第047話 お金は気付いたらなくなるもの
狂ったサマンサを慰め、ゲームを再開した私達は夕方になると、近所のコンビニに行き、お酒と食材を購入した。
そして、まだ眠っていたウィズを起こし、4人で晩御飯を食べ始める。
「コンビニ弁当も飽きてきましたねー」
キミドリちゃんがコンビニ弁当を食べながらぼやく。
「私は美味しいです」
サマンサはクレープみたいなお菓子を食べながら笑顔で反論した。
「私、サマンサさんが甘いもの以外を食べているところを見たことがないんですけど…………そんなんだから甘い血になるんですよ」
この前、ピザを食べてたけどね。
「血の味を言うのはやめてください」
サマンサの顔が赤くなる。
「でも、サマンサさんだって、ハルカさんが芋っぽいって思ってるんでしょ?」
私を巻き込まないでほしいな。
あと、その言い方だと、私が田舎者みたいじゃない?
「そんなことないです。まあ、カレーせんべいを食べていた後にちょっと思いましたけど…………」
おーーい!
そんなことを言われたらカレーせんべいを食べにくくなるわ!
「2人共、もうやめて。ご飯が食べにくくなる」
私はキミドリちゃんとサマンサのくだらない会話を止める。
「いや、だって、ハルカさんとサマンサさんの食事は偏りすぎですよー」
キミドリちゃんはまーだ、文句を言っている。
「私、この国の料理は美味しいとは思うんですけど、お米がちょっと…………」
サマンサはお米が苦手らしい。
まあ、サマンサの国にはお米がなかったからなー。
ちなみに、アトレイアでも、どっかの国にはあった。
めっちゃまずかったけど。
「キミドリちゃんさー、人からいきなり体臭がカレー臭いって言われたらどう思う?」
「あー…………嫌ですね」
「でしょう? だからもう言わないで」
ちなみに、私は今、カレーせんべいのくだりでめっちゃへこんでる。
だって、情事の際、あんなに乱れていたサマンサは内心、『はるるん様、カレーの匂いがするなー』って、思っていたということだ。
私がエターナル・ゼロのメンタルだったら膝を抱えて、引きこもっているレベル。
「うーん、でも、やっぱりコンビニの弁当も飽きてきたなー」
いっつも同じのり弁を食べてるからじゃない?
「出前でも取れば? もしくは、作る」
私がそう言うと、全員が引っ越してからほぼ使われてない豪華な対面式キッチンを見た。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
うーん、めんどい。
「私はお菓子でいいので」
「仕方がないよね」
私とサマンサは俯き、ご飯を食べる。
「女が3人もおって、料理の1つも出来んのか? 情けないのう」
猫缶を食べていたウィズがため息をついた。
「いやいや、ウィズさん。女性が料理を作るものという前時代的な考えは改めたほうがいいですよ」
キミドリちゃんがウィズに異論を唱える。
「いや、どっちにしろ、出来ないことを威張るな。そもそも弁当に飽きたと言ったのはキミドリじゃろう。自分で言ったのなら自分で作れ」
うーん、まさしく正論。
「ぐぬぬ。じゃあ、ウィズさんは作れるんですか?」
「猫に何を期待しておるんじゃ…………妾は猫缶がある。この世界は猫缶の種類が豊富で満足じゃ」
まあ、猫は世界中で飼われているし、猫缶の種類も多いだろう。
しかも、ウィズは何でも食べるし。
「うーん、料理かー。私が作ったら食べてくれます?」
キミドリちゃんはウィズの話を聞き、悩んでいたが、やめてほしい結論を出した。
そして、全員がキミドリちゃんから目を逸らす。
「妾は猫缶があるから…………」
「私も日本食はちょっと…………」
あ、やべ。
思いつかない。
「………………」
私は何も思いつかなかったのでニコッと笑った。
「おー、さすがは私の親! 手伝ってくれますか!」
えー…………
斜め上の捉え方をされたよ。
「いや、私も出来ないよ。卵焼きくらいしか作れないし」
私は施設にいた時に料理くらいはしたことがある。
でも、何故か包丁を持たせてくれなかったので、卵焼きしか作らせてもらえなかった。
一人暮らしをしたら作るんだと意気込んではいたが、いざ一人暮らしをすると、怠惰になってしまった。
「いいじゃないですか。一緒に頑張りましょう」
マジ?
このやる気はどこから湧いて出てきたのだろう?
「まじかー…………」
私はウィズに助けを求めようと思い、ウィズの方を見る。
「頑張れ。おぬしは親じゃろう」
嫌な子供だなー。
「じゃあ、ちょっとだけなら…………」
「よーし、やってみよー」
めんどくせー。
まあ、キミドリちゃんもちょっとやったら飽きるだろう。
「その前におぬしらはダンジョンには行かなくていいのか? 最近、全然、行ってないじゃろ」
ウィズの言葉で私の手が止まった。
「私は借金返済のために行ってますけど…………そういえば、ハルカさん、全然行ってないですね」
キミドリちゃんも気付いていたらしい。
天使アーチャー事件(サマンサの暴走事件)から1ヶ月近くが経ち、今は8月に入った。
外は暑い。
部屋の中は涼しい。
私は1ヶ月間、家でゴロゴロとお酒を飲みながらゲームをし、サマンサと遊んでいた。
だって、外に出たくないんだもん。
「そうかなー。まあ、夏休みみたいなものだよ。サマンサをこっちの世界に慣れさせなきゃだし」
レディコミは余計だけど。
「まあ、いいですけど…………お金は大丈夫です? ハルカさん、パソコンとかテレビとか買ってましたし、この前も冷蔵庫を買ってましたよね?」
キミドリちゃんが言うように、実はこの間、新しい冷蔵庫を買った。
4人いるし、一人暮らしの時に使っていた小さい冷蔵庫では物が入りきらなくなってきたからだ。
主にビールや酎ハイの缶だけどね。
こいつら、めっちゃ飲むし。
「大丈夫だよー」
実は貯金が30万円を切っている。
実はこのままでは今月の家賃を払えない。
言ったら怒るんだろうなー。
「…………口座を見せてもらえます?」
「見せろ」
キミドリちゃんとウィズは何かを察したらしい。
「やだ」
私は2人の要望を拒否する。
「見せてください」
「いいから今の貯金がいくらか言え」
「怒るもん」
もうすでに怒っているような気もする。
「怒るから言ってください」
「もうだいぶ予想がついておるが、預金はいくらじゃ?」
横領借金女に怒られるのは嫌だなー。
スパチャ猫に小言を言われるのも嫌だなー。
「えーっと、27万円かな☆」
てへぺろ☆
「…………思ったよりありますね。反応からして、私は10万を切っているレベルかと」
「妾もそのくらいかなと」
キミドリちゃんとウィズは怒りより安堵の表情を浮かべている。
「じゃあ、あと17万を使うまでは休んでいられ…………ないよねー」
私はもう少し夏休みを満喫しようと思ったのだが、キミドリちゃんとウィズが睨んできたので、渋々、夏休みは終了することになった。
「明日から行きましょう」
「じゃのう」
めんどくさいけど、仕方がない。
働くか…………
「暑いけど、我慢するかー。そういえば、キミドリちゃんに血の操作も教えないといけないし…………」
キミドリちゃんは魔法が苦手なため、遠距離での攻撃が不得手だ。
基本、近づいて、斬りかかるという戦法だが、当然、ケガもしやすいし、血を流しやすい。
天使のハワーやアーチャーと戦った時も遠距離魔法の前に防戦一方だった。
キミドリちゃんは私やサマンサのように黒を基調とした服ではなく、白い道着を着ている。
そのため、血を流すと、白い胴着が血に染まって痛々しいし、不安になる。
「その血の操作って、ハルカさんがやっていた血をプカプカと浮かせてたやつですか?」
キミドリちゃんがもう何杯目になるかわからないビールを飲みながら聞いてくる。
「そそ。キミドリちゃんが私の首を刎ねた時のやつ」
「え!?」
一心不乱にチョコクッキーを食べていたサマンサが驚いたような声をあげ、キミドリちゃんを見た。
「いや、他意はないんですよ。ハルカさんが吸血鬼なのを確かめようとしただけです」
キミドリちゃんはサマンサに理由を説明するが、どう考えても頭がおかしい。
もし、ドッキリだったらどうする気だったんだろう?
キミドリちゃんは前世で絶対に人を殺してると思う。
それも大量に…………
「いや、首を刎ねるって…………何を思ったらそんな行動が出来るんですか? アトレイアの野蛮人達でも、友人知人にそんなことをしませんよ」
サマンサがキミドリちゃんにドン引きしている。
「いや、ノリで…………ほら、そういう雰囲気だったじゃないですか? あそこは絶対にあれで正解ですよ」
どんな正解やねん。
「キミドリさんって、思考がちょっと怖いですよね…………私の首は刎ねないでくださいね。私は荒事が嫌いなので」
サマンサはキミドリちゃんのことを完全にやばいヤツと認識したようだ。
最高峰にやばいサマンサにそう思われるのはちょっとかわいそうだが、否定も出来ない…………
「私の眷属って変なのしかいないなー」
親である私がしっかりしないと!
「ペドフィリアな時点で、おぬしが一番、ヤバいぞ…………」
ペドって言うの止めてくれないかなー。
なんか、悪いことをしている気分になるじゃん。
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