第41話 夏希
溌剌としていて、男女分け隔てなく友人がたくさんいる。
一言で言えば、私と正反対の人間だ。
そんな彼女と週末を共にするようになるなんて、高校入学当初の私は全く予想していなかった。
高校に入学したばかりの4月、私は図書委員に任命された。
……本なんて、もう見るのも嫌だったのに。
そして、私たちのクラスから選出されたもう一人の図書委員が夏希だった。
「氷川さん!私も図書委員なんだ! よろしくね! 氷川さんはどんな本を読むの?」
委員会初日からグイグイくる子だった。
正直苦手なタイプの子だった。
「私、本はあんまり読まないんだ」
そう答えると、夏希は心底驚いた顔をして、
「じゃあ、氷川さんが本好きになるような本を私が教えてあげるよ!」
と大変ありがたい申し出をしてくれた。
その後、夏希は本当に彼女のおすすめの本を持ってきた。
私は丁重にお断りした。もう、本を読むのは嫌だった。
それなのに、彼女は懲りなかった。
私が断れば、断るほど、ありとあらゆる本を持ってきた。
私の断り方もだんだん雑になっていく。
しかし、彼女も意地になって、いつしか私の家に本を持って来るようになった。
そして、持ってきた本を片手にいかにこの本が面白いかを力説する。
「……、で主人公は依頼人のお父さんが書いた5つの短編集の結末部分を探し始めるんだけどね」
「うん」
「実は、その短編集の結末がさっき話した依頼人のお母さんが殺された事件と重なってくるんだよ」
「……じゃあ、依頼人のお父さんは事件の真相に気づいていたってこと?」
「そこが、この話の面白いとこでね……、おっと、これ以上は是非原作を読んでみてね」
「ちょっと! そこまで話たんだから、教えなさいよ!」
「ダメです。読みなさい」
「……あ、この小説、映画化されてる。明日DVD借りてこよ」
「こら、読め!」
私は彼女がおすすめする本を一度だって読んだことはない。
ただ、夏希と話をするのは楽しかった。
私はどうやら、本が好きな人のことを好きになるようだ。
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