第43話~閉じ込められた大臣~

「それでは閣議を終了いたします」


官房長官の男性がそう言ってから、一斉に総理や国務大臣たちは閣議室から出て行った。


外務大臣を担当している俺も、これから外交に行かなければならないため、急いで出ようとした。


すると官房長官が近づいてきて


「大臣、ちょっといいか?」


「はい?」


「例のカンボジアの外相とは上手く話しできているか?」


「えぇ、食文化を伝えるために新たなコミュニティを発足することで決着はつきました」


「分かった。もし何かあったら報告してくれ」


「分かりました」


そう言って官房長官が出て行った。


俺も後に続いて出ようとする・・・が


「あ、あれ?」


ドアノブを掴んで引いても一切びくともしない。


どうやら鍵がかかってるみたいだ。


俺は鍵を開けようとするが、上手くあかない。


「え?うそでしょ!」


俺は何度もドアを叩いた。


こんなこと生まれて初めての経験である。


国務を担当する大臣が閣議室に閉じ込められる。こんなことがあってもいいのか。


すると向こうから恐らく俺の秘書官と思われる声が聞こえてきて


「どうかされましたか?」


「ドアが開かないんだよ」


「え?ちょっと待ってください」


そう言って向こうから振動が来たが、全くドアが開く気配がない。


「ダメですね。開きません」


「嘘だろ。困ったものだな・・・」


俺は必死に声を出しながらも


「君さ、ちょっと総理を呼んできてくれる。長官でもいいからさ」


「分かりました」


そう言って、向こうで足音が遠のいていく音が聞こえて来た。


これからアメリカに行かなければならないのに、一体どうしたらいいものか。


外交のトップである外務大臣が閉じ込められるなんて、ニュースで報じられるだろう。


良い国民の笑いものになるのが絵に浮かぶ。


もう少し功績をあげてニュースに出たいのに、なんでこんなことで記事にならなければならないのか。


こんな恥ずかしいことになるんだったら、先に部屋から出ればよかった。


官房長官を少しばかり憎みながらも待っていると、携帯が鳴り始めた。相手は秘書官のようだ。


「どうした」


「えっと大臣こそどうかされました?」


「何が」


「あの、ずっと待ってるんですけど」


「閣議室に閉じ込められたんだよ」


「えっ、そうなんですか!?」


「何驚いているんだよ。さっき君が来たじゃないか」


「え?ずっと下で待ってましたけど」


「は?」


じゃあさっきの人間は一体誰だったのか。


しばらくして俺は閣議室から脱出することが出来た。


だが、あの声の正体は未だに分かっていない・・・


~終~

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