第36話
私はタイマーが時を刻むのをぼうっと眺める。
この食欲を抑える3分間は異常に長い。
ふと振り返ると、こたつに入る夏希の背中が見えた。
私はきっとタカナシさんの子どもなのだろう。
その事実は闇に葬られた。
氷川家当主の蛮行を隠すため、そして、世間に対して氷川夫妻の間に娘が生まれたことにするため、数々の工作がなされた。
その一つがタカナシさんの飼い殺しだ。
タカナシさんを北の森に監禁し、世間に存在した記録を抹消することで、事実は完全に塗り替えられる。
未だにわからないことがある。
氷川家は何故タカナシさんをすぐに殺さなかったのだろう?
あえて危険を犯してまで飼い殺す理由があったのだろうか?
答えはいくら考えてもわからなかった。
ただ、タカナシさんが不幸だったことは分かる。
私は大きくなった。
タカナシさんと一緒に複雑な調理工程が必要なチキンラーメンを作るという夢はとうとう叶わなかったけれど、ネギを切るのに失敗して左手首を切ってしまうなんてことは到底起こり得ないと理解できる年齢になった。
タカナシさんは自分で自分の左手首を切っていたのだ。
タカナシさんは死にたかったのだろうか?
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