第4話 2/2 面白そうな奴しかいない
「そう言えばさ、プルメリアって寮で見なかったけど特例で学校に通ってるのか? 家が近いとか」
ヒースが何となく思い出したのか、頬杖をついたままプルメリアの方を見てそんな事を聞いていた。
「え? お兄ちゃんと一緒に夫婦用の寮に入ってるよ」
「「「お兄ちゃんと夫婦部屋だと!?」」」
「「「ただれすぎだろ! このエロフが!」」」
「「「不潔よ!」」」
会話を何となく聞いていたのか、クラスの男女が立ち上がって叫んだ。
プルメリアは見る人が見れば綺麗か可愛いと言われる容姿だが、もし付き合えたら良いな。程度に思っていたんだろう。
俺? 容姿はなんとなく良いのは理解してるが、髪型で台無しにしてるつもりなんだけどなぁ。
「表に出ろ! このエロフが!」
「羨ましいんだよ!」
「その後ろ髪をむしってやらぁ!」
「むしろもぐべきだ!」
俺は立ち上がった男子を冷めた目で見つつ視線を動かすと、女子の半分は俺の事をジト目でみていて、もう半分はあきれた目で立っている男子を見ていた。
俺は悪くない。悪いのはプルメリアと学園長だ。
ってかエロフってなんだよエロフって。いや、知ってるけどさ。
「で、実際は兄妹なのか?」
アッシュもなんかあきれた感じで聞いてきた。
「言ってなかったっけ? プルメリアは近所に住んでる幼なじみで、昔からお兄ちゃんって慕われただけだ。実の兄妹ではないぞ」
「そうか。それだとマジで校内風紀的にどうなんだ? 血が繋がってない男女の同室ってのは」
「学園長から許可はもらってるよ?」
プルメリアの言葉に教室中がざわめきだした。面倒な事になったなぁ。ヨシダ先生もこっちを見てるし。いいから官能小説読んでてください。
「はい集合ぉ! ルークとプルメリアは教室の隅に行っててくれ」
アッシュが手を上げて集合をかけたが、そこは静かにさせるところだろうに……。
俺は仕方なくプルメリアとアッシュが指した教室の隅に行き、対角でクラスメイトが全員集まってひそひそと何かを話し合ってるのを黙って見ていた。
ってか初日なのにきびきび集まれるのかよ。
「いずればれるし、初日で良かったと思うべきか」
「私は狙われたのかー。お兄ちゃんも女子から狙われてたっぽいね」
「こんな変な髪型してるのに、毎度の事だがエルフってのはそれくらいじゃ覆らないみたいだな」
「ま、エルフ税って事で諦めよう」
プルメリアは椅子に座り、両膝に両肘を付いて、手の平に顎を乗せ、前屈みで変な事を足を広げながら言っている。
「足閉じろ馬鹿。男子生徒への劣情の捌け口を提供する事になるぞ」
俺はプルメリアの肩を叩いて注意すると、大人しく足を閉じた。
「余計な事言うなエロフ!」
「な? 太股を見たり、あわよくば下着とか見れたらいいなぁーってアレは思ってた言い方だ」
「んー男の子だなぁー。お兄ちゃんはどうなの?」
「当番制で下着洗ってる俺に聞くな。ってか薄着で寝てるお前が言うな」
俺がそう言ったら、教室中がざわつき始めた。先生まで生徒に混じって集合し始めるし、どうなってんだよ……。
「質問にハイかイイエで答えろ! エロフに拒否権も黙秘権もない!」
しばらく話し合いをしていているのを見ていたら終わったのか、クラスの全員が俺達を冷たい目で見てから、代表っぽいのが紙を持って前に出た。
「はぃぃいぇ」
とりあえず、言われた選択肢で返事をしてみたが、予想外の返事でなんか焦っている。
「……これじゃ始まらないぞ?」
「良いから続けろよ……」
「お、おう。ふ、二人はもうそういう関係なのか?」
「どういう関係だ? 恋人とか、ヤる事やったとか、結婚してるとか色々あるだろ? 裁判するならはっきり言え。それでハイかイイエだと誤解をさらに与えることになるしな」
これだから思春期男子は……。恥ずかしくて性交とかセックスとか言えないのか?
「セ、セックスだよ! 男女の肉体関係はもう済ませてるのか?」
「「イイエ」」
俺達が否定したら教室中がまたざわめきだした。なんだこのクラス……。
「恋人ですか?」
「イイエ」「ハイ」
プルメリアさん? 俺達いつ付き合いましたっけ? ある意味恋人とか関係ない間柄だけどさ。
「二人の答えが違うので言い分を聞きます。まずはルークから」
「俺はまだ、プルメリアとは幼なじみの域は出ていないと思っている」
「お兄ちゃんの両親公認です。故郷からここに来るまでにツインの部屋が空いてなくて、同じベッドで何回か一緒に寝ました。そして寝込みを襲ったけど全て未遂に終わってます」
おいおいおい、あれは血を吸いたい衝動だろうが。
ってか女子達、キャーキャーするな。大胆とは全然別物だからな? そんなロマンチックなものでもないぞ?
男子も男子で、血涙流れそうな目で俺を見るなよ。
「つ、次だ。何日くらい一緒に行動してるんだ?」
「……どうやってハイかイイエで答えるんだ?」
「いいから答えろエロフ! 何日くらいだ」
「あー? 三十日くらい? 寮に置いてある日記を読み返せば、正しい数字は出るけど。なぁ?」
俺は隣にいたプルメリアに、何となく聞いてみた。
「故郷から試験が始まるまでと、寮に入ってから今日までを含めると、三十日は超えてる?」
「ノォォォォ!」
「畜生! あんな可愛いプルメリアちゃんと幼なじみってなだけで羨ましいのに、何十日も一緒の部屋で寝てやがる!」
「
「無理だ! 俺にはあんな可愛い子と一緒にいたら、ムラムラして眠れねぇよ! どんな精神してんだ!」
「これが何百年も生きるエルフが、世界の大半を占めない理由か!」
「ちょっと男子! うるさいわよ!」
「黙ってなさいよ!」
何となくプルメリアが答えたらクラス中が騒ぎ出し、四つん這いで涙を流しながら床を叩いたり、五体投地して転がっている奴もいる。
「……早退して良いか?」
俺は眉間に皺を寄せ、こめかみを指で押しながら答えた。見てて面白いけど、このテンションは高すぎて辛い。前世の高校時代より良い意味で馬鹿が多すぎる。
ってかこんな変な行動しているけど、皆倍率の高い試験を受かってるんだよなぁ。不思議だよなぁ。
「はいはい。先生も精神的に辛いけど、そろそろ止めようか。他のクラスに迷惑をかけるくらいうるさいぞ? 静かなら多少見逃したけど、もう席に戻れ」
ヨシダ先生も我に返ったのか、教師としての役割を思い出した様だ。両手で頭を押さえてたのを、俺はしっかりと見てたけどな。
とりあえず席に戻るが、数名とすれ違う時に舌打ちをされた。そんなにひがむなよ。他にも可愛い子が沢山いるだろ? がんばれば夢はかなうって。
□
「で、さっきのは何なんだ?」
鐘が鳴り、班全員で食堂に行き、A定食のテーブルからトレーごと取り、空いているテーブルに付いてアッシュに声をかけた。
ちなみに学食はバイキング形式だけど、選ぶのが面倒くさいから俺は定食を取って、足りないなら一品くらい足す程度だ。
「男として悔しかったからかな? 後はクラスを仕切るのに良い機会だと思ってな」
「絶対に後者が本音だろ? 貴族の子供なら婚約者とかはいるはずだしな」
俺は日本式で手を合わせ、心でいただきますと言ってからパンを千切って口に運んだ。
神は世界で一柱なのに、それぞれ祈り方が違うからこれは問題ない。宗派的な感じで種族毎に分かれ、同じ種族内でもさらに分かれているからな。自己流で長年通してきた。
マリーナは両手を握って祈ってるし、ヒースなんかは右手を左胸に当てている。
カルバサは右手の甲をおでこに当ててるし、いったいどんな意味があるのか気になるけど、なんか聞いちゃいけない暗黙の了解みたいなのがあるから聞きはしない。
けど、どう見ても一仕事終えた農家の爺さん的な祈りはどうかと思う。
「あぁ、いるな。僕が学校に通っている間に、色々と花嫁修業的な事をするとかしないとか。まぁ、来年この学校を受験するとは言っていたな」
「ふーん。年下? それとも学力か戦力不足で今回は見送った?」
「一つ下だ。どうにも体を動かす事に思考が振り切っていてな。頭も良いんだが、お茶の作法とかが全然駄目だ。茶会とかにも出る機会が増えるから、向こうの親がこの一年でみっちり仕込むらしい」
「脳筋かぁー。私も少しだけ気をつけないとなー」
ヒースがパンを飲み込み、なんかため息を混ぜながら呟いた。作法は覚えておけば後で使う機会があるかもしれないしな。
「私が教えようか? 結構詳しいよ?」
プルメリアが口に運ぼうとしていたスプーンを下ろし、笑顔であり得ない事を吐いている。
確かに学園長室でお茶を飲んでいる時なんか、凄くマナーは良かったな。
「いや。パンを千切らず、そのままかじり付いてたお前にだけは言われたくない」
そうなんだよなぁ。できるだけで、普段からやらないんだよなぁ……。お茶なんか豪快にゴクゴク飲み干す時があるし、現に食事の祈りが済んだらパンにかじり付いてたし。
残念だが、プルメリアのマナーはカルバサと同じ位置にいる。今はだけど。
「んっふっふ。普段からやってたら疲れるでしょ? その辺のお嬢様だって、見えない所では、絶対ラフな格好で寝転がりながらお茶飲んでるよ」
「それはない」
アッシュが即突っ込みを入れたが、、マリーナが頭を縦に振っていたのを、俺は見逃さなかった。ウィンプル? 修道女のベールから勿忘草みたいな濃い水色の髪が出てるし、案外だらしないところもあるんだろう。
もしかしなくても、この子って自室ではかなりダラダラしているのかもしれない。
あと女の子に幻想を持ってはいけない。
そして前世では中学生の頃のジャージを着て、部屋で酒を飲んでいた友人の彼女がいた事を俺は覚えている。
宅飲みに誘われたから行ったら、そいつの彼女がジャージで料理してたし、普段から二人で中学のジャージでも着ていたんだろう。
「母親が良いところの出だから、俺の所はちょっと厳しかった」
「カルバサのかーちゃんって、どんな感じなんだ? かなり興味が出てきたんだけど」
「人族の元騎士団所属で、戦場で殺されそうな所を傭兵団を率いていた父親に助けられ、一目惚れで猛アタック。だから俺はハーフだ」
クッころ状態の時に助けられた? そりゃ惚れるわ。
「女としては一回は経験したい状況だな。戦場じゃ最悪死んでる可能性の方が高いけど」
「死んで欲しくないから、女性や子供に戦場に立たれたくないと常日頃父親が言いっていたし、その時は凄く怒ったらしいが、逆効果だったと嘆いていた」
「逆に盛り上がっちゃったってやつですねー。そんな状況で助けられたらー、私でも惚れちゃいますよぉ?」
「……助けない訳にもいかないし、今後助ける時は僕も気をつけよう」
「実際は迷ってる暇はないだろ? その辺は経験豊富そうなルークに聞くのが一番だな」
なんでそこで俺に振るんだ? 何回か戦場に行ってる様に見えるん? まぁ卒業後に何年か従軍したけどさ。
「顔が判別できない距離から弓で頭に一撃。助けられた方は、金髪で弓を持ってる人って認識しかないだろうな。だからそんな状況があっても、そういう事はなかった」
「かっこいいな。男としてそういうのも憧れるし、厚かましく助けたアピールしないのも良い。魔法で遠距離の練習でもするかな」
アッシュは腕を組み、本気で悩み始めた。行く前からそういう事をあまり考えない方が良いと思うが、自分の中で戦闘スタイルがまだ決まっていないんだろう。
「お前は貴族の息子だろ? 戦場に行って最前線で指揮するつもりか? 部下からしてみたら、護衛対象がいたら邪魔なだけだぞ? 挙げ句に死んだら、七割以上の兵士達が指揮系統で混乱して、あっけなく殺されて国に迷惑をかける。マジで止めてくれ、本当に止めてくれ……」
俺はため息を吐き、若くして手柄がさっさと欲しく、焦った貴族が前に出た例を出した。
「英雄になろうとするな、必ず失敗する。英雄はいらない。コレは上官の言葉だけど、チームとして行動している時に、勝手に動かれると本当に迷惑なんだよ」
いつまで経っても俺の事を新兵リクルート呼びしていた、もう顔も思い出せない上官の事を思い出した。あの人には本当に精神面でお世話になったなぁ。いつも隣にいてくれて、常に冷静に動けと戦闘中も励ましてくれた。
ってかいつもサングラスしてたから、めっちゃ良い笑顔でサムズアップしてる思い出しかないし、顔も見たときなかったわ。シャワー浴びてる時も寝る時もサングラスしてたし。
「エルフの上官ってどうなんだ? 四百歳くらいか?」
「いやいや、普通の人族だ。どこに行こうと、自分より年下でも、先にそこにいるなら自分より先輩か上司だし、敬う事くらいする」
「年齢が上だからって、使えない奴が威張ってる奴もいるしな。だから階級もあがらない小物扱いされるって訳だな」
カルバサが右上の方を見ながら、何かを思い出す様に言っている。近い人にそんな人がいたんだろうか? 父親の部下とか。
けど、小物界の大物って奴も中にはいるんだぜ? 戦場では、またあいつかよ……。って気分になるけど。
□
雑談しながらの食事が終わり、各自寮に戻る事になって、俺達も部屋に戻ってダラダラとしていたら夕方になった。
「そろそろ風呂の時間か……」
俺は何となくつぶやき、ベッドから起きあがると入浴の用意をし始める。グッスリと寝ているプルメリアの分もついでに。もちろん下着類もだ。
「おい起きろ、風呂の時間だ。今日は教師寮が一番だから夕食より先だぞ」
俺は寝ているプルメリアをゆすり、無理矢理起こして覚醒するまで待った。
「……おはよ。あー着替えありがとー。んー、昼食後になにもしてないと眠くなるー。夜中寝れるかな」
プルメリアは延びをし、大口を開けてあくびをしていた。
本当ブレないなぁ。幼馴染とはいえ、男の俺はいるんだぞ? 見た目年頃の女の子がベッドの上であぐらをかいて、大口を開けてあくびとか。だから教室とかで地が出ちゃうんだよ。少しは気を使ってくれ……。
「地べたでも直ぐに寝られる奴が何を言う。ほら、時間が決まってるんだから、さっさと行くぞ」
俺はプルメリアが手を伸ばしてきたのでそれを掴み、引き寄せる様にして立たせ風呂場に向かった。
「ぉあ゛ー」
髪や体を洗い、寮の一フロア分全員が入れる、大きな浴槽に浸かって魂の叫びをあげる。
風呂に入らないのは慣れているが、根っこが日本人なのでやっぱり落ち着くし、足が伸ばせるって控えめに言って最高だ。
「う゛ぁー」
「うぃー」
湯船でくつろいでいたら、ディル先生とヨシダ先生が俺の左右に座り、挟まれる形になった。
なんで隣に来るんだよ。まぁ、なんとなく予想はつくけど。
「いやールーク。ヨシダテルカズから聞いたぞー。プルメリアと同室なんだってなぁー」
「羨ましいですねぇー。未婚教師への当てつけですかねぇ? 学生結婚ですかねぇ?」
「文句は学園長へ。それと俺は人族で言うと二十歳を超えてますよ」
俺は短く言い、気まずくなって頭に乗せていたタオルの位置を、何となく調整する。
「えぇ、えぇもちろん聞きましたよ。なんか事情があるとかないとか」
ヨシダ先生が肘を肩に乗せてきて、ニヤニヤしている
「過去にこの学園を数回卒業し、短いですが教師経験もあるとか」
「俺より強くて学もあり、教えるのも上手くて生徒に人気だったとか」
ディル先生も俺の肩に肘を乗せてきた。まさかここまで絡まれるとは、予想できなかったわー。
「他の先生に聞きました? 俺が教師をしていた時の同僚が、まだいましたからね」
「あぁ、学園長も話していたぞ」
「ルーク君はーってね。その後は他の先生方もざわついてねぇ。君を知っている先生方は、あいつに任せておけば特に問題はないと……。面倒見もなんだかんだ良いし、三年間主席だったのに、代表挨拶が面倒だからって、卒業試験で手を抜きまくったとかとかも言ってましたよ?」
「俺の情報ダダ漏れじゃないですか……。なにやってんだこの学園の教師は……」
俺はため息を吐きながら、両肩の肘を退かして上を向き、タオルで目を隠した。
「冒険者ランクも高いとか? 実習の時は頼むぜ?」
「副副担任としてよろしくお願いしますね? あと、体調が悪い教師の代理も頼む様な事も、学園長が言ってましたね」
「うーっす……」
俺は上を向いたまま、けだるく返事をするしかなかった。
「あー。冒険者ランクは指名依頼が面倒だから、軽犯罪の罰則で意図的に下げましたよ?」
「飛竜単独討伐、古代竜のパーティーでの討伐経験ありの凄腕だからなぁ。そりゃ来るわなぁ。けど今は生徒だ。まとめ役としてがんばってもらうからな?」
「……うっす。ってかアッシュかカルバサに頼んで下さい」
生徒として俺を利用して来やがった。クソがぁ……。
「なんでも、魔法やら商人ギルド、他にも鍛冶やら錬金ギルドとか、軒並み加入して、諸々の免許や資格もあるらしいじゃないですか。生徒の進路とかの相談に乗ってあげてくださいね?」
「それはヨシダテルカズ先生の役目では?」
「元先生だし、私達より経験豊富なんですから、その辺はね? ね、ディル先生」
「だな! ヨシダテルカズ先生」
「駄目な教師だな! 畜生! あと十年くらいしてから学校に来るべきだった!」
湯船で叫ぶと、周りの教師達がニヤニヤしていた。あ、元同僚発見。
「ちょっとボリー先生! さっきの情報漏らしたのあんたでしょ! 何やってんの!」
俺は湯船の中から指をさし、ボリー先生に吠えた。
「いやー。まさかまた来てくれるとは思いませんでしたよ。教師が足りずにクッソ忙しかったのに、辞めていった仕返しです」
ボリー先生がニヤニヤしていたので、無詠唱で【水球】を上から自由落下させてやった。
「ほう、やっぱり簡単な魔法は無詠唱ですか……。やっぱりエルフは魔法にも長けてますねぇ。ルーク君が学生時代に、私がこっそりコツを教えてもらったのを思い出します」
そんな事を、副学園長がぼそりと呟きながらニコニコとしていたので、確かそんな事もあったと思い出した。
ってかこの人も、普通の人族なのに見た目が全く変わってないのも不思議だなぁ。なんか歳を取らない魔法でも使ってんのか? って思うくらいだ。
「副学園長、それは自分から内緒って言ったじゃないですか。何言ってるんですか」
「ほほほ、歳だから忘れておったわい。すまんな」
テヘペロしないでくれ。あんたそろそろ九十歳近いだろ……。
「軽くで言わないでくださいよ。あと都合の悪い事は直ぐ忘れる癖を止めてください」
「いやいや。だってもう都合は悪くないしな」
おいおいおい、なに言ってんだこの爺さん。
「ルーク君は魔法理論やら魔法陣解読、魔法回路に詳しく、魔法ギルドへの貢献度も高い。そして進言もできる立場。無詠唱魔法の安全性も確認され、秘匿されていた情報が徐々に解禁されて、試験を受けて合格した高ランク者は、お金を払えば論文を閲覧できる様になっておる。それに見かけたら、本部に来る様にと指名手配も出ておるぞ?」
副学園長は湯船から手を出し、指を立ててなんか訳のわからない模様を書きながら、何かを思い出す様に言った。
「なんすかそれ……。まるで俺が悪者みたいじゃないっすか」
「実際に、もう何年も魔法ギルドに顔を出してないらしいではないか。技術料やら報奨金が貯まりに貯まって、一気に下ろされると運営が危ういとかなんとか。だからさっさとこの街の魔法ギルドに顔を出して、話を付けてこないと本当に拘束されて連れて行かれるぞ? あそこは冒険者や商人ギルドみたいに儲けが多い訳じゃないしのぅ」
「今度の休みにでも顔を出しに行ってきます……」
俺は大きなため息を吐き出し周りを見ると、なんか教師達があきれた感じで聞いていた。あの目は、長寿種のエルフだからなぁ。って目だわ。
「よし、今度ルークの奢りで飲もうぜ!」
「なに言ってんすかディル先生……。生徒に奢らせないでくださいよ」
「いやー、ルーク君はこの学園じゃ立ち位置が特殊ですからねぇ。生徒や教師で括れないんじゃないですかー? ってな訳で飲みに行きましょう」
「良いですね。自分良い店知ってますよ? 教師には門限はないので、予定立てて行きましょう」
「じゃ、俺は女性陣に声かけておきますね」
なんか勝手に盛り上がっている。一学年十クラス。担任と副担任で最低で二十人。一応三学年あるとして六十人。非常勤やら用務員さんも含めると何人になる? 俺が教師の時はなんだかんだで百人近くいた気がする。
「好きにしてください……。金貨五枚までなら文句は言いません」
この様子だと一人銀貨一枚分ってな具合にはいかないだろうし、そんな大勢入る場所だってこの世界じゃあまりない。だからそのくらいは予算を見ておかないと、本当にやばい。
担任ズと俺だったらその辺の酒場でもいいけど、結構な権力を持ってる教師陣もいるし、場末の酒場じゃ絶対に無理だしな。
なんだかんだで、百年くらいはのんびり暮らせる額の貯蓄はあるし、錬金術で矢とか作っちゃうから細々した出費も少ないし、でかい依頼をこなしてると貯まっちゃうんだよなぁ。こういう時に色々な場所に金を使って、多少は周りに儲けさせないとな。
「「「っしゃぁ! ルーク最高だぜ!」」」
若い教師達は、なんか全裸な事を気にせずにはしゃいでるし、副学園長もニコニコして長いあごひげをいじっている。
「すみませんねルーク君。後でお礼はしますから」
そして俺の肩を叩きながらそんな事を言い、立ち上がって騒いでいる若い教師陣に混ざって副学園長はハイタッチをし始めた。もちろん全員全裸だ。
「あの人若いなぁ……。ってか教師って気苦労が多いから、仕方ねぇか」
俺はそう呟き、風呂から上がってプルメリアと夕食を食べに行った。
○月××日
試験も無事合格して入学式だったが、脳筋のゴブリン族が主席だった。努力でどうにかなるものでもないと思ったが、人族とのハーフだった。
その後貴族の子供が物に当たり散らしていて、見ていたら絡まれたので舐められない様に脅したが、プルメリアの髪を掴んだ取り巻きが頭を掴まれて壁に後頭部を叩きつけられた。まぁ仕方ないと思う。
職員室で事情聴取後に班分けして自己紹介をしたが、主席という事でゴブリン族のカルバサのスペックが高かったが、武器が釘バットでしかも魔法の杖として使っている面白い奴だった。他の奴は別日に描く事があると思うので割愛。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます