第176話 リーダー会議
43階層に進んだ俺達は前後から襲ってくるキリングドールなるマネキンに苦労した。
それでも3パーティーの連携で対処し、44階層への階段を見つけた。
その日はその時点で解散となったが、翌日から44階層の攻略を開始した。
44階層では、43階層に引き続きキリングドールが出現した。
また、それと同時に42階層にいたシャドウメイジも一緒に出現した。
普通なら防御無視で接近して襲ってくるキリングドールに加え、遠距離から魔法を放ってくるシャドウメイジの組み合わせは脅威だろう。
だが、以前の42階層もだったが、俺にはプリティーガードがある。
そうなれば、シャドウメイジはただの経験値でしかない。
44階層は、容易に突破できそうだった。
ただ、44階層では、なかなか階段を見つけられなかったせいで、攻略には3日も要してしまった。
その後、45階層に進んだのだが、45階層は攻略が難しかった。
出てくるモンスターがこれまでのモンスター3体が同時に出てくるのだ。
接近戦で攻撃してくるキリングドール。
全身鎧に盾を持ち防御と連携が上手いダークナイト。
そして、遠距離から魔法を放ってくるシャドウメイジ。
回復要員こそいないが、非常にバランスの取れた組み合あわせである。
そして、この3種類のモンスターが2体ずつ、計6体のパーティーが前後から襲ってくるのだ。
その中でも、シャドウメイジは問題ないが、キリングドールとダークナイトの組み合わせは脅威だった。
厄介なキリングドールを速攻で倒したいのだが、ダークナイトが邪魔をしてくるのである。
俺達はこれまでと同様に、前に≪正義の剣≫を置き、後ろは≪魔女の森≫と≪ヴァルキリーズ≫+その他で挑んでいる。
しかし、一応、倒せてはいるが、非常に危うい感じだ。
何度か、キリングドールに前衛を抜かれ、後衛が襲われているのである。
その時は後衛に下がっているシズルとショウコが対処したために、難を逃れることができた。
しかし、シズルもショウコも接近戦は出来るが、守ることに長けたエクスプローラではない。
もし、シズルもショウコも打ち漏らし、後衛が襲われたら死人が出るだろう。(特にキララとちーちゃん)
そして、死人が出た時点で帰還だ。
前衛はともかく、後衛がいないと攻略がきついからである。
これまで、何度か45階層に挑んではいるが、攻略自体はあまり進んでおらず、死人が出るのも時間の問題だった。
そこで俺達は一度、編成の見直しのために、各パーティーのリーダーで相談をすることにした。
メンバーは≪Mr.ジャスティス≫、サエコ、俺の3人だ。
俺達は協会の応接室を借り、本部長を交え、相談をしている。
「どうしよっか?」
このレイドのリーダーである≪Mr.ジャスティス≫が話を切り出す。
「あんたらは問題ない。問題は後ろを対処する私らだな。タンクが神条の所の瀬能しかいない。ましてや、あいつは優秀だとは思うが、レベル不足だ」
Mr.ジャスティス≫の問いにサエコが答えた。
俺もそう思う。
後ろにいる俺達は12人もいるのに、守りに長けたヤツが瀬能だけなのだ。
バランスが悪すぎる。
「同感。せめて、速攻で片づけられればいいんだが、ダークナイトのせいで、それが出来ない」
俺、サエコ、クーフーリン、あきちゃんは攻撃しか能がない。
そのくせ、速攻で倒せないんだから、情けないにもほどがある。
「うーむ、原因は何だ?」
話を聞いていた本部長が聞いてきた。
「単純なレベル不足と連携不足だな」
俺は悩みながらも答える。
「レベル不足はともかく、連携不足はどうにかならんか?」
「なんない。俺とサエコは、パーティーでは突っ込む役目。クーフーリンとあきちゃんはそもそもパーティー戦に慣れてない」
各自が勝手に戦うのだ。
指示を出しても、その意図が伝わらなければ、かち合うだけで意味がない。
「45階層を突破したら、間違いなく、次の相手はリビングアーマーでしょう。名前からして防御に長けた相手です。そして、ボス戦では、キリングドール、リビングアーマーが出ます。ここをどうにかしないと、どちらにせよ、詰みます」
≪Mr.ジャスティス≫の言う通りだろう。
今の45階層を俺の爆弾で突破しても、後で詰むのがわかっている。
「うーむ……」
本部長が考え込みだした。
「なあ、援軍とかないの? 他所の余剰戦力とかないのかよ」
俺は手っ取り早い方法として、増援を思いついた。
「ない。というか、他所も援軍を求めているレベルだ。もっと言えば、上からお前を他所に派遣できないか言われている」
あー、俺のマジカルテレポートか……
「そんな余裕ねーよ」
「もちろん断っている。だが、こちらが他所に援軍を求めても、他所も同じことを思っているということだ」
まあ、そうだわな。
むしろ、東京本部は俺のマジカルテレポートがあるだけ、恵まれている。
他所は泊まりがけだもん。
「ってか、ユリコのアホはどうした? さっさと帰国させろよ」
俺がそう言うと、本部長は頭を抱えだした。
「あのバカは無理だ。あいつ、アメリカで問題を起こしやがった。それで捕まった」
まじで?
あいつ、何してんだよ……
「何したん?」
「いつもことだ。それで捕まった。そして、司法取引でアメリカのダンジョン攻略してるよ。アメリカもこっちと同じだからな」
もう、あいつの免許を取り上げろよ。
役には立たんし、迷惑とストレスをまき散らしてるだけじゃねーか。
「あいつのことは忘れよう」
「そうしてくれ」
多分、本部長の責任問題になっているんだろうなー。
「援軍なしか……僕達でどうにかするしかないね」
≪Mr.ジャスティス≫がサエコを見た。
「だな。あんたの所から一人、後ろに回してくれない? タンクがあと一人いれば、何とかなる」
確かに、瀬能ともう一人のタンクがキリングドール2体を抑えれれば、後衛に行かれることはないだろう。
「うーん、5人はきついよ。僕らだって、余裕があるわけじゃないんだ」
≪Mr.ジャスティス≫は難色を示す。
「じゃあ、俺がそっちに回る」
「ルミナ君が? 大丈夫? ケンカしない?」
嫌な心配のされ方だな。
「しない。俺にとっては死活問題なんだ。お前らのいやらしい視線も我慢しよう」
俺は50階層を攻略できなければ、2ヶ月に一回しか、男に戻れない。
別にいいけど、それでは少ないから嫌。
ここは俺が大人になり、おっさん共の好色で卑猥な視線を受け入れてやろうではないか。
それが余裕ある大人な女というものだ。
「すごい言いがかりだ」
いいや、見てるね。
俺の子宮がそう言っている。
怖いわー。
引くわー。
『俺っちはお前に引く。子宮って……』
うっさい。
「≪正義の剣≫のおっさん共の視線がどうかは知らないが、私も賛成だな。神条のハルバード、邪魔だし」
こらー、サエコー。
邪魔って言うな!
まあ、俺も邪魔だろうなーって思ってたから立候補したんだけどね。
「うーん、じゃあ、まあ、木塚と入れ替えようか」
木塚はおっさんAの名前だ。
そんな名前だったと、言われて思い出した。
多分、明日には忘れてる。
「そうしよう。あいつ、マジカルテレポートの度に俺のお尻を触る痴漢野郎だし」
この前なんか触るだけじゃなくて、撫でてきやがった。
マジで殺したろかなと思ったわ。
「いつもお前の尻を触ってんのは、お前の所のヒーラーだけどな」
サエコが衝撃の事実を告げる。
アカネちゃん…………
あのガキ、何してんの?
「いや、止めろよ」
「アカネが触るたびに、お前があのおっさんにキレるのが面白くて……」
後ろで俺を触っている連中は皆、グルだな。
やってることが小学生じゃねーか。
「これは問題だわ。本部長、サエコをBランクに落とそう」
「いや、なんでだよ」
サエコ、うっさい。
「話を聞いてると、お前の誤解というか、木塚への冤罪に聞こえるんだが……」
冤罪?
バカ言ってんじゃねーよ。
「女が不快と思えば、それはセクハラなんだ。おっさんはアウト、サエコもアウト」
アカネちゃんはあとでイジメる。
無視の刑だ。
あいつ、5分で泣くぞ。
「私、関係ねーじゃん。そもそも、私はお前にセクハラされたことがあるが?」
「ねーよ。自意識過剰だぞ」
俺がやったのは昔、殴って、蹴っただけ。
まあ、その倍以上はお前にやられてるけどな。
これは傷害もプラスでCランク降格だ。
「いや、お前にえっちなパンツ穿いてるけど、見るかって聞かれたし」
……………………うーん、ショウコの家で言ったかもー。
「…………君、何がしたいの?」
「…………バカは放っておこう。進捗的にはどんな感じだ?」
≪Mr.ジャスティス≫と本部長は俺をスルーするようだ。
悲しいね。
「10日で半分の45階層ですから悪くはないです。ただ、油断はできません」
「ふむ。お前らはどう思う?」
本部長は俺とサエコにも聞いてくる。
「堅い敵が多いけど、まあ、なんとかなるでしょ。秋子と瀬田がいるし」
本部長の問いにサエコが答えた。
「あいつらか…………真面目にやってるか?」
お前は親か?
「やってるな。正直、秋子は相変わらずだが、瀬田はびっくりした。あの一匹狼ぶったチンピラがちゃんと周りを見てるし、指示にも従ってる」
「あいつを≪勇者パーティー≫に入れたのは正解だった。色んなヤツに噛みつくドチンピラだったが、今は学生達を上手く導いている。だから、あいつもAランクにしたんだ」
「へー。あいつがねー」
うーん、まあ、確かにハヤト君達と上手くやってるな。
川崎支部で当時、中学生の俺に絡んできたテンプレ雑魚チンピラとは思えん。
「ふむ。お前は?」
本部長は頷き、俺にも聞いてくる。
「50階層に行けないと困るわ。こいつらと違って、俺は必死」
「まあ、そうだわな。お前の仲間はどうだ? ついていけてるか?」
「うーん、まあ、俺も含めて、ウチの連中のレベルの上がりようがすげーわ。最初はきつかったが、今は最初よりかは戦えてる。他の連中もフォローしてくれてるし、問題はねーよ」
一番すげーのは、レベル10から17に上がったキララだけど。
「そうか…………ならいい。くれぐれもお前の無茶に付き合わせるなよ」
「しねーよ。ウチにはこいつらと違って、将来があるんだ。こんなところで躓けるかよ」
しかし、そんな学生を連れていかないといけないって、この東京本部はどんだけ雑魚しかおらんのだ?
ミレイさんでも、引きずり出せないかね?
「ミレイさんは出せない?」
「無理だ。まず事務所が許可を出さない。詳しくは言えんが、そういう契約でエクスプローラの宣伝とかを頼んでいるんだ」
やっぱりかー。
まあ、そんな気はしてた。
「他に有望そうなのいない? もう1パーティー増やそうぜ」
「レイドは3パーティーまでだよ。これ以上増やしても、ごちゃごちゃするだけで、効率が逆に下がるんだ」
レイドに詳しいだろう≪Mr.ジャスティス≫が教えてくれる。
「あー、それもそうか。今でさえ、ごちゃごちゃしてるもんな」
広い部屋ならともかく、ダンジョンの通路は幅が7メートル程度で、そこまで広くない。
特に俺がハルバードを振り回せば、敵じゃなくて、味方に当たりそうだ。
「じゃあ、人数はこのままで、俺とおっさんが入れ替わるってことでいいか」
「それでいこう。サエコさんもいいね?」
「ん」
≪Mr.ジャスティス≫もサエコも同意した。
「大体でいいんだが、今後の予定を聞きたい。上が聞きたいそうだ」
本部長が進捗率だけでなく、予定まで聞いてくる。
「わかるわけねーだろ。行ったことねーし、ましてや、50階層のボスの強さもわかんねーんだぞ」
バカかな?
「大体でいいって言ってるだろ。上も選定を始めるつもりだろう。このまま各協会に任せて、多くのダンジョンを失うより、戦力を集中させて、一つでも多くダンジョンを残したいんだ」
なるほど。
攻略が難しいダンジョンを捨てて、そこのエクスプローラを他所に回すんだ。
「さっきも言ったが、俺は拒否するからな。俺はここから離れん」
行ったこともないダンジョンなんかより、トランスバングルだ。
「安心しろ。ここは絶対に残さないといけないダンジョンの一つだ。というか、ダンジョン学園があるところが最優先だな」
じゃあ、いいや。
早めに終わったら手伝う程度かね?
「僕の考えでは、あと10日以内に50階層に到達する予定です。残りの10日で50階層のボスを攻略ですね」
リーダーである≪Mr.ジャスティス≫が予定を伝える。
「わかった。引き続き、頑張ってくれ」
本部長はそう言って、部屋から出ていった。
「本部長も大変だねー」
「だろうね。実際のところ、この協会は余裕があると見られてるだろうし」
「そうなん?」
「ここはAランクが僕とサエコさんとクーフーリン君の3人いるし、君もいる。しかも、50階層までだし、転移魔法があるからね」
ほとんど俺のおかげじゃん。
「お前らがAランクになるから、援軍が来ないんだな」
俺はサエコを睨む。
「いや、知るか。っていうか、援軍なんか来たら、絶対に報酬で揉めるぞ。私らはお前と付き合いが長いし、仕方がないからトランスバングルを譲ってやるんだ」
がめつい女だなー。
そんなにトランスバングルが欲しいのか?
「お前、男になりたかったん? ≪ヴァルキリーズ≫はどうすんだよ?」
「何で私が男になるんだよ」
「じゃあ、いらないじゃん」
「売れば高くなりそうだからだよ。皆、それはわかってるけど、言わねーの。こんな状況で揉めてる時間なんてないし」
あー、前にシロも言ってたなー。
性別を変えるアイテムは変態さんが買うから高くなるって。
『違う、違う。スパイとかが使うの』
それそれ。
「ほーん」
「だから、本部長は真っ先に報酬の話をしたんだよ。お前が50階層に下げたのは確かだし、転移魔法も使える。間違いなく、功績の一番はお前になる。でも、揉めるのがレイドだ。これまでも何度も揉めてきた」
うーむ、揉めてそう……
≪ヴァルキリーズ≫なんて、女しかおらんし、なめられそうだもんなー。
そんなヤツ、殴ればいいのに…………いや、もうやってるか。
サエコだもん。
「なるほどねー」
「わかったか? ただでさえ、譲ってやるんだから、これ以上、強欲な小娘さんにはなるなよ」
その強欲な小娘さんはいつまで呼ばれるんだ?
俺の二つ名は≪陥陣営≫だよ?
クソガキで有名な強欲な小娘さん(笑)じゃないよ?
「まあまあ、サエコさん、ルミナ君だってわかってるよ。ね?」
≪Mr.ジャスティス≫が諫めてきた。
「うん! わかってる! お前ら、ありがとう!」
ルミナちゃん、感激ー!
「…………絶対にわかってない」
「ハァ…………やっぱり疲れるな」
わかってるよー。
わたくしは謙虚、堅実に生きております!
攻略のヒント
「どうして、≪戦姫≫なんですか?」
「ジョブが姫騎士だからじゃね?」
「あまり呼ばれませんね?」
「姫っぽくないからじゃね?」
『二つ名の由来を聞いてみよう~村松サエコ~』より
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