その後の物語 6 - 金髪男とピアス男 (2)
※作者より
本エピソードですが、どうしようもなく下品で、果てしなくバカバカしい描写・表現が含まれております。
特に女性の読者様におかれましては、十分ご注意いただき、笑って流していただけましたら幸いに存じます。
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「あれ……?」
金髪男が目を覚ますと、うつ伏せの状態で、身体を皮と金属で出来た拘束具に拘束され、お尻を突き出すような体勢で巨大な机の上に固定されていた。首だけはかろうじて動かすことができそうだ。
「おい、金髪……なんでオマエ裸なんだ……?」
声のした方へ頭を向けると、隣に同じ格好で固定されているピアス男がいた。
「オマエも裸じゃねぇか……」
ふたりとも全裸だ。
「あの女に助けてもらって、ビルに逃げ込んだんだよな……?」
金髪男は状況をまだ把握できていない。
「で、『まずは落ち着いて』って言われて……水を一杯もらって……」
ピアス男も把握できていない。
「その後の記憶がない……」
ふたりの顔が真っ青になる。
ピシィッ
顔のすぐ近くにムチが落ちた。
「バカな豚野郎が……ようやく捕まえたわ……」
ふたりが顔を上げると、そこにはレザーのボンテージに身を包んだ先程の女性がムチを手に立っていた。
「お、お姉さん、俺たちを助けてくれるんじゃ……」
金髪男の言葉に、女性は鼻で笑った。
「アンタたち、大変な人をケガさせたねぇ」
話がわからないふたり。
「お年寄りを転ばせた覚えはないかい?」
ふたりは、金髪男がぶつかって転ばせた眼光鋭い年寄りを思い出した。
「あの方はね、この繁華街一帯を面倒見てくださってる横山組の組長さんよ」
「!」
顔面蒼白になるふたり。
「あの方はお優しい方でね、素人さんには絶対に手を出さないの」
ふたりはホッとした。
その様子を見て、ふたりを睨みつける女性。
「でもねぇ、嗅覚が鋭くてね。この街で
ピシィッ
目の前に落とされるムチの恐怖に気を失いそうになるふたり。
「お、俺たちをどうするつもりだ!」
ピアス男の必死の抗い。
女性はニッコリと優しい微笑みを浮かべた。
そして、声色が可愛らしいモノに変わっていく。
「組長さんにアンタたち捕まえたことを報告したらね、異世界を体験させてあげてほしいって、そう頼まれたの♪」
レザーのボンテージに、可愛らしい声……そのアンマッチさに、ふたりは恐怖した。
そして、ふたりにとって謎のキーワード『異世界』。
「い、異世界……?」
「ど、どういうこと……?」
聞いたことのない言葉にハテナマークのふたり。
「あら、アンタたち知らないのね。最近流行ってるのよ、WEB小説とか、マンガとかで。まぁ、別の世界に行ってしまうってことね」
そう言いながら、ある器具を二本手にする女性。
それは男性の身体の一部分を模した棒状のモノだ。
「ま、まさか……」
ふたりの額に冷や汗が流れる。
「これは『聖剣エクスタシー』と『魔剣ブラックエレクト』。このクリアスライムと相性がいいのよぉ」
女性は聖剣と魔剣に、ドロッとした透明のクリアスライムを塗り込んでいく。
そのままふたりの後ろ、つまりお尻の方へ向かう女性。
何をしようとしているのか、はっきりと分かったふたり。
「うわぁぁぁー!」
「ゴメンナサイ! ゴメンナサイ! ゴメンナサイ!」
ジタバタしてもビクともしない拘束具。
「きっと今日は厄日で、仏滅だったんじゃない? 転生日和ね」
女性の明るい声が後ろから聞こえる。
しつこいようだが、今日は大安である。
「お、お姉さん! そこは出すところで、入れるとこじゃないですー!」
「おがぁぢゃーん!」
ガン泣きのふたり。
「はーい、じゃあ二名様、異世界へごあんなーい。そーれ、てんせー♪」
「うっ」「うっ」
ふたりは異世界への扉を開けた。
◇ ◇ ◇
その後、ふたりは女性に連れられて、横山組組長へ謝罪。
暴力を振るわれたりすることはなかったが、性根を叩き直すということで、組預かりとなった。といっても裏の世界で……ということではなく、風俗店での仕事を斡旋されたのだ。
これまでは適当にアルバイトをこなしていただけのふたりだったが、ここで責任をもって仕事をすることを覚えることになる。
店持ちの寮生活で、慣れないうちは怒られながらの仕事だったが、うまく出来たときには褒めてくれて、きちんと給料も出るので働くことの楽しみを覚えた。
店のいわゆる「嬢」たちには、色々事情を抱えている新人さんの悩みを聞いたり、ベテランさんからは可愛がられたりしており、店側もそれを評価している様子。
もちろん、手を出すことはご法度なので、深い関係には一切なっていない。
戸神本町駅南口の風俗街は、比較的住宅地に近いため、店側も住民とのトラブルには神経を尖らせていた。
これまでも街のゴミ拾いや、町内のイベントへの協力・参加などを行い、住民と良い関係を築いている。
その一環で、交通量の多い交差点での『緑のお兄さん』を、秋の交通安全運動をきっかけにスタート。金髪男とピアス男がほぼ毎朝交差点に立っている状況だ。
◇ ◇ ◇
――午後一時 交差点近くの公園
いつもの定位置のベンチでタバコを吹かすふたり。
店のユニフォームである黒のスーツに蝶ネクタイをしている。
今は昼休憩中だ。
「何だか疲れたな……」
「そうだな。何か疲れたな……」
金髪男の弱音に、ピアス男も同調する。
仕事に張り合いの無さを感じてきてしまっていたのだ。
店からも、嬢からも、とても良くしてもらっており、そんな考えは贅沢で甘えであることも分かっていた。
ただ、頑張ろうという気力が薄まってきたのは確かだった。
ふたりして大きくため息をつく。
「緑のおにいちゃん」
目の前に、小さな女の子が立っていた。小学校の低学年くらいだろうか。
その後ろには、母親と思しき女性がおり、ふたりに頭を下げた。
慌ててタバコを携帯灰皿で消すふたり。
「こんにちは、どうしたのかな?」
笑顔で問いかけるピアス男。
女の子はもじもじしながら、一枚の画用紙を手渡してきた。
そこには『みどりのおにいさん』と書かれたふたりの絵が書かれていた。
母親が女の子の後ろから声をかけてきた。
「先日は、うちの娘が転んでケガしているところを手当てしていただいて、ありがとうございました」
ふたりは思い出した。
横断歩道で転んでしまい、膝を擦りむいていたので、ふたりが手持ちの消毒液と絆創膏で手当てをしてあげた女の子だ。
時折、横断歩道で転んでしまう子どもがいるため、ふたりは救急キットを常備するようにしていた。
「どうしてもお礼を言いたいと……それでこちらによくいらっしゃると娘が言っていたので……」
「あ……いつもここで休憩してるからですね……」
苦笑いする金髪男。
ふたりは腰を屈めて女の子と目線を合わせた。
ピアス男がにこやかに話す。
「ステキなプレゼントをありがとう! お兄さんたちの部屋で大切に飾るからね!」
女の子はとびっきりの笑顔を見せて、元気に頷いた。
ふたりに手を振って帰っていく女の子と母親。
ふたりも笑顔で手を振った。
「なぁ、ピアス」
「なんだ、金髪」
「俺、今やる気満タンだわ」
「奇遇だな、俺もだ」
ふたりは拳を突きつけ合った。
店に戻っていくふたり。
「あぁ、金髪。女王様がまた店へ遊びに来いってさ」
「えー、やだよ。どうせまた奴隷に逃げられて、八つ当たりしたいだけだろ」
「多分な」
「ピアス、お前ひとりで行って来いよ」
「ふたりで来いってさ……」
ふたりは顔を見合わせて、今日何度目かになる大きなため息をついた。
「厄日で仏滅だ……」
とぼとぼと店へ戻るふたり。
ちなみに、この日も大安であった。
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