伐とかでボコボコやってたのに、急に現場の保存? とかっておかしな話だよね」
俺達は歩きながら話し、洞窟に入ると魔道具のランプが壁際に置いてあり、暗いと感じる事はなかった。
「言ってやるな。どこでもそんなもんだ。もう貴重な物はないかなー? 調べつくしたかなー? ってなってても、新たな発見があって、それが貴重な物だとまたこういう風になっちゃうもんなんだよ」
「そっすかー。古いお宝だしねぇ、仕方ないかー」
プルメリアはきょろきょろと辺りを見回しながら、学園ダンジョンで入った感じの作りの壁を見ながら歩いている。
観光地だったら順路とか書いてありそうな雰囲気だし、こんなもんだろう。
「あ、壁に血がべったり」
「この辺で魔物でも切ったんだろ」
そんな事を言いながら進むとカルミア女史が立っており、さっさと来い的な感じで手を招いていた。
「鈍器系を持った冒険者が、壁に魔物を叩きつけたら崩れまして、新たな道が発見されたんですよ。で、どうにもならなかったから私達が来たって訳です」
「遺跡あるあるですなぁー。わかりやすいのは偽物だったりって感じで」
「ですねー。王都の近くなので、調べ尽くしてたと思ったんですけど。貴重な文献にも載ってないとか良くあるので、仕方ないですけどね」
盗掘予防だったり、長い月日で別な入り口が埋まってたり、そこの文明が滅んじゃってたりで。地球でもあったしなー。ピラミッドとか?
ってか二人とも良い雰囲気じゃない? プルメリアってなんだかんだで知識もあるしな。こういう事で話せる同性がいる事が嬉しいんだろうか?
「ここです。シナモンさんの手紙に翻訳された文章と、直ぐに読んだって事が書いてあったんで、壁の文字を読んでもらって良いですか?」
カルミア女史は壁の方を手の平で指したが、近くのテーブルにはやけに分厚い本や紙の束が散乱していた。
きっと同じ文字を探して、地味に翻訳していたんだろう。そして魔法陣は思っていたより大きく、直径一メートル程度のが視線の先にあり、周りには古代文字で数字が書いてあった。これは写しにはなかったな。数字だから読めたのか?
「比較的遺跡としては新しいな。多分古代遺跡をガワとして使って、横道作っただけっぽい? 手紙になかったやつで良いな? あー……。注意、無理矢理開けると中身が吹き飛ぶぞ。暗証番号は五回間違えると永久に開かないぞ。一回成功すると回数は元に戻るぞ。ってか、壁に残す文字の最後にハートとか星のマークを使うなよ」
俺は指をさしながら赤で強調された部分を読み、少し頭を押さえる。
「セクシーバインバインは、普段は人をおちょくるのが好きな怪盗だったと記憶してます。なのでこんな感じなのかも?」
「古い文字には興味はあったが、人や物にはまったく興味なかったしなぁ。何年前の怪盗なんだ?」
「約五百十年前です。捕まった時は、散々おちょくった国の英雄に怒られたとか。その後改心して結婚したとか言われてます」
「なんだそりゃ。どこの物語だよ。って事は、ここは吐かなかったって事だな」
わからせ展開ではなかったようだ。散々同一人物を馬鹿にして、最後はそういう展開の物語もあったし。もちろん地球の日本にも。
「多分そうでしょうね。楽しんで盗ってたとか、全て保管状態が良くて、盗った場所や持ち主の名前まで書いてあり、無事に持ち主に戻ったって文献にありますし」
「半分遊びか。その英雄の事が途中で好きになったから、かまって欲しかったんだろう」
俺は目に入った文献や資料の中にあった、開いてある本になんとなく目を通したら日記帳だった。
今日はクソ雑魚英雄君にいっぱい愛してもらっちゃった。もちろん少しの失敗で、沢山馬鹿にしたからその日はその分回数が多かったの。
その目に入った一文を読んで、盛大にため息を吐く。
わからせ展開だったし、わからせ物だったわ。良い趣味してるよ……二人ともな。
さらに日記を適当に読み、捕まった時だけ途中に日付が書いてあったので、一応記憶しておく。だって他に日付とか一切ないし。
「それは別な場所で見つかった日記ですね。全部古代文字なので、まだ全て解読できてませんが、一応ヒントになるかと思って置いてあります」
「そうっすか……」
俺は魔法陣に手を当て中をレントゲン感覚で透視してみるが、ダイヤルロック式の金庫や、ダイヤル式南京錠の様な構造だったので、指をさしながら穴の位置を確認した。
ふむ。捕まった日と同じとか、わかりやすすぎる。暗証番号雑に隠しすぎ。
そして魔法陣の縁に指を当て、あえて暗証番号を書かずに縁を回す様に数字の数だけ左右に回す。
そして魔法陣が光り出し、ゴツゴツした岩肌が引っ込んで平らになって上がっていった。多分暗証番号を入れると、勝手に回って開くんだろうなぁ。
「ちょっと! なに勝手に変な事してるんですか! ってか開けるの早っ! うぅ……考古学者としての威厳が……」
カルミア女史は壁に手を付き、うなだれていた。かなり俺の行動が悔しかったんだろう。
「すまない。暗証番号が合っている確証がなかったから、ちょっと抜け道を使わせてもらった」
「これだから妙に博識で、魔法の得意なエルフは! 私達みたいな学者の積み上げてきた研究を一瞬で解決しやがって! 滅茶苦茶ありがとうございます!」
罵倒されているのか、感謝されているのかわからないな。
「閉じるか? もう一度最初からできるぞ? わからないところがあったら教えるし……」
何となく悪いと思ったので、一応提案はしてみる。
「それは後でお願いします。今は中身です!」
カルミア女史は、早歩きでテーブルの上にあったランプを持って中に入って行ってしまった。一応学者としての矜持より、中の物が気になるんだろう。
「学者って変な人が多いね」
「何年も積み上げてきた知識が、他人の一瞬で崩壊したからな。ああなるのも何となくわかる気がする。もしプルメリアが長年かけて練り上げた格闘技だけど、超才能のある、人族の若い天才に負けたらどう思う?」
「すっげー。天才っているんだなぁー。かな?」
「なら性格の問題か? 変な奴が学者になるのか、学者になって変になったか。もしくは興味がありすぎて学者になったか……」
そんな事を話しながら奥に向かうが、ランプに照らされた明かりで嫌な物が見えたので、手を横に出してプルメリアを止めた。
「これ以上入らない方がいい。引き返すぞ」
「えー。ここまで来たのにー? ちょっとくらい良いじゃん」
そう言って俺の手を無理矢理退かして部屋に入ってしまった。
「あー……。良い趣味してんじゃん……」
プルメリアがそう言ったのも仕方ない。中にはベッドがあり、棒状の少しだけ弾力がありそうな物が十数種類。
なんか角が全くないツルツルした感じの菱形風の物。これは太さも大きさも長さも色々だ。
長さが六十センチ以上ありそうなそれなりの太さで、ビヨンビヨンするくらい柔らかな素材でツルツルした物や、ミミズの様な感じの物。
なんか柔らかそうでプニプニの筒状の物十数種類、そして大量に保存してあったであろう
首輪や手枷、足枷に数種類の張り付け台。鞭や蝋燭も何種類かある。部屋の隅には排水溝設備がしっかりした、風呂やシャワー、トイレまで完備してある。ってかアレっておまるだよな?
何に使うか全部わかるのは、何となく敗北した気分だ。
「無理矢理開けたら全部吹き飛ぶのも納得だ。これが国の所有物になるのはある意味汚点? 美術館に飾る訳にもいかないし……秘宝館行き? ま、二人でずっと仲良くやっていた証拠だな」
「ヤってたの間違いでしょ」
「仲良くないと、こんなに立派な設備作んないだろ。ってか保存状態良すぎだろ。ってか処分しろよ。二人で仲良くお出かけ中に亡くなったか?」
さっきから反応のないカルミア女史の方を見ると、手袋を填めてじっくりと棒状の物を観察していた。
綺麗にはなっているが、他人が使った物をそこまでマジマジみるのはどうかと思う。
「子宝祈願の物でも集めていたんでしょうか? 世界各地の遺跡には、男性器や女性器を象った物が祭られていますし……。子供がいた記録はないのでもしかしたら……」
ないない。それはない。絶対ヤり部屋だって。
「む。これは何でしょう? 物凄くなめらかな金属製で、小指より細くて球体の物が連なってますね……。はっ! そんな事より開いた事を報告してこなければ! ちょっとコレ持って行きますね! 他は触らないで下さいね!」
そう言ってカルミア女史は、棒状の物と小指より細い物を持って走っていってしまった。
言われなくても触らないって……。
「二刀流の変態だー。そして動揺が同僚を襲う」
プルメリアは棒読みで言っている。まぁ、確かに男女両方に使える物だけどさ。
「最悪男性の同僚の誰かと、子供ができる可能性が高いな。そう考えると、子宝的な考えは合っていると言える」
「なんだかんだであの人は可愛い系だし、研究一筋で身だしなみなんか二の次的な感じだけど、多分人気あると思うよ。警備の人が目で追ってたし」
「確かに見てたな。女性の少ない職場? 現場だし、どのくらいここにいるのかわからないから、多少は気になるんじゃなないか?」
「まぁ、男ってそんなもんだって聞いてるし」
「……まぁな」
ヤり部屋に残された俺達だが、一応それらしい雰囲気には一切ならずに見学している。
「これは……首と手首を固定して、腰を曲げた状態で?」
「だな。そうすると丁度良い高さになるんだろ? 後は道具でも本物でも」
「アレって長すぎない?」
プルメリアは長さが六十センチくらいある物を指さしたが、何に使うのかわからないみたいだ。
「知らなくて良い。むしろ知るな」
「その言い方は知ってるね? なんで教えてくれないの?」
「使いたくもないし、使われたくないから」
「……わかった。聞かない」
「良い子だ」
そんな事を話していたら足音がし始めたので、カルミア女史が戻ってきたようだ。
「見て下さい。子供がいないから、隠し部屋に子宝祈願の物がこんなに沢山!」
部屋に入ってきて手を広げる様に、色々な物を見て! ってな感じでやっているが、数人の男性が気まずそうだった。
「保存状態がいいな。全く劣化していない。集めた宝の保存はしっかりしていたから、状態保存の魔法でもかけられているのだろうか?」
「色々解析すれば、落としても叩きつけても物が壊れない魔法が――」
「いや、もしかしたらこの部屋全体かもしれないぞ? 生命以外なのが残念だ」
「時間停止系なら、不老不死の魔法の解明に!?」
数人は真面目に話しているが、ここがヤり部屋って事を無視しているのか、研究者としての血が騒いでそういう風に見ていないかだな。
「おい。ここって……」
「あぁ、どう見ても……なぁ?」
「だよなぁ……」
「なんで豚の耳がついたカチューシャがあるんだよ……。あ、尻尾も……」
気まずそうにしてた方は、俺達と同じ考えらしい。普通はそう思う方が強いよね?
「貴方が古代文字を解明して、ここを開けてくれたルークさんですね。ありがとうございます。我々はさっきまで休んでいた分がっつり調べますので、テントの中にいる雑用に、夕食や風呂を頼んで下さい。おもてなしできずに申し訳ありません」
そう言って頭頂部に髪のない男性が、良い笑顔で持っていた棒状の物を目線の高さまで上げ、良い笑顔でベッドの方に戻って行った。
やばい。もう変態にしか見えねぇ。あんな物持って笑顔で言えるか? セクシーバインバインを研究しているのか、古いお宝を研究してたんじゃないのか? 古けりゃ何でも良いのか?
ってか、古代文字の解読方法を教えて欲しいとか、それの翻訳しなくて良いの? 開けば関係ない?
「んー。良い意味で研究熱心。悪い意味で研究馬鹿……。あんな物でも研究対象になるんだね」
「だろうな。その土地の歴史とか風土、時代時代による風俗? 習俗? は立派な研究対象だ。古代文字ていうより、それが劣化せずにそのまま残ってた魔法の方が大切って思ってるのか、その時代にもこんな物があったっていう歴史にはなる。ツルツルに磨いた石の奴も、もっと古い遺跡から見つかってるしな。エロは時代や万国、種族問わずに共通だぞ」
「で、この人達は歴史の方? 魔法系の方? それともただ国から派遣されて、開錠しようと頑張ってただけ?」
「広く浅くで、国益に繋がりそうならなんでも。じゃないかな? テントに戻ろう。この時間に帰っても、城壁の門が閉まるからどのみち帰れない」
俺はプルメリアの肩を叩き、通路まで出てテントに入った。
□
「んーお風呂とか言ってたけど……。木に吊った容器に、穴開けただけのシャワーじゃん」
夕食を終え、お風呂の準備ができたと雑用さんに言われたので、案内された場所に来てみたら、汚れない様にスノコみたいなものが敷いてあり、目隠しとして板が木の周りを覆っていただけだった。
ちなみに夕食は、その辺に生えている野草たっぷりのスープとパンだった。
野草の癖の強さとか、お互いに主張しない程度に整えられてて美味しかった。長年野営的な感じで作り続けてないと、あの味は出せないんじゃないか? ってくらいだ。
報酬は、料理人から野草スープのコツでも良いくらいには美味しかったよ。
「コレでも、こんな所では十分に贅沢なんじゃないか?」
「まぁ、近くに水源もなさそうだし……。の割には、こんな大きな遺跡作ったの? 探せば井戸の形跡でも見つかりそう。廃れた理由って、水脈でも変わったのかな?」
プルメリアは服を脱いだのか、目隠し用の木の板に服をかけていた。俺は板の外で見張り中です! だって凄く狭いし!
ってかプルメリアって、変に博識なところをたまに見せるんだよなぁ……。
『おいルーク。森の中に盗賊団がいるらしいぞ』
夕食に戻ってこなかったレイブンが目隠しの板の所に止まり、なんか重要そうな事をサラッと言った。
「はぁ? 何人くらいだ?」
『森のカラスの話では、沢山って言ってたぞ』
レイブンの言葉を聞き、プルメリアは脱いだ服をまた着始めていた。
「ここ数日監視してて、警備の人とか関係者とかの数でも数えて、行けるって思ったんでしょ? 遺跡型で出入り口が一ヶ所だから、警備の人も五組くらいいればここを回せるだろうし」
「そうだなぁ……。多分冒険者がギルドで話しでもしてて、怪盗の隠したお宝って情報だけ出回ったんだろう。管理が国に移ったのに、よく盗掘みたいな事をやろうと思ったな……」
「中身を知ったら、多分仲間割れが起きる程度には採算が合わないだろうねぇ……」
プルメリアがそう言いながら、着替えが終わったのか板の中から出てきた。
「だろうなぁ。絶対お宝って思ってやってきてるだろうし、山分けする人数を少なくするのに警備の倍、最低でも二十人はいるだろうな」
「妥当かな? さてさて、報告に行きますかー」
「だな。力は貸してやるけど、俺達だけで処分する義理はないし」
『ちなみに男が三で女が一くらいだった。もうこっちに向かってきてるぞ』
警備のいる方に歩き出すと、レイブンが男女比を教えてくれた。
「おもしろい編成だ。それだと女は生かして置けってならずに殲滅か、良い女と男は生かして置け。のどっちかだろ? それか盗賊に捕まった女性が、そのまま仲間になったか」
「後者だと手加減してくれるから楽っちゃ楽だけど、女盗賊団との共同作業だったら?」
「そうだなー、連携不足とか期待したいな。ちなみに後者だとこっちは本気で殺せる。だけど負けた場合は、仲間の恨みって事で酷い事になるのが多いけどな」
「一応負ける事も考えて動かないとね」
『お前達が負ける様な奴ってどんなのだ? クソデケェ空飛ぶトカゲにも勝ってただろ』
「んー。プルメリアには接近されたら勝てないだろ? それよりも強いとか聞いたおばさんにも勝てない。おじさんはバンパイアだからなんか強そう。実は母さんも実力が未知数。父さん? 本気を見た事がないが、初めて持つ弓で精密射撃するしなぁ……。意外に多いかも」
『魔物じゃないのかよ』
「頭の良い考える生物って怖いよー? 対応策とか自分の弱点を知ってて補うし」
「まぁなー。だから俺だって色々試行錯誤してるし」
話しながら歩いていたら警備の人の所に着いたので、一応報告する。
「ってな訳で、最低二十人はいるであろうと思われる盗賊団がここを狙っているし、向かってきている。俺達は一応あんた達の指揮下に入らせてもらう」
「助かります。おい! 警備主任と寝てる奴全員を叩き起こしてこい!」
警備の人はそう言って、もう一人に命令して走らせていた。
「貴方達は、カルミア女史に呼ばれた大切な客人です。多少の腕があるのでしたら、洞窟の入り口の守りをお願いします。それと中の研究員達に報告を」
そう言ってもう一人の警備の人も、走って荷物が乱雑に置かれている場所に走っていき、篝火かがりびを付ける台を持てるだけ持ってその辺に置きまくっていた。
「研究員だったんだ」
カルミア女史は考古学者って言ってたのに、その辺人の認識の違いかな?
「らしいな。さてと、俺も働くか。プルメリアはカルミア女史達に報告を頼む」
「わかった。それと私が握れるくらいの石も用意しておいて」
「はいはい。プルメリアの投石はやばいからな」
そう言って遺跡の出入り口から二十メートルくらいの所に、半円になる様に魔法で地面を二メートルくらい抉り、高さ一メートルくらいの壁を作る。簡易バリケードだ。
そして中央にちょっとした台を作って、錬金術で作った矢をその台に刺し、プルメリア用の石もドスドス落としていく。
「話は聞いた! なんだこれ! いいから私達もそちらに入れてくれ」
見た事のない猫族の男がそんな事を言ったが、多分この人が警備主任? 夏なのにモフモフしすぎじゃね? 夏毛にならねぇの? 知り合いの獣人は生え替わるぞ?
仕方がないので中央だけ一旦元に戻し、警備の人達をバリケードの中に入れる。最後に雑用の人が通ったので元に戻した。
「自分達が応戦しようと思ったのに、もう防衛拠点ができてるなんて……」
警備の人が驚いていたが、開けた場所で戦って乱戦になるより、防衛目標のある場所で戦った方が確実だしな。
「で、生かすのか? 殺すのか?」
俺は弓に弦をかけ、スタビライザーを付ける。そしてチャクラムの入っているポーチのボタンだけ外しておく。
「できれば全員生かして捕らえたいが、このままだと諦めて撤退する可能性が高いな……」
警備主任はバリケードをバシバシ叩き、堀を覗きこんでいる。
「なら数名ほど足を狙っておけば良いな?」
「伝えてきたよー。中で大人しくしてるってー」
警備主任と方針を話していたらプルメリアが戻ってきて、緩い感じで報告してくれた。
「だそうだ。最悪ダンジョン内に入って、入り口を崩せばどうにかなるだろ。で、とりあえず全員生かして捕らえたいってさ」
「なら足を狙えば良いか」
「間違えて殺すなよ?」
生かして捕らえるイコール、足を狙うってのは俺達の共通認識っぽいな。
「利き手で投げれば平気平気」
「いや、丸太を吹き飛ばしてたじゃん。足とか吹き飛んで、出血多量で死んだらどうするんだ?」
「加減はできるから」
プルメリアは足下の石を拾い、あまり物が入らなそうなポケットに詰めるだけ詰めていた。
防衛拠点を作ってから体感で十分。木々の間から盗賊団が明かりも持たずに出てきた。暗やみに紛れようと思ったんだろう。
「おい、堀と壁ができてんぞ?」
「話と違うじゃないかい!」
「それより早くしないと……ぎゃぁ! なんだこれ!」
盗賊達が何か言っている時に、とりあえず
「一人は確実に生きてるから、残りはほどほどに」
「はー……い」
プルメリアが返事をしながら投石をしたら、俺が脛を狙った盗賊の横の女性の膝が変な方向に曲がって地面に倒れた。
「男女一組。十分だね」
プルメリアはこちらを見ずに言ったが、膝に矢を受けてってレベルではないくらい酷い。だってゴム人形みたいに膝が曲がってるのなんか見た事がない。
「いでぇ! 何だいきなり!」
「あ、足が! 変な方向にぃ!」
「畜生! 一斉に取り付け! 数はこっちの方が多いんだ。女は生かしておけよ!」
「奇襲に失敗したのに、撤退って事はしないんだ……な!」
俺はまだ森の奥の方にいる、背中を向けている盗賊に矢を射ち、後ろの方の奴がこっそり逃げない様にする。
ちなみに肩やふくらはぎを狙っているが、弓が重すぎて加減しても貫いているけど、失血死してないよな? 革鎧くらい着て来いよ。
「怯むな! 弓使いは一人だ! 取り付けば怖かねぇ!」
「あいつが一応リーダーっぽいな」
「知ってて隣にいた奴狙ったくせに」
「お前も狙ってないじゃん」
作った台の上で次の矢を射りながら、プルメリアと緊張感のないやりとりをするが、壁に張り付いてる警備の人達は必死に声を出して恐怖感を払拭している様に思える。
「畜生! 二十人以上はいるぞ!」
「魔法使いがいるぞ! 詠唱を開始している! 皆伏せろ!」
知ってるし見えてる。被害は出したくないので落ち着いて魔法使いに狙いを定めるが、なんか矢を射る前に指から肘にかけてグニャグニャになっていた。絶対にプルメリアだろう。
杖みたいな物を握って前に付き出していたので、投石で肘まで全部折れたんだろうな。投石ってやっぱり凄いし怖い。それしか言えない。
「んっっしょー」
プルメリアの方を見ると左足を大きく上げ、なんか古い野球の漫画かアニメみたいな感じのフォームで、次の石を投げていた。
なんか世界を狙えそうなレベルだ。スピードも正確さも重さも。
「女の子が、スカートでそんな足を高く上げちゃはしたないぞ」
「大丈夫大丈夫。暗いから下着は見えないって」
「そうじゃないって……」
「クソが! なんでこんなに深い堀が急に用意できるんだよ!」
「槍だ! 槍を持ってる奴はこっちに来い!」
そんな感じで会話をしていたら、堀の中に数名ほど盗賊が入り込んだが、堀が深かったのと、壁の高さを一メートルくらいにしたのが原因で、お互いの剣が体や頭に届いていないみたいだ。
「深くしすぎたわ……」
「どうする? そのまま埋める?」
「あらかた堀に入ってない奴を負傷させたら、相談して決める」
俺はため息を吐きながら矢を射ちつつ、逃げだしている奴の肩を射っていく。動いている足なんか狙い辛いって。
「なんかあっけない」
「こっちは十人くらいの予定だったからだろ? むしろ被害がなかった事を喜ぼう」
未だに壁際でコントみたいに堀に下りた盗賊と、身を乗り出して剣を振っている警備の人達を見てからプルメリアと目を合わせる。
「まぁ。そうだね」
「おーい。残りはそいつ等だけだけど、殺すのか? 生かすのか?」
「はぁ? もう終わったのか!?」
そして猫の人が顔を上げると、大抵の奴が足を押さえて地面に転がっているが、数名ほどビクンビクンしている。
多分予想外の動きしをて、間違えて腹部を抜いた奴が出血多量で一番やばいだろう。なんで射る瞬間に転びそうになって跳ぶんだよ……。だから仕方がなかったんだ。
「こいつは指揮官だから、こいつだけは生かして捕らえたい。他はどうでも良い」
「おい、全滅したのか!? ちょ、ちょっと待ってくれ。なぁ、見逃してくれよ……」
「うるさい! いきなり襲いかかってきたくせに、戦況が悪くなったら逃げるのか! おまえ達も当然捕らえる。降伏するなら痛い思いしなくても済むぞ。生きてる奴は全員犯罪奴隷で、鉱山か炭坑行きだ。お前は絞首か斬首だろうがな!」
「ねぇ、面倒だから埋めちゃえば?」
「高度な交渉中だから、放って置いた方が良い」
これ以上堀に下りた盗賊の話題は面倒なので、高度なって付けたが所詮命乞いだ。ってかプルメリアはなんで生き埋めにしたがるんだ?
「そういえば、腕だけ砕いた魔法使いだけど……。あーいたいた。痛くて気絶しててくれて良かった。足は無事だから逃げられる状況なの、あいつだけだけだからね」
「俺は胴体を射った奴の様態が気になる。最悪回復魔法で傷を塞がないと死ぬし」
地面に広がる血の量が増えているので、不安になってきている。痙攣みたいなのも減ってきてるし。
「多分手遅れ。あの血の量は肝臓辺り抜けてんじゃないの?」
「そうか。俺もまだまだだな。肩とかにしとけば良かったよ」
跳んだのが悪い。という事にしておこう。
「あ、向こうも話が付いたみたい」
とりあえず盗賊のリーダーは降伏して、数人の警備さんが堀に下りて縛った後に引っ張り上げ、俺が魔法で出入り口前を全て戻し、プルメリアが中にいたカルミア女史達に報告しに行ったが、なんか俺達が戦闘中でも関係ないってな感じで色々調べていたって言ってた。
神経図太すぎじゃない? まぁいいけどさ。
ちなみにだけど死者は一名。俺が胴体を抜いた奴だけだ。こいつが死んだ事より、全員生かして捕らえたい。って条件を達成できなかった方が悲しいわ。
「頼む、助けてくれ」
「お前達は今まで同じ言葉を聞いて、助けた事があるのか?」
警備主任と盗賊が、良くするやり取りをしている。
助けてって言われて、今まで助けた事はあるのか? って奴だけど、俺も何回か言った事がある。やられる側になったらって考えた事はないのか? 俺だって命を狙われない限り、殺しは控えてるし。
盗賊側が、いいか? 絶対に殺すなよ! とか言ってる時だけだけな。今のところそういう奴会う確率は一割切ってるけど。
大抵の盗賊は殺して奪う系だしなぁ。良くあるやり取りだよなぁ。
「まぁ、俺達はシャワー浴びて寝るわ。高度な交渉頑張ってくれ」
「だねぇ。私達もう関係ないし」
それだけを言って、なぜか二人でシャワーを浴び、テントに入った。
あんな事があったから、この間みたいに興奮して襲われると思ったがそんな事はなかった。一応分別はあるみたいだ。
◇
朝になり、テントの外に出ると生きている盗賊が全員木に縛られていた。
「んー。森の中で清々しい空気を吸いたかったんだけど……。朝一で見たくない光景になってんなー」
「だねぇ……。怪我の手当も最低限で、痛いし虫が多くて寝られなかったって感じかな?」
「た、助けて……。傷口に虫が」
「いでぇ……いでぇ……」
「耳! 耳に虫ぃ!」
木に縛られている盗賊達に近づくと、そんなうめき声が聞こえた。
「戦場の朝よりマシだな。さて、さっさと朝食を食べて帰ろう」
「……うん。そうだね」
○月××日
プルメリアと午前中から良い感じになったが、いきなり寮の部屋に学園長が来て、古代文字を解読できる人を探しているらしいから俺が頼られた。
翌日には出て欲しいと言う事で、怪盗セクシーバインバインの残したお宝を手に入れるのに現地へ行く準備を始める。
○月××日
現地に着いたら速攻で古代文字の場所まで案内され、パスワードを入れろ。数回間違えたら二度と開かない。無理矢理開けると中身が吹っ飛ぶ。らしいが、透視してみたら金庫みたいな構造だったので、パスワードなしで開けたら罵られながら感謝された。
中はヤり部屋で、大人の玩具が数多くあったが劣化しておらず、現地にいた人達は早速調査を始めた。大人の玩具を手に持ちながら。
お宝という事で盗賊が集まってるとレイブンに教えられ、遺跡の出入り口にバリケードを魔法で構築し、盗賊と戦闘になったが一方的に終わった。寄せ集めの戦闘訓練をあまり積んでいない奴相手じゃ、こんなもんだよな? って感じだ。
――
この話で20万文字超えました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます