第020話 もしかして、純粋って、良い言葉ではない?


 私はギルドから出ると、買い物をして、家に帰った。

 そして、買った総菜をつまみにパーティーを始める。


「いやー、今日は儲かったわ」


 私はワイングラスに入れたビールを一気飲みした後に、ご機嫌気分でウィズに話しかける。


「じゃなー。ユニコーンの10000円は破格じゃ」


 ウィズも安物の赤ワインを飲みながら同意した。


「まあねー。今日だけで40万以上も儲けたわ。これを続ければ豪邸に住む日も近いわー」


 豪邸って、いくらぐらいするんだろ?


「というか、いきなり豪邸じゃなくても、もっといい家に引っ越さんか? 一日にこれだけ稼げるんなら賃貸で借りられるじゃろ」


 魔王の口から賃貸という言葉が出るとは思わなかったな。


「それもそうねー。正直、せんべい布団じゃなくて、この前のホテルみたいなふかふかベッドがいいわ」


 この部屋にあんなでっかいベッドを入れると、もう物が置けない。


「そうしよう、そうしよう。月100万くらいでいいのでは?」

「高くない?」

「今日で40万じゃろ? フルで2日働けば払えるじゃろ」


 まあ、そうか…………


 私は携帯で部屋を探す。


 100万の家賃の部屋なんてあるのかと思ったが、結構ある。


 世の中、金持ちが多いんだなー。


「ウィズは何か希望がある?」

「豪華で。あと、綺麗であればよい」

「ふむふむ」


 私とウィズは飲み食いしながら、携帯で部屋を探す。


「うーん。何件か気になるところはあったけど、決め手に欠けるわねー」

「実際に見に行くか? 霧になれば、いくらでも侵入できるじゃろ」


 まあ、それもそうか。


「ねえ? 場所はギルド近くがいいのかな?」

「おぬしがあそこで活動していくならそうじゃろうな」


 うーん、どうしようかな?

 私は家から近かったらどこでもいい。

 でも、キミドリちゃんがうるさそうだなー。


「まあ、今度、見に行こうかなー…………って、電話きた」


 私とウィズが携帯で物件のサイトを見ていると、画面が急に着信画面に変わった。


「邪魔じゃのう。せっかく見ておるのに…………」


 着信画面に表示されている名前はベリアルだ。

 私はスピーカーモードで出ることにした。


「なーに、ベリアル? 私は忙しいんだけどー」

「そうじゃ、そうじゃ。何時だと思っとるんじゃ」


 私とウィズは携帯に向かって文句を言う。


『それはすまない。時間的にも失礼な時間なことは承知している。とはいえ、早めに耳に入れておいた方がいいと思ってな』

「何よー」

『敵が判明した』


 はやっ!


「もう? 早くない?」

『というより、敵の一部だろうな』

「一部? 一人じゃないんだ?」

『そいつは魔力的に伯爵級程度なんだ。伯爵級が時渡りの秘術は使えんだろう』


 まあ、伯爵級は弱くないし、むしろ強い方だが、時渡りの秘術は無理だろうね。


「なるほどねー」

「というか、伯爵級ならさっさと潰せよ。おぬしの敵ではあるまい」


 それもそうだ。

 ベリアルは人間とはいえ、大公級悪魔。

 伯爵級に負けるわけがない。


『まあ、こちらで処理するつもりでいる。話は他にもある』


 どうやら敵の詳細は本題ではないらしい。


「もったいぶらないで言ってよー」

「そうじゃ、そうじゃ」


 私達は部屋を見て、テンションが上がっていたところなのだ。

 なお、私もウィズも結構、酔っている。


『ふむ。そうだな。実は今朝、青野君が病院に運ばれた』


 ん?

 キミドリちゃんが?


「酒の飲みすぎ?」


 そのうち、肝臓とか壊しそうな子だな。


『いや、その伯爵級に襲われた』


 はい?


「マジ?」

『マジだ』

「死んだの?」

『いや、病院に運ばれたと言ったではないか。死んでないし、命に別状はない』


 なーんだ。


「伯爵級に襲われて命があって良かったね」

『まあ、そうだな。両足切断で済んで良かったよ』


 ………………は?


 いや、良くねーよ!

 淡々と話す内容じゃないわ!!


「はよ言え!」


 私は携帯に向かって怒鳴った。


『ふむ。まあ、そうかもしれんな…………青野君の意識は戻っている。一度、会ってやってくれないか?』

「わかった。今から行く。場所は?」


 私はベリアルから病院の場所を聞き出すと、電話を切った。


「ひえー。キミドリちゃん、かわいそう」

「両足切断かー。人間にはきつかろう」


 当たり前じゃん。

 ってか、人間じゃなくても嫌だわ。

 まあ、私はいくらでも再生できるけど。


 ……………………再生か。


「行くわよ!」

「うむ」


 私はウィズを抱え、霧の状態になると、病院に向かった。




 ◆◇◆




 最高速で飛んできたので、10分もかからずに病院に到着した。

 すると、ベリアルが病院の入口の前でタバコを吸いながら待っていた。


「来たか……」


 ベリアルは私達を見つけると、静かにつぶやく。


「ここは?」


 私はそんなベリアルに近づきながらやたら静かな病院を見る。


「政府お抱えの秘密の病院だ。関係者以外は立ち入り禁止だな」


 そんなんあるんだ……


「へー」

「青野君を表に出すわけにもいかんからな。こっちだ」


 ベリアルはタバコを消すと、病院に入っていったため、私達もついていく。

 病院に入ると、中には誰もいなかった。


「誰もいないじゃん」


 誰もいない夜の病院は怖いなー。


「人払いの魔法をかけてある。病院に猫はマズいのでな」

「すまんのう」


 ウィズが謝った。


「おばあちゃん、それは言わない約束でしょ?」

「おばあちゃん言うな。ベリアル、状況を説明しろ」


 ウィズはベリアルに説明を求める。


「これは青野君の事情聴取や現場の捜査からまとめたことだが、昨日の夜、青野君が仕事終わりに襲撃された。青野君は元々、優秀な探索者だったので、迎撃に出たらしい」


 元Aランク2位。

 襲撃されて、黙って逃げることはないのかもしれないが…………


「あの話を聞いておいて、自重せんのか? 人間がどうにかできる相手ではないのに……」


 ウィズがキミドリちゃんの行動に苦言を呈する。


「運転中に襲われたらしくてな。車を壊されたことにキレたらしい」


 うーん、想像がつくなー。

 車をこの子とか言ってたし。


「それで、両足切断か……」

「ああ。敵の魔法になすすべもなかったらしい。そして、今朝、発見され、ここに運ばれた」


 ええー…………


「両足切断して、一晩も経ってたの? よく生きてるねー」

「探索者はそれくらいできる。ましてや、青野君ならなおさらだろう」


 探索者って、結構、すごいんだな。


「それはすごいのう」


 ウィズも感心している。


「まあな。私も当初はびっくりしたものだ。脆弱な人間がここまで成長するとは思わなかった。普通なら四肢が切断されても、回復魔法やポーションでくっつくらしい。だが、青野君の場合は時間が経ち過ぎていた。あれではポーションや回復魔法を用いても、くっつけることは不可能だろう」


 ありゃりゃ。

 そこまでは出来ないか……


「敵の情報が掴んでいるの?」

「根城は把握しているし、いつでも討てる。まあ、その前に、青野君に会ってもらおうと思ったのだ」

「なるほど」


 私達が話しながら歩いていると、ベリアルがとある病室の前で足を止めた。


「ここだ」


 ベリアルはそう言うと、扉をノックし、部屋に入った。


「青野君、ご機嫌いかがかな? 友人が見舞いに来たぞ」


 ベリアル君、その言い方はどうかと思うなー。


 私とウィズはベリアルを押しのけ、病室に入る。


「やっほー、キミドリちゃん。災難だったねー」

「ああ、ハルカさんでしたか。わざわざすみません」


 キミドリちゃんはうっすらと笑う。


 キミドリちゃんはベッドで上半身だけ起こし、横になっている。

 下半身には薄い掛布団がかかっているが、足の部分が不自然にふくらみがない。

 本当に両足を切断したらしい。


「足がないけど、他にケガはないの?」


 私はキミドリちゃんに容態を聞く。


「いや、そこに触れます? デリカシーないんですか?」


 キミドリちゃんが苦笑いを浮かべる。


「すまんのう。ハルカはデリカシーじゃないものがないんだ」


 ウィズがかばってくれた。


「わかりますよ。残念なことですけど……」


 キミドリちゃんが横に首を振る。


「どういう意味?」


 私は意味が分からなかったのでベリアルに聞いてみる。


「君が純粋だということだよ」


 なるほど!

 よく言われる!


「ケガでしたね。外傷は回復魔法で治してもらいましたが、内臓をちょっと痛めました。フルボッコにされたんで。まさか、両足を切断した後に蹴ってくるとは思いませんでしたよー」


 キミドリちゃんは笑いながらしゃべっている。


「思ったより、元気そうだねー」

「空元気ですけどね。まあ、探索者をやってましたから覚悟はできていますよ。知ってますか? 探索者の引退理由で一番多いのがこれです」


 キミドリちゃんはもうない自分の足を指差す。


「そうなの?」

「そうです。それだけ危険な仕事なんですよ。ある程度、稼いだら五体満足のうちに引退することがベストなんですが、まあ、欲望ですね。もっと欲しい、もっと儲けたい。引き際を間違えたり、ミスをしたり、まあ、色々と理由はありますが、ケガをして辞める方が多いです。とはいえ、命あるだけマシでしょうけど」

「キミドリちゃんは強いねー」

「ですかねー? 私は幸運なことに五体満足のまま引退したんですけどねー」


 キミドリちゃんはまた笑う。


 うーむ、元気そうで何より。


「ところで、何で襲われたの?」

「さあ?」


 キミドリちゃんは首を傾げた。


「ベリアル、わかる?」

「調査中だ。実は引退した上位ランカーが襲われる事件はこれが初めてではない」


 マジかよ……

 早く、始末しなよ。


「まあ、キミドリちゃんが元気そうでよかったよ」

「ウジウジしても仕方がないですしね。前を向かないと…………」


 キミドリちゃんは腕を組み、頷いている。


「そっかー。私はキミドリちゃんがギャン泣きしてると思ってたよー」

「はあ? 何でです? 私、そんなに弱く見えます?」

「いや、だって、その足じゃあ、もう運転できないし」


 私がそう言うと、キミドリちゃんが固まった。


「え?」


 キミドリちゃんがマヌケな声を出した。


「え?」

 

 気づいてなかったの?


「……………………」


 キミドリちゃーん?


「……………………ひ」


 ひ?


「ひっぐ、うわーーーーん!!」


 キミドリちゃんがギャン泣きしだした…………


 何か、ごめん……

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