第038話 ウィズはもうあの頃には戻れない


 私は朝早くに目が覚めた。


 隣にはかわいらしい女の子が裸で眠っている。

 もちろん、サマンサだ。


 昨日、新居でのお引っ越しパーティーをした私達は深夜を回る前にお開きにし、各自、自分部屋に戻っていった。


 私も寝ようかなーと思ったのだが、すぐにサマンサが枕を持って、リビングに戻ってきた。

 私は一緒に寝てあげた方がいいだろうなーと思い、ベッドに誘って、一緒に寝た。


 正直、翌日の朝からギルドに行くサマンサに手を出す気はなかった。

 だが、サマンサは一緒にベッドに入ると、すぐに抱きついてきた。

 そして、すすり泣くのだ。

 しかも、なまめかしい息、多め。


 嗜虐心を刺激された私はすぐに襲った。

 もちろん、サマンサもノリノリだった。


 嬉しいが、こんなに求めてくる子だっただろうか?


 サマンサは遠慮がちな子で、あまり自分を出す子ではなかったはずだ。


「まーた、やってんですか?」


 声がしたので、上半身を起こすと、キミドリちゃんがパジャマ姿で立っていた。


「おはよー。早いねー」


 私は眠そうなキミドリちゃんに朝の挨拶をする。


「もう9時ですけどね。社会人の平日からしたら遅いです」


 今日は月曜日。

 社会人が最も嫌う曜日だ。

 私もそうだった。


「そうかなー、私は週一でこのくらいだったよ」

「よくクビになりませんでしたねー」

「なんなかったね。辞めるって言ったら皆、喜んでたけど」


 あれはひどかった。


「ハルカさんがどんな人生を送ってきたのかが気になります」

「今度、教えてあげる。プロローグは親が死んだ話」


 今は何とも思っていないので、笑って話せる。


「結構です。私、そういう話が好きではないので」


 誰だって、好きじゃないだろう。


「ギルドに行くの?」

「ええ。顔を洗ってきますので、サマンサさんを起こしておいてください」


 キミドリちゃんはそう言って、洗面所に行ってしまった。

 私はキミドリちゃんがリビングからいなくなると、幸せそうに眠るサマンサを揺する。


「サマンサ、起きて。ギルドに行くんでしょ」

「んんー」


 サマンサは起きない。


「サマンサー」

「んー? ん? あ、はるるん様、おはようございます」


 サマンサは目を開け、起きると、私の腰に抱きついてくる。


「どうしたの? やけに甘えるねー」


 本当にどうしたんだろう?


「お願いですからどこにも行かないでください…………」


 サマンサは涙声でそう言うと、抱きしめる力が強くなった。


 ああ……そうか。

 私がサマンサをあっちの世界に置いていったから怖いんだ。

 だから、昨日も不安定だったし、求めてきたのだ。


「ごめんねー。私はここにいるから」


 私はサマンサを抱きしめ、落ち着かせる。


「はい…………」


 サマンサは私から離れると、ベッドから降り、魔法でいつもの黒ローブ姿になる。


「昨日はお邪魔してすみませんでした。はるるん様はまだ眠いでしょう? 私はキミドリさんとギルドに行ってきますので、はるるん様は寝ていてください」

「ふあーあ。そうするー。明日は買い物に行こーねー」

「はい!」


 サマンサは可愛い笑顔で頷いた。


 直後、私はベッドに倒れ、寝た。




 ◆◇◆




 私が再び、目を覚ますと、リビングには誰もいなかった。


 いや、一人いた。

 私の枕元で丸まっている猫が一人というか、一匹。


 ウィズは昨日、しこたま飲んでいた。

 明らかに猫の身体以上の量を飲んでいた。

 豪華な新居が嬉しいのだろうが、飲み過ぎ。


 私はウィズを起こさないようにベッドを出て、素っ裸のまま水を飲む。


 あー、私も昨日は飲み過ぎたなー。

 しかも、その後にサマンサと致したから水分不足がヤバい。


 サマンサ……

 私のかわいい眷属。

 たとえ、どんなことがあっても見捨ててはいけない子。


「妾はおぬしを優先するぞ」


 声が聞こえたのでベッドを見ると、ウィズが起きていた。


「ん? 起きたの?」

「まあ、さすがにな」


 ウィズはそう言いながらあくびをした。


「そ」


 私は水をぐびぐび飲む。


「妾はサマンサの事が嫌いじゃない。礼儀正しいし、好いてすらおる。だが、妾はおぬしを優先する。おぬしが大事だからのう」


 ウィズは真面目な口調で言う。


「嬉しいことを言うねー。でも、サマンサの事は放っておいて。私はサマンサを愛してる。あの子は私の子。私の恋人。私の大事な子。邪魔はしないで」


 私はウィズの方を見ないで、水を飲みながら言葉を返した。


「そう言うならもう少し、サマンサを見てやれ。あやつの二つ名を忘れたか?」


 狂恋…………

 狂った恋。


「大丈夫よ。ちゃーんと見るから。愛するから」

「そうか、ならば何も言うまい…………でも、首を絞めるのはやめた方がいいと思うぞ。妾は理解できん」


 何も言うまい…………

 じゃないの?


「いや、なんか、気を失いそうになるのが気持ちいいらしい」

「理解できんのう…………狂恋じゃのう………………おえ、飲みすぎた…………妾も水をくれ」


 あんたもだいぶ狂ってるよ。

 主にお酒に。


 私は二日酔いのウィズに水をあげると、洗面所に行き、顔を洗い、服を着た。

 そして、朝食を食べ始める。


「キミドリちゃんとサマンサはギルドかー。仲良くやっているかな?」


 私はあの2人なら大丈夫だとは思っているが、多少、不安になる。


「大丈夫じゃろ。キミドリは社交的だし、サマンサはキミドリを敵対視しておらん」

「そうなの?」

「敵ではないからのう…………おぬしの好みじゃないし」


 まあ、キミドリちゃんは大人だからね。

 私が絶対に劣情の目を向けない相手だ。


「ならいいや。あー、今日はどうしよっかー?」


 久しぶりのオフのような気がする。


「あ、妾は携帯が欲しい」


 あー、そういえば、そんなことを言ってたなー。


「買いに行こっかー」


 引っ越したら携帯を買おうと思っていたし、いい機会だろう。


「頼む」


 私達は朝ご飯を食べ終えると、準備をし、ウィズ用の携帯を買いに行った。



 近くにある携帯ショップに行くと、ウィズが携帯を選び、購入した。

 そして、昼ご飯をコンビニで買い、家に戻る。


 私はご飯を食べると、昼間からビールを飲みながらゲームをしていた。


「でっかいテレビも欲しいなー」


 今のテレビは前のアパートから持ってきたものだ。

 テレビのサイズは20インチもなく、この広いリビングには不釣り合いの小ささであり、ゲームをするならもっと大きい方がいい。


「明日、サマンサと買ってこい」


 ウィズは新しい携帯をいじりながら命令してきた。


「そうしようかなー。ねえ、あんた、猫だけど、スマホにタップできるの?」


 私はゲーム画面を見ながら聞く。


「魔法で出来るぞ。最初は難しかったけど、おぬしの携帯で練習したし」


 いつのまに…………

 まあ、使えるならいいか。


「スパチャや課金は控えてね。ああいうのは際限がなくなるから」

「うーん…………今日の夜に≪ダークマター≫の生配信をやるんじゃが」


 スパチャする気かな?

 本当にドはまりだなー。


「生配信って、何すんの?」


 私はこっちの世界にいた時からあまりそういうのは見てこなかった。

 だって、幼女が出ないんだもん。


「色々じゃな。経験談を話したり、攻略情報を話したり。まあ、一番人気はやっぱり生ダンジョンじゃろ」


 生ダンジョン!?

 何、そのキモいの!?


「何それ?」

「ダンジョン探索を生配信するんじゃ。すごいぞー。迫力満点じゃし、ドキドキワクワク感がやばい。一番人気のコンテンツじゃな。まあ、たまにグロくなるから、大人しか見れんようじゃが」


 あー、それはおもしろいかもしれない。

 実力や度胸がなくて、ダンジョンに行けない人が気軽に見れ、ダンジョンを経験できる。

 人気が出そうだわ。


「皆、やってんのかな?」


 ロビンソンはやってなさそう…………


「まあ、大体の探索者は多少なりとも、やってたりするぞ。簡単な説明動画でも良いしの。生配信をメインに活動する者もおる。上位ランカーじゃと、視聴数もスパチャもすごいし」


 だろうねー。

 それだけでかなりの収益だろう。


「あんたは≪ダークマター≫推しだったよね? そいつも生ダンジョンをやってんの?」

「やっておるな。というか、≪ダークマター≫は生ダンジョンで人気が出た口じゃ。元々は地味なランカーだったらしいが、ある日、キャラを作り上げた生ダンジョンがバズった」


 どうでもいいけど、こいつ、こっちの世界に染まりすぎでしょ。

 もう忘れそうだけど、一応、魔王なのに…………


「キミドリちゃんもやってたのかなー?」


 人気だったって言ってたし、儲けてそう。


「一時期、やっておったらしいぞ。引退したからもうアーカイブも残ってないが、探せばあると思う」

「ちょっと見てみたいから探して」


 私は身内がそういうことをしていたことが気になり、ウィズに頼む。


「任せろ。妾に探せぬ動画はない」


 おのれはエロ動画を探すニートか!


 ウィズが動画探しを始めたため、私はゲームを再開する。


「あったぞー」


 ゲームを再開して1分も経たないうちにウィズの嬉しそうな声が聞こえた。


 はえーよ!


「もう見つけたの?」

「キミドリはそれだけ人気じゃったらしいからな」


 ただの車バカなのに…………


「どれどれ」


 私はゲームを一時中断し、キミドリちゃんの動画を見てみる。


「ふむふむ」


 動画では、キミドリちゃんがオーク3体相手に一人で戦っている。

 そして、テロップには『キミドリちゃん、危機一髪!? ~オーク編~』とある。


「安売りしてるねー」


 くっころキミドリちゃんじゃん。


「まあ、わかりやすいじゃろ。キミドリはそれっぽいし」


 言いたいことはわかるけどねー。


 動画のキミドリちゃんがオークに苦戦している。

 オークの攻撃をギリギリで避けており、危なそうだ。


「これお芝居?」


 私はキミドリちゃんの動きがやたら鈍いことが気になり、聞いてみる。


「そうじゃな。キミドリは相手の動きを完全に読んでおるし、いくらでも攻撃できるタイミングはあった。というか、そもそも仲間がおるじゃろ」


 それもそうだ。

 動画を取っている人が誰かは知らないが、本当にピンチなら助けに行くだろう。


「こんなんばっか?」

「生ダンジョンはそうじゃな。ほとんど低階層の魔物でやっておる。安全にマージンを取ったんじゃろ。あとはアイテムとかの紹介動画じゃな。あ、車もあったぞ。見るか?」


 いらね。


「見ないわよ。絶対に長いでしょ」

「うむ。1時間の動画が10本以上あるな。再生数はお察しじゃが」


 でしょうね。

 しかし、キミドリちゃんは本当に車が好きだなー。

 あんま女の趣味ではないと思うのだが。


「もういいわ。他の人も見せて」

「ほい」


 私はその後も色んな動画を見ていく。


 セクシー系、料理系、ガチ系、ネタ系。

 色々あるし、人気な動画もあれば、再生数が一桁の動画もある。


「楽しそうなことをしているわねー」

「アトレイアのダンジョンにはない要素じゃな」


 そもそもアトレイアにはカメラがないしね。


「どんぐらい儲かるのかな?」


 元々、私がいたダンジョンのない時でも、こういう動画サイトで儲けている人は結構いたはずだ。


「えーっと、このサイトだと、再生数1回につき0.5円じゃな。あとは、スパチャか。これは人それぞれじゃ。この前、≪ダークマター≫の動画を見ていたが、5万も投げてたヤツがおったな」


 ふむふむ。

 お願いだから、妾も負けておれん、とか考えないでね。


「よし! キミドリちゃんに脱いでもらおう!」


 私は絶対に視聴数を稼げるアイデアを思いついた。


「やめておけ。いくら、あやつでもかわいそうじゃろ」

「うーん、サマンサは絶対に出たがらないだろうしなー」


 あんなかわいいロリは売れると思うんだけど、サマンサは表に出たがる子じゃない。


「いや、おぬしがやればいいじゃろ」

「私? マズくない? 吸血鬼じゃん」

「いや、キミドリもサマンサも吸血鬼じゃろ…………」

「いやー、私って、ドジって死にそうじゃん。でも、すぐに再生するんだよ。ヤバいじゃん」


 まあ、それこそバズれるとは思うけど、色んなところから人気になって、危険だわ。


「別に生配信じゃなくてもいいじゃろ。不都合のところはカットじゃ」


 あー、別に生じゃなくてもいいのか。

 スパチャはないけど…………


「なるほどねー。でも、いいや。めんどい。やり方がわかんないし」


 あまり機械は得意じゃない。

 それに、そこまで容姿に自信があるわけじゃないが、人気が出なかったらそれはそれで落ち込む。


「妾がやってやろう。というわけで、おぬし、明日、カメラとパソコンも買ってこい」


 この子、暇なのかな?

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