第34話
私はヤカンに水を入れ、火にかける。
水が沸くまでの間に、二つ分のどんぶりを用意して、ネギを刻む。
私は誰かさんと違って、包丁で手首を切ったりしない。
あの夜、タカナシさんの本の森は全て灰になった。
それどころか、タカナシさんの小屋も撤去されてしまい、あの場所にタカナシさんがいたことを物語る痕跡は何一つなくなってしまった。
私は森の中にできた空き地に立ち尽くし、耳を澄まし、そして、絶望した。
タカナシさんがその後どうなったのか、想像するのも恐ろしかった。
タカナシさんが何者だったのか?
あの森で何をしていたのか?
とうとう、母の口から語られることはなかった。
母は3年前に亡くなっている。
死因は心臓発作だったらしい。
当時、まだ39歳だと言うのに。
私が学校に行っている間、自室でたった一人で息を引き取ったらしい。
氷川の家を守るという重圧が彼女を押し潰してしまったのか、それとも、彼女に恨みをもつ人物に呪われたのか、今となってはわからない。
ただ、彼女が氷川の家を守るために異常なまでの執着心を持っていたことだけはわかる。
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