第180話 47階層と48階層


 ホワイトデーである土曜日はダンジョン攻略がお休みだった。

 俺達≪魔女の森≫は久しぶりに6人で家に集まり、話し合いという名の休息を取った。


 そして、翌日、今日からダンジョン攻略再開である。


 俺達はいつもの方法で46階層に行き、47階層への階段探しを続けた。

 前回のダンジョン攻略で出現モンスターの習性を学んだ俺達は、非常に順調に進めることが出来ている。


 46階層はリビングアーマーしか出てこないのもある。

 しかも、1体しか出てこない。


 なんかボーナスステージみたいだ。

 まあ、ボス部屋に近づくにつれ、ボスに関係するモンスターが出てくることはわかっているため、次の47階層以降は間違いなく、リビングアーマーとキリングドールが複数出てくると思われる。


 俺達は47階層への階段を探しつつ、リビングアーマーと戦い、対策をじっくり練っていた。

 それによりわかったことは、リビングアーマーは≪正義の剣≫のような防御タイプより、俺達の様な攻撃タイプの方が有効だということだ。


 前回の攻略で、リビングアーマーが盾で防御してから槍で攻撃してくるということは判明している。

 それを踏まえて戦うと、盾で防御しているうちに攻撃で押しまくると、リビングアーマーは上手く反撃が出来ないのだ。

 そうなれば、あとはたたみかければいい。


 つまり、リビングアーマーは俺やクーフーリン、あきちゃん、サエコが有効だし、キリングドールは≪正義の剣≫や瀬能が有効ということだ。


 俺達はこれがわかると、一気に進んでいった。


 午前中のうちに、対策を決め、午後になった時には47階層への階段を発見した。


 47階層では、予想通り、キリングドールとリビングアーマーの組み合わせが出現した。

 俺達はこれを役割分担で各個撃破しつつ、進んでいった。


 そして、その日は運がよく、48階層への階段を早々に発見することができた。

 俺達はそのまま48階層へ行き、階段探しを続ける。

 48階層に出現するモンスターは47階層と同様に、キリングドールとリビングアーマーの組み合わせだった。

 しかし、数が多い。


 複数のキリングドールとリビングアーマーが前後から襲ってくる。

 対策はあるのだが、数が多く、足並みが遅れてしまった。


 この日は48階層の途中で、体力的に厳しくなったので帰還となった。


 そして、その翌日、俺達は再び、48階層へ行き、ダンジョン攻略を再開する。


 さすがに、この階層くらいになってくると、ここまで来るだけでも一苦労だ。

 最短距離で来ているとはいえ、モンスターは出てくるし、単純に遠い。


 本来なら泊まりがけでくるようなところだし、仕方がないことではある。

 むしろ、俺のマジカルテレポートでショートカット出来る分だけマシだ。

 だけど、めんどい。


 そうやって一苦労した後に戦うリビングアーマーとキリングドールは本当に疲れる。

 体力のある俺でもそうなのだから、他の連中はもっとだろう。


 先ほども、リビングアーマーとキリングドールと戦った。

 もちろん勝ったし、離脱者はいない。

 しかし、疲労はそこそこにしている感じだ。


「≪Mr.ジャスティス≫、50階層のボスと戦う時は泊まった方が良さそうだわ」


 俺は≪Mr.ジャスティス≫に今後のボス戦について、提案する。


「だね。いきなり行っても疲労がかなりある。問題はこれだけの人数が泊まる場所だ」


 確かにそうだ。

 俺達は3パーティーで18人もいる。

 そんな人数が泊まれる部屋ってあるか?

 ばらけるのは危ないし、打ち合わせもしたい。


 うーん…………

 そうだ!


「ボス部屋の前の通路は?」

「ん? あー……50階層の通路か」


 ボス部屋がある階層はボス部屋の前に10メートルくらいの通路がある。

 モンスターが出ない安全エリアだし、18人くらいなら泊まれるだろう。


 普通は他のエクスプローラの通り道でもあるので、危ないから泊まることはないが、俺ら以外に50階層に来るエクスプローラなんていない。

 起きて、準備を整えれば、すぐにボス部屋に行けるし、安全だろう。


「多少、狭いし、すぐ近くにボスがいるから不安かもしれんが、一番安全じゃね?」


 普通は小部屋に泊まる。

 小部屋には扉があり、滅多にモンスターは入ってこないが、キリングドールとリビングアーマーはわからない。

 なにせ、あいつらは手があるし、見た目は人間っぽいからだ。

 キリングドールは微妙だが。


「いいかもしれないね。とりあえず、それを第1案としておこうか」


 うんうん。

 俺、天才。

 すごいよね?


「すごい、すごい」


 シロが棒読みで賛辞をくれた。


 もうちょっと心を込めな。


 俺は自分の賢さに満足すると、さらに進み続ける。

 道中、多くのリビングアーマーとキリングドールを倒していき、階段を探す。


 そのまま進んでいると、ついに俺達は49階層への階段を発見したのだった。


「今日はここまでにしよう」


 階段を見つけると、≪Mr.ジャスティス≫が言う。


「覗いていかないのか?」


 ついでだし、ちょっと見ていこうぜ。


「いや、今日はここまでにして、一度戻ろう。さっきの話もあるし、ボス戦に挑む計画を相談したい」


 まあ、皆、疲れているだろうし、それでもいいか。


「わかった」


 俺達は49階層の階段を発見したところで、協会に帰還した。




 協会に戻ると、前に使った会議室を借りる。

 18人もいるため、全員が座ることは出来ないが、俺は周囲を無視して、真っ先に座った。


「君達も座ってくれ。疲れただろう」


 ≪正義の剣≫のおっさんAが学生や女エクスプローラに座るように勧める。

 すると、ちーちゃんとアカネちゃんはすぐに座った。


「いえ、そんな。前衛で頑張っていた皆さんの方が疲れているでしょう、皆さんがどうぞ」


 ≪ヴァルキリーズ≫のセツが遠慮をする。


 すると、空気を読んだアカネちゃんがそっと立ち上がった。

 ちーちゃんはガン無視で座ったままだ。

 さすが。


「いや、座ってくれ」

「いえいえ、そんな」


 うぜー。


「めんどくせーから全員立ってろよ」


 俺は優雅に座りながら言う。


「貴様は立て。どうせ疲れてないだろ、体力バカ」

「めっちゃ疲れたわー」

「クソガキ……」

「落ち着け。君達も座ってくれ。僕達は外聞を気にするんだよ」


 ≪Mr.ジャスティス≫が諫めると、学生と女エクスプローラ達は顔を見合わせながら座る。

 なお、ちーちゃんはそんなやり取りをガン無視し、すでに地図を描き始めていた。


 こいつ、協調性なさすぎだな。


『お前が言うな』


 うっせー。


「さて、今日でようやく49階層まで到達した」


 学生と女エクスプローラ達が座ると、≪Mr.ジャスティス≫が話を切り出す。


 まあ、具体的に言うと、到達はしてねーけどな。

 俺は空気が読めるから言わないけど。


「49階層で残り10日か……まあ、予定通りと言えば、予定通りだな」


 サエコが備え付けてあるカレンダーを見ながら答えた。


「ああ。順調にいけば、次の探索で50階層に到達するだろう。そこで、ボス戦についての相談がしたい」

「相談?」

「さっきルミナ君と話してたんだが、ボス戦に挑む時は泊まりでいこうと思う」


 俺の提案!


「いいんじゃない? たった10階層とはいえ、かなり疲れるし、精神力も消費してるしね。でも、どこで泊まんの?」

「50階層のボス部屋前の通路がいいかなって」


 俺の提案!!


「あー……なるほど」

「えー……」


 サエコが納得しているようだが、否定的な声があがる。

 キララだ。


 キララが声をあげたので、全員がキララを見る。


「えーっと、私、男の人と同部屋はちょっと…………というか、そもそも泊まりの経験すらないんですけど」


 相変わらず、気にするやつだなー。


「誰もお前なんか襲わねーよ」


 襲うならシズルだわ。

 そんなヤツは殺すけど。


「そういうことを言ってんじゃねーよ!」

「めんどくせー処女だな」

「てめーもだろ!」

「俺が処女じゃなかったらやべーわ!」


 怖いわ!


「落ち着け、アホ。当たり前だが、男女で距離を取るし、私が見張るから大丈夫だよ」


 女の味方である≪ヴァルキリーズ≫のリーダーが俺の頭を叩き、キララを説得する。


「そうそう、大丈夫だよー。私が一緒にいるから」


 あきちゃんはキララを抱き、≪正義の剣≫を睨む。


「はあ……まあ、じゃあ、はい」


 キララは渋々、納得したようだ。


「ものすごい誤解が生まれてるな。僕らはそんなことしないよ」


 ≪Mr.ジャスティス≫が嘘くさい笑顔で弁明する。


「どうだか……」


 お前はミレイさんよりキララ派だろ。


「ルミナ君は黙ってて」

「はいはい。男女に分かれるのね。どうせ俺はどっちにも入れないわけだ。悲しいねー」


 いつものことだよ。


「このめんどくさいアホは放っておこう。泊まりなのも、泊まる場所もわかった。50階層についたらそのまま泊まって挑むのか?」


 サエコが俺を無視しして、話を続ける。


「一度、どんなものか挑んでみたい。49階層までの難易度を考えると、一筋縄ではいかないと思うし」

「負ける前提か……それもありかもしれん。帰還の結晶は配布されるわけだし、じっくりやる方がいいか」


 消極的な案だと思うが、その方が良さげ。

 俺らは学生だし、無理はできん。


「ボスに挑む係と雑魚を散らす係、あと、後衛を守る係に別れたほうがいいんじゃねー?」


 俺も意見を言っておこう。


「そうだね。乱戦になる可能性が高いし、役割を決めておいた方が良い」

「まあ、そうだな…………うーん、選択肢があんまないなー」


 ≪Mr.ジャスティス≫が同意し、サエコは皆を見渡しながら悩む。


 ないねー。


「実力のあるクーフーリンとあきちゃんにボスを任そうぜ。俺とサエコが雑魚担当。他は後衛のお守り」


 まあ、後衛のお守り=キリングドールだけど。


「瀬田と秋子ねー…………」


 サエコは不安そうに2人を見る。


「サエコちゃん、ひどい」

「信用ねーなー」


 ねーよ。


「こいつらに状況を見て、臨機応変に対応する頭はないだろ。わかりやすくボスに突っ込まそう」

「それもそうだな」


 俺が言うと、サエコは即答し、頷いた。


「「ひどい」」


 事実じゃん。


「まあまあ。火力も高くて、実力もある君達に任せるんだよ。僕達が苦労しても君達がデュラハンを倒せば終わるんだから頼むぞ」


 ≪Mr.ジャスティス≫がアホ2人を宥める。


 物は言いようだな。


「しょうがないなー」

「仕方ないなー」


 こいつら、簡単に木に登るなー。

 単純なヤツら。

 そんなんだから≪教授≫にいいように使われるんだろうなー。


 俺達はボス戦についての話し合いを終えたところで解散となった。

 そして、各自、泊まりのための買い物をし、明日に備えた。





攻略のヒント


「≪教授≫の由来は…………いや、わかりますね」

「当時は准教授だったがね。おかげ様で教授になれたよ」


『二つ名の由来を聞いてみよう~坂本ケンジ~』より

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