第6話 普段からしている事を皆でやるだけで疲れるけど面白い。
伏字のXは文字数に関わらず一文字です。
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「お前等。クラス内の絆を深めるのに、休み明けは校外学習って事で森に行くことになったぞ。予定は休み明け直ぐで、一泊二日を予定だ。他のクラスも行ってたから情報は入ってるだろ?」
あれから八日。今日で授業が一区切り付き、明日から休日って時にディル先生がそんな事をホームルームで報告してきた。
「用意する物は特にない。好きな物を好きなだけ持ってこい。テントとか生きるのに必要な物は全部学校で用意するけど、野生生物や魔物が出る事は頭に入れておけよ? じゃないと素手で戦う事になるからな。朝はホームルームが始まる時間に校庭に集合。以上! 解散!」
そして質問は受け付けないって雰囲気を出してさっさと終わらせて、教室から出ていってしまった。
「……好きな物を好きなだけってどうよ? 選択肢がありすぎて、逆に困るわ」
俺はそう呟き、必要な物をメモにリストアップしていく。
「ペットの持ち込みもありなんかな?」
過去に何回も校外学習って事で、学校行事って事で森に行ってるが、荷物を載せる為の歴代のムーンシャインの持ち込みは可能だったし、テントも鍋も食料も確かにあったけど、鍋を吊す三脚とか水は支給されなかったはずだ……。
何考えてんだあの先生……。魔法で水を出す? その辺の石で
「なぁルーク。お前はこの学校五回目だったよな? 過去の校外学習的にはどうだったんだ?」
カルバサが近寄ってきて俺に聞いてきたが、なんか教室中が静かになり、最前列の席から後ろを振り向くと、クラス中の視線がこっちに集まっている。
既に数回学校に通っている事は、入学三日目くらいにばれているので問題はないけど。
「よし、皆まだ帰るな。部活がある奴は遅れて行ってくれ。ルーク、黒板前で皆にちょっと説明してくれないか?」
そしてアッシュが仕切りだして、なんか説明する流れになった。
「ってな訳で、コレが過去の一年生の時の流れだ。二年生三年生の時は少し省くが、最後の校外学習の時は全て用意された物で、十日間生活する事だったから簡単になっているだけだと思う。何か聞きたい事は?」
俺は黒板に用意されるだろうと思われる一覧を書き出し、丁寧に説明をして皆に質問する。
「お風呂はどうなの?」
「もちろんない。希望者だけ各自小川で水浴びだ。毎回どこかしらのクラスで、覗きが出るから見張りは決めておけよ。それか入らないかだ」
まぁ、作ろうと思えば作れるけど、面倒な事になるから言わないでおこう。穴掘って小川から水を引き入れて、焼けた石を入れるだけだから、クラス中の女子が全員入るってなると時間がね?
「えー。なんかやだー」
「男子ぃ! 覗くんじゃないわよ!」
「覗かねぇよ!」
クラスの女子が風呂事情を聞いてきたので、現実を突きつける。そして年頃だから毎回こんなやり取りがあるのもご愛敬。
「ここを卒業したら、優先して冒険者だったり軍に入る事になるんだから、それの訓練だろ? 実際にダンジョンやら遠征中は入れない事の方が多いんだから、諦めるしかない。実際にどんどん期間は延びてくから、最初なんてこんなもんだ。他にあるか?」
「持ち込み自由っぽいけど、優秀な冒険者とか同伴させて良いのか? 親兄弟やら横のつながりとかでさ」
「過去に似た様な事をやった奴がいるが、一応学習と付くから点数が付くぞ? 協調性とか班に貢献してるとか、統率能力とか。辞書やノート、何でも持ち込み自由の古代魔法言語のテストで、スラスラ読める知人を持ち込んだ頭の良い馬鹿がいたが、過去に許可されてるから問題はない。ただ評価は下がった事は言っておく」
ドイツ語のテストで、ドイツ人連れてきたって奴をネットで見かけた事はあったけど、こっちの世界でも似たような事はあるんだなぁ……とは思ったけどな。
「ならルークはどうなんだ? お前有利すぎだろ。冒険者やってて、世界中旅してたんだろ?」
「知るか。文句は先生に言え。だからこうして説明してるんだろ」
「ってかさー、先生に説明押しつけられてね? ルークはここで教師もしてたんだろ?」
「……あり得る」
俺は人差し指と中指でチョークを挟んだまま、顎に手を置いて右の方を見て答えた。後で文句でも言っておこう。
「よし、他に質問がないならもう良いな? 休日中に必要だと思う物は買っておけ。最悪最初の校外学習だから手ぶらでも平気だと思うが、点数は本当に下がるぞ? んじゃ解散。良い休日を」
俺はチョークを置き、黒板を消さずに自分の席に戻って、今日使った教科書やペンケースを持って、プルメリアと教室を出た。
「ムーンシャインちゃんは連れて行くの?」
「んー。冒険者やってた頃のは全部持って行くつもりだから、連れて行くぞ? だからレイブンも来るだろうなぁ。二匹の食料も買わないと……」
「また買い物ができるね」
「そうだなー。荷物はあるから調味料くらいか? 本当、冒険者やってた頃の全部もってくしかないな。用意されてたら使わなければいいんだし」
そんな会話をしながら、特に部活に顔を出すことなく寮に帰り、明日必要な物のリストの確認をしておいた。
◇
休み明け。朝食を早めに終わらせて、用意した荷物を全てもって厩舎に行き、ムーンシャインに用意した荷物を全て括り付け、手綱を引いて校庭に向かう。
『軽量』
「食料がいつもより少ないからな。牛乳と氷がちょっと重いだけだ」
なんかノリ的な意味合いで、食事をちょっとだけ良い物にしてやろうと思い、牛乳とバターを持ち込んでみた。
牛乳は食堂用に牛も飼っているので朝にもらった物だし、氷は自分で出しているので多分痛まないはず。
酒を持ち込まなかっただけマシだと思ってもらおう。
「一応戦闘スタイル的に無手だけど、ナイフくらいは吊っておいた方が良いぞ?」
そしてプルメリアにナイフを渡すと、何を思ったのかムーンシャインの鐙あぶみに足をかけ、ベルトを太股に付けだした。
「セクシーじゃん」
「でしょ? いちいちスカートをめくるっていうのが、お兄ちゃんの視線を引きつけるの」
「他の男子もいるから腰に付けておけ」
そして注意をしておいた。不満なのか、唇を尖らせてふてくされていたけど、服の上から左の腰の辺りにナイフを吊っていた。
「それ、順手で抜くのか? 逆手?」
「んー。場合によってかなー? 殺しちゃ不味い場合は順手、殺す場合は逆手かな? そもそも必要ないんだけどね」
「だろうな。むしろ切ったら血で汚れそうだし。後で何かプルメリアの武器を考えておくけど、今回はクラフトナイフって事にしておけ」
そんな事を言いながら、校庭へ向かった。
「おはよう。本当にロバを連れてきたんだな」
校庭に着いたら、アッシュが軽く手を上げて挨拶をしてきた。
「あぁ。いつもこのスタイルで旅をしてたからな。食料さえあれば、この時期なら三十日は平原で過ごせる」
テントがどんなものかわかっているけど、学校で使っているボロい奴なので一応持ち込んでいる。もちろん毛布とかランプとかも。
「本格的だな。流石長年旅してた貫禄がある」
そしてカルバサも挨拶をしてきたが、俺は持っていた武器に釘付けになった。
「……それは、武器で良いんだよな?」
「あぁ。魔法を使う時の触媒用の杖だな。前にも言っただろう」
「……そうか。本当に面白い武器だな」
カルバサは笑顔で釘バットを肩に担ぎドヤ顔をしているが、優秀なこいつの事だから試行錯誤した結果なんだろう。
魔法回路の件で七パーセントどうのこうの言っていた時に、武器が
ちなみに杖を使うっていうのは、魔法回路の延長コードみたいな感じで補助的な物だ。無詠唱でも高火力が出せて、魔力に問題がなければ持つ必要は特にない。
宝石みたいな物や魔石が付いている場合は、魔力の補助タンクみたいな扱いだと思って良い。だから俺は屑魔石を袋に入れて持ち歩いている。
「おはよう」
「おはよーございますー」
そして女子組も集まってきたが、俺はマリーナの杖を二度見してしまった。握り拳くらいの魔石が付いた鉄製の杖の先に、カトラスの様な反りのある片刃のブレードとヒルト部分が斜めに溶接されていた。
まぁ、この世界の聖職者は刃物使っても問題ないけどさ、抜き身ってどうよ?
ちなみにアッシュは普通のロングソードで、ヒースはスピアだ。個性豊かな武器が俺の班に多すぎじゃね?
俺も入れると半分が個性的すぎて、チームを組んだ時に連携とか役割に支障が出そうだ。
「おし! 集まったな! んじゃ授業開始の鐘が鳴ってないけど、移動開始するぞー」
そしてディル先生が大声で言い、ゾロゾロと移動を開始した。
副担任のヨシダ先生もいるが、黙って周囲を見渡しているので既に採点は始まっているみたいだ。
□
移動を開始して約四時間、ちょうど太陽が昼の位置に来た頃には森の開けた場所に出てるが、野営をした跡が多く残っている。
こんな所で野営をするなら街に戻ると思うが、毎回校外学習用に使われている広場だ。何回も来た事がある。
「ここがベースキャンプになる広場だ。んじゃ各自荷馬車から荷物を持って、好きにして良いぞ」
「先生、説明が足りませんよ? 昼食にするのか、テントを張るのかとか、色々あるんじゃないんですか? 一応殆どの生徒は初めてですので」
「あー、確かに。テントの張り方も知らない奴もいるだろうし、飯食ってからそれだけ教える。後は夕食を作るか魔物を狩るか、好きにすればいい」
ヨシダ先生が突っ込みを入れると、ディル先生は頭をボリボリと掻きながら面倒くさそうに答えた。
いや、校外学習ってもう少しやる事あるからな? 自由にさせすぎだろ……。俺だったら、安全面やら見張りの交代、質問されたら色々答えるとか言うぞ?
ってかキャンプだコレ……。
「さて、テントはだな――」
ディル先生は説明を始めるが、自分のだけ先に張り始めている。生徒に会わせての説明じゃないの? 教師時代の俺が優しすぎたの?
「よし。各自持って行って、テントを張れ! 後は遠くに行かなければ自由! あ、忘れてた。わからない事はルークに聞け、ルークの評価は上がるけどな。あと班から一人は交代で見張りを出す様に。それは飯食ったらここに来て話し合え」
放任しすぎじゃね? クラスとの友好を深めるのが目的なんだろうけど、コレなら学校でレクリエーションの方がマシだ。
ってか俺に任せるな。ほとんど俺が引率じゃねぇか。
「張るか……」
「そうだな……」
アッシュとカルバサが、なんか俺を哀れむ感じで見ながらテントを張り始めた。俺のとは違って骨組みがあるタイプだ。ってか備品新しくなった? 俺が教師やってた頃よりかなり綺麗なんだけど?
「ならあたし達は料理か?」
「食材を持ってきますねー」
ヒースとマリーナは食材を取りに行ったので、とりあえず俺は火を起こすか……。
「んじゃ、俺達はその他諸々か……。プルメリアは薪を持ってきてくれ」
「はいはーい」
そう言って俺は、ムーンシャインから鍋用の三脚を立て、鎖を吊して鍋をかける。薪は俺だけ移動しながら集めていたので、火を起こすのなんか直ぐだ。ついでにテントも直ぐだ。
「やっぱりルークがいるとなんか違うな。薪を拾いながら歩いてた理由ってコレか」
「まぁな。その場で拾うよりは良い。けど、馬やロバがいないと重くなるから、その時の状況で動けよ? 最善の方法が最良の結果を生む訳じゃないしな」
アッシュにそれっぽい事を言いながら薪を組み、指先から魔法で【火】を出して着火し、鍋を吊して火にかけて【水】で満たしておく。
「食材持ってきたぜー」
「日持ちする物しかなかったですねー」
そしてヒースとマリーナの持っている食材を見て、まぁいつも通りだなーと思う。教師が持ってくる食材って知ってたし。
「これ、どうしましょう?」
タマネギとジャガイモ、人参や干し肉に日持ちする用に作られたパンしかなかった。
「調味料も塩だけか……」
俺はそう呟き、香辛料や調味料の入った小瓶を取り出す。
「後は任せた。俺だけがやってちゃ他の班に恨まれる。なんてったって熟練冒険者を持ち込んでるのと同じだからな」
そう言って立ち上がり、自分で持ち込んだテントを良い感じの木を見つけて張っておく。
「ルーク、ここはどうするんだ?」
「あぁ、それはだな――」
「ルーク君、これはどうすれば良いの?」
「ここをこうしてだな――」
「なんか食える肉とか狩りに行こうぜ」
「お前が主導で人を集め、人をある程度集めてからもう一度話しかけろ」
うん。やっぱり俺に聞きに来るよな……。ムーンシャインを木につなぐ暇すらねぇ……。大人しくその場で草食ってたけど。
「お昼できたってー」
「あぁ、今行く」
プルメリアに声をかけられ、自分の班のテントの場所に向かうが、ワイルドすぎる昼食が見えた。
「……作ってもらった料理に文句を言うなら食うな。を俺は常日頃心がけている」
鍋に刻んだタマネギとジャガイモ、干し肉がぶち込まれて煮ただけのスープが見える。食えなくはないし、火を通して味なんか二の次で、空腹を満たせればいいって考えのパーティーと組んだ記憶がよみがえってきた。
「が、コレには文句を言わせてもらう。誰もジャガイモの芽が毒だって事を知らなかったのか? プルメリアは絶対に知ってるよな?」
干し肉の塩分でしか味付けがされてない、透明なスープにジャガイモが見えたが、芽を取らずに皮をむいて切りました、って感じで白い部分に自己主張が激しい。茶や緑、紫の物が見える。
「一回自分で失敗しないと、覚えないと思ったから黙ってた」
俺は眉間を揉み、盛大にため息を吐いた。
「料理で普通に失敗なら問題ない。けど毒は駄目だ……」
俺は荷物の山からスコップを持ってきて穴を掘り、スープをそこに捨てて埋めた。どのみちここは学校で使う広場だし、塩害で草木が生えなくても問題はないだろう。多分。
「ジャガイモって毒があったんだな」
「初めて知りましたー」
「食事は食堂だし、実家ではコックが作ってたからな」
「傭兵団のコックが、調理場に近寄らせてくれなかったんだよ」
「この班料理に関しちゃほぼ全滅だな! プルメリアも毒の食材が入りそうなら次から言えよ!」
「はーい。まぁ、私はこのくらいの毒は平気だったけど」
「おい、小声で毒は平気とか言うな。それはお前が平気なだけだ。俺の荷物からチーズとベーコン、小麦粉とバター、牛乳を持ってきてくれ」
俺は手早くジャガイモの皮を剥き、プルメリアに指示を出して食材を持ってきてもらい、フライパンでバターと小麦粉を炒め、牛乳を入れてホワイトソースを作った。
「ジャガイモとタマネギをバター、ベーコン炒めて、水を入れてジャガイモが煮えたら最後にホワイトソースと削ったチーズ。コレでシチューだ。いいか? 間違えるなよ? ってかプルメリアは見張っててくれ。なんか目を離すと怖い事になりそうだからな。なんか魔物でも逃げそうな、緑や紫のスープにされたらたまったもんじゃない」
「ルークがやった方が早くね? なんであたし達に任せるんだ?」
「お前達の評価が下がるからだよ。ヒースはもう一度一年生をやりたいのか?」
「いや、やりたくない……」
「なら全員協力してやってくれ……。俺は見張りの順番やらを決めるのに集まっている奴等の所に行ってくる」
俺はパンを一個だけ持ち、かじりながら皆の所に向かった。
「見張りはどうする? 交代なのは確かだけど人数は?」
「結構広いから、三人くらい欲しくないか?」
「動き回った方が良いのか?」
「「「なぁ? ルーク」」」
「ハモんな。いいか? テントから森の方を見て動くな。どこから来るのかわからないなら、各班から一人交代で見張りを出せば六人だ。最悪矢で射られた時に即死しても、刺さった場所で方向がわかる。これは軍に入って、見張りをしてる時にも有効だ。本当なら二人か三人一組が望ましいけどな。それとは別に哨戒も出せば安全だな。本来ならこんな大人数じゃないが、大きな商人の護衛だと思えばいい。どうする?」
安全性が高い森だけどそれっぽい事を言い、一応今の内から意識させておいた方が今後に繋がるからな。
「俺達六人が順番に見張るんじゃなくて、班全員で順番に見張りか。本当に必要か?」
「実際この校外学習で何もしてない奴や手が空いている奴、仕事が少ない奴が出て、評価が下がる可能性がある。ここは公平にしておいた方がいいだろう。別にかまわないって言うなら、俺一人で明日の朝まで見張りもできるが、皆の評価に繋がらない。決して楽がしたいから言ってる訳じゃないが、できるなら全員で進級したいだろ?」
「そうねぇ。一応こう言う訳だからって、班の皆に話てみるわね。その後もう一回ここに集合で良いかしら?」
「良いんじゃないか? ルークもこう言ってるし、それでもやりたくない奴は放っておけば良いさ。無理にやらせて奇襲されるのも嫌だし」
「やる気のない奴にやらせても、こっちが危険だしな。それで行こう。んじゃ結論が出たらまたここに」
「そうね。それで行きましょう」
うん。なんとか良い方向にまとまってくれた。実は俺が全てやっても評価は上がらないと思うけど、皆が下がるからなぁ。
「ってな訳で、各自見張りをする順番を決めて交代制だ。で、なんでホワイトシチューが茶色いんだ?」
俺は鍋の前に戻り、報告をしている時にシチューを見たら薄い茶色だった。何があったんだ?
「焦がした。すまない……」
カルバサが、本当に申し訳なさそうに言ってきた。そして残り三人も頭を下げて謝ってきた。
「まぁ、食えなくはないよ。うん……。プルメリア、ちゃんと見張ってた?」
「うん。焦がしても食べられると思うし、かき混ぜないのを指摘しないであえて黙ってた。これで火の調整と、常に混ぜる必要性は全員体で……舌で覚えると思う」
「まぁ、一日くらい食わなくても死なないが、士気は下がるな。プルメリアがこれで教育になるって言うなら良いんじゃないか?」
「まぁねぇ。お母さんがね、間違えてどうにもならなくなってから指摘してきて、それからやっと教えてくれるようになるし、コレが我が家での教育法方なんだよねー。数が多ければ多いほど申し訳ないって気持ちが大きくなって、次は絶対に間違わないってなる訳。でも危険な時は絶対に口出しするよ? 死人が出そうな時とか」
「一つだけ言っておく。ジャガイモの芽でも死ぬからな?」
「え……。マジかよ……。ジャガイモで死ぬの?」
うん、ヒースは料理しなさそうだからな。
「初めて知りましたー」
マリーナは、なんで芽を取ってるのかさえ知らずに、何となく手伝ってたっぽい。
「貴族はそういうのは習わないしなぁ……。本当そういうのは気を付けないと……」
だろうなぁ。コックが貴族の子供に何か言えるわけないよなぁ。親も言わなそうだし。
「誰も教えてくれなかった……」
カルバサは近づくなって言われてたし、周りの同族も傭兵団だし気にせずモリモリ食いそうだし。偏見だけど。
「あの量なら、死なないってわかってたから言わなかった」
お前は論外だ。毒に耐性があるとか、どうなってんだ?
「夜中がプルメリアで、明け方が俺の順か。報告する必要はないとは思うが、一応今からもう一回集まるからそう伝えるぞ。んじゃ狩りにも誘われてるから行ってくる」
焦げたシチューを食べながら今後の事を説明し、能力的なのを考えて順番を決めた。ちなみに焦げたシチューは、コレはコレで焼いて茶色になったパンみたいな香ばしさがあって美味かったので、後で調整して更に美味くいただける様にしたい。
「なら僕は空き時間で、皆でできる事の話し合いだな。希望者に水浴びやら薪集めとか。経験者的に何かアドバイスとかあるか?」
「……少し離れた場所に音の鳴るトラップの設置に、とある男女が馬鹿をするのに集団から離れない様に釘を刺すくらいだな。普段は寮で別々に生活してるし」
「あー。ないと言い切れないのがなぁ……。それっぽい雰囲気の奴がクラスにいるし」
こう言う時に、本当一定数いるんだよ……。休日にそういう施設に行けばいいのに、我慢できずにこう言う時に少し離れてする馬鹿が。興奮するのかな?
とりあえず襲われない為に、昨日プルメリアに言っておいて血を舐めさせたけど、指三本ほど根本まで吸われたから今日の夜は平気だと思う。
ってか傷は人差し指の指先なのに、何で根本までくわえるんだよ……。あいつやべぇよ……。そのうち本気で食いちぎられそうだから、恐怖感が強い。
まぁ、その前に別の意味で食われそうになるかもしれないけど、対抗できるだろうか? 力で押さえ込まれたらほぼ勝ち目がないし、抵抗しても怯まなかったからなぁ……。
「ってな訳で、うちの班はさっき言ったとおりだ。直にアッシュが皆を呼ぶと思うが……。面倒かもしれないって思ったら、さっさと狩りに行くぞ。狩りに行く奴には声をかけたのか?」
そんな事を思いながら集合場所に再度集合し、狩りに行きたいと言った本人に声をかける。
「おう。ルークを含めて遠距離が得意な奴が四人、前衛が二人集まった」
「ふむ。三、三で分かれるのか? それとも六で動くのか?」
「しとめられたら運ぶのが大変だし、六人で動こうと思ってる」
「そうか、そうリーダーが言うなら従おう。特に文句もない。後は皆に任せてさっさと出よう。じゃないとアッシュの話が始まって、途中で抜け出しにくい空気になる」
俺は弓に弦を張り、屑魔石を使って矢筒に矢を補充した。
「便利だなそれ。矢の購入も回収も必要ねぇじゃん」
「ルーク君それ教えてよ」
「それは今じゃないだろう? さっさと動かないと、アッシュに巻き込まれるぞ。レイブン!」
俺は森の奥側で武装して待機しているクラスメイトの方に歩きながら言い、装備品がきっちり固定されて定位置にあるか確認し、先ほど呼んだレイブンが頭に留まった。
「っしゃ、肉だ肉!」
「おっにく、おっにく」
「最近体がなまってるから、ゴブリンとかでもいいなぁ」
「怪我をしないように」
そんな事を言っているクラスメイトを、数歩離れた位置から微笑ましく見るが、警戒心も薄いし、隊列もあったものじゃない。
けどここで口を出すほど野暮じゃないので、個人だけで警戒しておく。むしろ女子が二人いる事に驚いている。
リズムに乗って肉とか言っているのと、あえて戦闘を望んでいるのが女子っていうね……。本当このクラス面白いな。
「ルーク、このメンバーってお前から見てどう思う?」
「正直で厳しい感想と、まぁまぁ緩い感想。どっちが良い?」
「き、厳しくない方で……」
狩り班リーダーは何となく聞いたんだろうが、俺の答えに目を反らしながら言った。
「狩りをするなら良いんじゃないか? 十分だよ」
「じゃあ、厳しい方はどうなんだ? ルークって一応ベテラン冒険者なんだろ?」
剣と盾を持っている男子生徒が聞いてきた。怖い物見たさって奴か?
「そうだなぁ……。せっかくの気分を害するかもしれないが、ここは冒険者目線で言わせてもらうぞ? 警戒心が薄い。隊列も組んでない。後方に注意を向けていない。鹿と猪の足跡、採取依頼が良く出る薬草を見逃している。音で獲物に気が付かれる。一応校外学習で、ここは防壁の外の森なんだから気を引き締めて欲しいかな? ってくらいだな。初心者冒険者が結構来てて、小さい魔物や動物なんかは極端に少ないけど、もしもがあるかもしれない事を頭の片隅に入れておいてくれると助かる」
一応引率っぽく言っておくが、あまりクラスメイトに厳しくしたくはないんだよなぁ。嫌われるし。
「お、おう……。すまんかった。学校気分が抜けてなかった」
「いや、こっちもすまなかった。この辺りは初心者冒険者でも比較的安全だが、今後の事を考えてつい意識させてしまった」
「いや。私達も学園の生徒なんだし、そういう意識のもって行き方は早い方が絶対に良い。熟練冒険者がクラスにいる事を喜ぶべきだ。今後も何かあれば言って欲しい」
リーダーと前衛女子がフォローしてくれたおかげで、険悪なムードにはならなかったから個人的には助かる。
「んじゃ、聞いてばかりだと俺達の為にもならないし、ちょっと戻って足跡でも追ってみよう。ルークは後ろから口出し頼むよ」
「あぁ、小うるさくない程度にしておく。皆の胃袋に直結するから、重要な見逃しだけな」
俺は微笑みながら言い、とりあえず十時方面に腕を伸ばす。
十時というのは、自分から見て正面を十二時とし、時計の短針で大体の方角を表すクロックポジションの事だ。
「足跡の向かっていた方向からして、あっちの方に行けば足跡を途中から追えるはずだ。こっちから行けば風下から追う事になるから、静かにゆっくり動けば矢は届くだろう。後は頑張れ」
俺はとりあえず親指を立て、矢筒から矢を一本抜いて弓につがえておき、いつでも射出できるようにしておく。
□
「っしゃぁ! 猪肉だ!」
「お肉ー! うおー!」
しばらく足跡を追いながら歩き、獲物を見つけたクラスメイトは、魔法で前衛の二人に筋力が上がる強化魔法をかけ、後衛の弓を持った奴が先制攻撃した瞬間に走り出し、矢が急所をわずかにはずれて暴れていた猪に二人で切りかかり、特に危なげもなくしとめられた。
ってか、お肉食べたい女子のテンションがやばい。杖を掲げて小躍りをしている。しかも猪を見つけた瞬間から、肉扱いってどうよ?
「ヤッフー。解体、解体。解体、解体」
なんかハートマークが付きそうなテンポでナイフを首に刃を突き立てて、早速血抜きを始めたので、手に掛けていた長脇差しを離した。
『なんだこの人間のメス。一瞬の迷いもねぇぞ』
「黙々とやるならいいが、このテンションで猪が肉になっていくのを見るのは初めてだ」
「ルーク君。何独り言を言ってるの?」
「気にするな。ちょっとカラスと話してただけだ」
「いや、それもの凄く気にする奴だぞ?」
そんな事を言われ、とりあえずエルフは動物と話せる事を、やんわりと教えた。
「ってな訳で、そこのマユちゃんが凄いって事を話してた」
マユちゃんというのは、ちょっと眉毛が太いので俺が勝手に付けたあだ名だ。
「確かに絶妙なバランスで太すぎない程度には、自己主張してるチャームポイントだと思うけど。最悪悪口だぞ?」
「まぁな……。それは理解してるし、意図的に付ける場合もあるからその辺は俺の心情次第だ」
「確かに酷いけど、今まで付けたあだ名で一番最低クラスの奴が気になるわね。確か二百年くらい生きてるんでしょ? ちょっと教えてよ」
前衛女子が、剣を肩に担いでニヤニヤしていた。この子もヒースと同じくらいサバサバしてんなぁ。
「ウジ虫の糞のかき集め。畜生にも劣るクズ。
「うわ。最後の二つって、口にしたら殺されても文句言えない奴じゃない。ルークにどんな事したら、そんなあだ名が付くのよ……」
「んー。全財産欲しさに俺をはめようとした商人達や貴族達に、小金欲しさに自分の女を俺とくっつけようとした怖いお兄さん達だな。二度とその土地に住めないくらい晒し上げてやったから、同業者にも情報を流して同じ職業になれないようにしてやったなぁ……」
懐かしいなぁ。消えるインクで文章を書いて、名前だけ普通のインクで書かせようとしてきたし。情報がこっちに来てるのに、わざとらしく酔った女性が部屋に訪れてきたり。
「あー……。なら納得だわ。内容は聞かないけど、悪い奴ならそのくらいの事してそうだし。で、私のあだ名は?」
「こけし」
だって黒髪で前髪パッツンだし。
「こけしって何よ?」
「可愛い木彫りの人形だ」
うん。嘘は言ってないぞ。人によっては集めてたし。
「怖いから俺は聞かねぇぞ」
「そのうち耳に入るから諦めろ。俺はクラス全員の名前を未だに覚えてない失礼な奴だから、軽蔑して嫌いになってもかまわないぞ?」
「いや。そのくらいで、なんでそこまでしなきゃいけないんだよ。別に人の名前を中々覚えられないって奴もいるだろ? 長年生きてるエルフなんか、数日過ごしただけの奴の名前なんか覚えないかもしれないし」
「大正解。なんだかんだで出会いが多すぎて、特徴の方が覚えやすかったり、思い出しやすかったりするんだよ。この最低野郎ができる事は、困ったら何でも相談してこいってくらいだ。事と次第によっては、人生相談や近接戦でも魔法でも教えてやる」
俺は解体された肉を片手で持ち、長脇差しを抜き身で持って警戒だけはしておく。雑談中も警戒はしてたからな?
□
「お肉持ってきたよー」
マユちゃんが肉を掲げながらベースキャンプに戻り、そう叫ぶと皆が喜んでいる。主に男子生徒だけど。
帰り道で、なんでそんなに解体が上手いのか聞いたが、近所の肉屋で入学するまでバイトをしていたと言っていた。
なのでちょっと肉にはうるさいと、自負していた。口には出さなかったけど、ちゃっかり高級部位をバッグにしまっていたのは、一人で解体した対価だと思って黙っていた。
「この塊ごと焼こうぜ!」
「中まで火を通すと外が丸焦げだろ! 小さく切って串焼きだ」
「油がないから素揚げにできねぇ!」
うん。男子がうるさい。
「ふむ。酒が欲しくなりますね。教師で校外学習中なのが悔やまれますが」
「ヨシダテルカズ先生……。俺も非常に良くわかる。今度飲みに行きましょう」
「良いですね。それじゃいつもの場所で、豚肉で一杯」
うん。男性教師も駄目だわ。仕事しろ。
「ってか女生徒が少ないけど、どうしたんだ?」
「暗くなる前に川で水浴び中」
そう言って男子生徒が指をさした方向を見ると、プルメリアが周りをにらみつけるように監視して、腰のナイフを抜いて手の平でペシペシと遊ばせていた。
なんか刑務所の警棒もってる、アメリカの映画的な感じだな。ガムでも噛んでたら完璧だったわ。
なんかあまり垢とか汗が出ないし、汚れないって言ってたから水浴びも必要ないんだろう。しかも強いから適任なんだろうなぁ。
ってか意味もなく刃物を抜いて、遊ばせてるのは感心しないなぁ。見た目の効果は抜群だけど。
どのくらい抜群かって言うなら、あの顔で声かけられて振り向いたら、ビクッってなった後に即財布を渡したくなるくらい怖い目と表情だ。
「げっ、プルメリアちゃんじゃん。覗きに行ったら絶対殺される顔してるじゃん」
「止めろよ。ルーク君もいるんだぜ? ばっちり聞こえてるぞ?」
おいおいおい、話をこっちに振るんじゃない。
「気にしてないぞ? むしろ評価的には正しいし、適任すぎて納得できる人選だ。ってかノリノリでやってんなぁ。普段あんな顔しないのに」
俺はそう言ってから自分の班の所に行って肉を置き、香辛料を擦り込んで下処理をすませた。
「下流だ! 俺は下流に行ってくるぞ!」
「何するんだ止めろ! そんな下らない理由で単独行動はするな!」
「うるせぇ! 男にはやらなきゃいけない時があるんだよ! お前も男ならわかるだろ!」
「わかんねぇよ! 残っている女子もいるんだ! 行くなぁ! お前の残りの人生を棒に振るつもりか!」
なんか馬鹿な男が一人走っていったな。英雄になるか、敗者となるか……。
俺はバターで猪肉を強火で焼き、寝かせている間に野草を取りに行き、ふと視界の隅に男子生徒数名が集まっていたのが目に付いた。プルメリアにぶっ飛ばされて、戻ってきたんだろうか?
「なにやってんだ、アレ」
俺はアッシュの隣に座って、集めてきた野草を切ってる時に何気なく振った。
「少し聞こえたが、赤色の縮れた毛を手に入れたらしい」
アッシュはため息を吐きながら、首を横に振っていた。
奴は男子の中で英雄になったが、俺の中で縮れ毛ハンターのあだ名が決定した。
「男ってやっぱり馬鹿だな。俺も男だけど」
「僕も男だけど、アレはない」
「ん? 男だけでアレは何で集まっているんだ? 夜の見張りの準備か? ってか肉が美味そうだ」
カルバサが立ち枯れしていた俺の胴体くらいある木を折って、そのまま肩に担いで来て何となく聞いてきた。筋肉モリモリマッチョマン的な感じで。
「女子が水浴び中、川の下流で赤い縮れた毛を拾ったらしい」
「……馬鹿だな」
「「まったくだ」」
俺とアッシュがハモり、カルバサもやっぱりため息を吐いていた。俺達の班の男は比較的まともで助かったわ。ある意味まともじゃないけど。
「止めに行かないのか?」
「そのうち女子からボコボコにされるだろ? 身から出たサビだ。それより薪割りを手伝おうか?」
「思い切り踏みつければ折れるから平気だ」
アッシュとカルバサが、短いやり取りを何となく悟った感じでしていたが、俺は静かに肉を切り分けて、野草をそえるくらいしかできる事はなかった。
□
案の定縮れ毛ハンターと、集まっていた男子は女子達の前で正座させられ、滅茶苦茶怒られている。しかも広場の中央で。
「早くしてくれないかなぁ。せっかく暖め直した料理が冷めるんだけど」
残っていたシチューを暖めただけだけどね。肉は冷まして食べる前提でサラダっぽくしてるからいいけど、俺達の班の女子は全員いない。
「しかたがないだろう。ある意味やってはいけない事を、あいつはやってしまった」
「休日に娼館に行けば良いんじゃないか?」
「カルバサ。思春期男子って言うのは、その一言で済ませられない変な情熱をもっているんだ。同い年のクラスメイトってだけで、手の届かない存在みたいな感じで、娼婦とは全くの別物だ……」
俺は思春期男子特有の、なんとなく説明が難しい病状をそれっぽく語った。
「そうか。俺は粗野な傭兵団の近くで育ったから、その辺の常識が欠けている。ムラムラしたから娼婦を買うっていうのとは、少し違うんだな……」
「そんなもんだ。そういやヒースって、下の毛も赤いのかな?」
「知らん。本人に聞けよ。俺は絶対に聞かないぞ」
流石アッシュ君。真面目だ。
「そこは、どうだろうな。って返すところだぞ?」
「それこそ知るか。だ。ぶっ飛ばされたくないから、俺達に被害が来ない様にしてくれよ?」
カルバサ君。君は傭兵団の中で育ったのに真面目過ぎだねぇ。母親の影響かな?
「はいはい。なんか決着が付いたみたいだから配膳しとくか」
縮れ毛ハンターがこけしちゃんにぶっ飛ばされていたので、多分もう解散だろう。本当思春期男子は馬鹿だよなぁ。これでもエリートなんだけどな……。
「おかえり。災難だったな」
「本当だよ。間接的に変な事するとは思わないじゃん?」
「なんでこの班の男子は止めなかったんだ?」
「青春してんなーって思って。あと、俺は面白くなりそうなら止めない主義だ。ってかプルメリアは、川下に行くとかの会話は聞こえなかったのか?」
プルメリアとヒースの問いに俺はそう答えた。だって面白そうな事を求めて生きてる様なもんだし。
「んー。あれは囮だと思ったから。それに釣られて持ち場を離れるのはどうかと思ってね」
「ある意味正しいですけどー、そういうのはちゃーんと止めて下さいよー」
「直接的な被害は避けられた」
「けどあたしら女子は、全員嫌な思いをしたぞ?」
「処理してないのが悪い。私は生えてないから問題ないけど」
プルメリアの言葉に、俺を含む男子組の全員のスプーンが止まった。
「プルメリア。そう言うのは食事中に言わない方が良い。二人とも気まずそうにしてるぞ?」
「いや、あたしも結構困惑してるけど?」
「私もですよー?」
「薄いならわかるけど、私は全然は――」
俺はプルメリアの言葉を遮るように、切り分けてあった肉をフォークで無理矢理口に突っ込んだ。
「食事中だ……」
そして一応睨んでおいたが、プルメリアは気にしないで肉を噛みながら頭を縦に振っている。
「ったく……」
俺の時は叩いて止められるけど、プルメリアの場合は物理的に黙らせる。叩いても効果がないからだ。
「まぁ、こってり絞られたみたいだから、次からはしないだろ。んじゃ朝食の仕込みでもするか」
俺はさっさと食べ終わらせ、余っていた猪の肉を薄く切って、少し多めに塩を振って即席のベーコン風の物を作る。
明日朝に少し水に漬けて塩抜きして焼けば、パンに乗せられるだろう。
「じゃ、僕は洗い物か。なんだかんだで焦げたシチューは普通に食べられたから、鍋は空だし」
「俺は見張りに立ってくる。夕食時は四人制で、一人抜けて食べての繰り返しって事になってたからな。洗い物感謝する」
「あたし手伝うぜー」
「あらー。仕事がなくなっちゃいましたー。火の番でもしてるねー」
「んー。私は深夜の見張りだから、悪いけど少し仮眠するね」
「俺もプルメリアの次に、日が昇るまでの見張りだからもう寝るわ。洗い物と火の番頼んだ。お休み」
そう言って俺とプルメリアは自分のテントに入り、日記を書き終わらせて横を見ると、もう寝息をたてていた。
「寝付きはすげぇ良いんだよなぁ……」
俺はランプの明かりを消し、プルメリアの横に寝転がり目をつぶった。
◇
途中でヒースがプルメリアを起こしに来た音に気が付いたが、寝ていた時はそれだけだ。そして起こされたので自分の持ち場に着いて朝まで見張っていたが、特に変化はなかった。
そしてぞろぞろと皆が起き始めたので薪を足すのを止め、起きてきたカルバサに少しだけ見張りを変わってもらって、朝食の準備を始める。まぁ、夜明け前に水にさらしておいた塩付け肉を焼いて、他には鍋に蕎麦と牛乳とバターを入れて煮るだけだけど。
「朝から肉とは豪華だな」
「チーズもあるからパンに挟め。
まぁ残った牛乳に、その辺を歩いていた蟻を十数匹瓶にぶち込んで、振っておいただけだけど。本当蟻酸ってすげぇよなぁ。もしかしたら当たり付きになるかもしれないけど。
「俺は料理ができないから助かるが、作った本人が先に食った方がいいんじゃないか? 別に味を疑ってる訳じゃないが……」
「本来は俺が見張りをしてる時間だ。俺は最後で良い」
俺はカルバサの肩を叩き、親指で鍋の方を指して無理矢理先に食わせる事にした。
「去年の校外授業を含めて、一番美味いぞ。冷めない内に食った方が良いって」
ヒースも肉とチーズを挟んだパンを少し掲げ、手首を振って見せびらかしている。モテないのはそういうところだぞ? けど料理をほめてくれてありがとう。
「おはよう……」
話し声がしたからか、アッシュもテントからゴソゴソと這いだし、眠そうな目で挨拶をしてきた。
「残りはプルメリアとマリーナか……。プルメリアは寝起きは良いけど、ギリギリまで寝てるからなぁ」
そんな事を言っていたら、マリーナも盛大な寝癖を披露しながらやってきた。
「おはようございますぅー」
頭を左右に振りながら歩き、手にはブラシを持っている。表現するなら、その辺の物を掴んで歩いているゾンビだな。
「テントの中で、髪を梳かした方が良いんじゃないか? 寝起きの女子ってのは、猫を被るまでの時間でもあるんだし」
「んーごーはーんー」
マリーナは眠そうに言いながら丸太に座り、髪を櫛で梳き始めたが、途中でうなだれて手が止まっている。
「……寝てるな」
「あぁ。寝てるな」
「寮の部屋が違うから、マリーナの朝はこうだとは思わなかったよ」
「まぁアレだ。普段見ない一面も晒す事になるから、こういう校外学習を最初期にするんだよ」
俺はとりあえず、教師時代の感覚でフォローしておいた。
「おはよー」
マリーナが少し覚醒し、もそもそとカーシャを食べ始めた頃に、プルメリアが元気に出てきた。
「今日も髪が跳ねてるぞ?」
「んー? こんなの少し手櫛でやれば……。ほら」
プルメリアは手で髪が跳ねている所を探し、軽くなでると寝癖が直っていた。吸血鬼は髪の毛へのダメージも少ないのかもしれない。
「うらやましぃですねー、こうかんしませんかー?」
「んー、頭皮を剥がして、乗せて回復魔法?」
「いーあんですねーそれー。こんどためしてみたいですねー」
「するな。傷が塞がっても絶対に癒着しないからな? カツラを作った方が早い」
適合性とかの意味合いで。けどこの世界の回復魔法なら、もしかしたらがあるからな。今度動物実験でもしてみるか?
そんな事を話している内に見張りが終了の時間になったので、肉の挟まってるサンドイッチだけを手に取り、なんとなく見張っていた方向を向いたまま食べた。
「回復魔法で髪のダメージとかー、寝癖とか直らないかしらー?」
「実はできるぞ? まずは髪の構造からの勉強になるが」
「教えて下さい!」「教えてくれ!」
「お、おう……」
俺がなんとなく言った一言に二人が食いついたが、ほかの班の女子達もこっちの方を向いている。こりゃ帰ったら講習だな。
「知っている奴が少ないだけで、別に秘術指定されてないから後日な」
俺は騒動にならない様にそれだけを言い、レイブンとムーンシャインの食事を用意するのに場を離れておいた。
○月××日
今日は校外学習だが、最初だからほぼキャンプ状態だった。俺は旅をしていた時の道具類を全て持ち、学校の備品を使わずに過ごした。
特に魔物系は出なかったが、クラスの男子が女子の水浴び中に下流に行き、赤い縮れ毛を拾ってこけしちゃんに思い切り殴られて終わった。俺の中で奴は縮れ毛ハンターのあだ名が決まった。
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