第130話 21階層と22階層


 ちょっと小物臭がする先輩2人に絡まれかけた俺達だったが、特に揉め事も起きなかった。

 そして、俺達はマジカルテレポートを使い、20階層まで飛んできた。

 これからミノタウロスを瞬殺し、21階層へ向かうのだ。


「………………帰ろうぜ」


 俺は20階層のボス部屋前の通路で四つん這いになり、つぶやく。


「いや、来たばっかじゃん。精神力を使ったのはわかるけどさ」

「大丈夫?」


 文句を言うちーちゃん。

 背中をさすってくれるシズル。


 この差だよ。


 俺はマジカルテレポートを使い、20階層までやってきた。

 1階層から一気に20階層は無理っぽかったので、5階層飛ばしで順々にやってきたのだが、どんどんと精神力が減っていき、マナポーションを飲みながらここまでやってきたのだ。


 マナポーションは精神力をすぐに回復できるが、辛いものは辛い。

 なんか、すげー疲れるのだ。

 しかも、後でトイレに行きたくなる。


 もう漏らさないぞ!


「あー、少し休むかい?」

「そうする」


 さすがのちーちゃんも悪いと思ったのか、休憩を提案してきたので、俺は少し休むことにした。


「ちーちゃん、休んでいる間に21階層以降の進め方を言っておく」

「進め方?」

「お前ら後衛は変に節約せず、魔法を使え。レベルが上がったとはいえ、まだ、難易度は高い。この辺に来れば、マナポーションを使いまくってもドロップ品と相殺して、赤字にはならん。その分、儲けは減るが、今は鍛えることを優先しよう」

「先行投資なわけね。了解」


 ちーちゃんは納得したようで、頷く。


「前衛は特にない。瀬能、がんば!」


 俺は瀬能にサムズアップする。


「わかってるよ。でも、回復は早めに頼むよ」

「アカネちゃん」

「大丈夫ですよー」


 アカネちゃんは明るく了承する。


「あのー、神条さん。ちょっといいですか?」


 カナタが俺に聞きたいことがあるらしい。


「僕、レベルが13に上がってるんですけど、スキルはどうした方がいいですかね?」

「あ、私も」


 カナタとアカネちゃんはスタンピードやらなんやらでレベルが上がっている。

 しかし、スキルは取らずに、貯めていたのだ。

 

「カナタは火力を上げるのと、≪高速詠唱≫を取れ。虫地獄が待ってるし」

「あー……そうでしたねー……」


 カナタのテンションが下がった。

 俺とカナタはスタンピードの時に嫌な思いをしているので、しょうがない。


「…………取りました」




----------------------

名前 斎藤カナタ

レベル13

ジョブ 魔術師

スキル

 ≪火魔法lv4→5≫

 ≪土魔法lv2≫

 ≪疾走lv1≫

 ≪集中lv3≫

 ≪身体能力向上lv1≫

 ≪高速詠唱lv1≫new

----------------------




 カナタは中学生のくせに、火魔法のレベルが5もある。


 すげーな。


 俺は弟子の成長に素直に感心する。


「私はどうしましょう?」


 アカネちゃんか…………


「逆にどうしたい? ミレイさんを目指すか?」

「うーん、回復魔法のレベルが3もあるので、とりあえずは、前衛スキルを上げたいです。でも、前には出ません!」


 アカネちゃんは万能型を目指すようだ。

 かつて、俺が蹴飛ばして、ゴブリンに突っ込ませた時に泣いていたアカネちゃんとは思えない。


 どんなヤツでも成長するんだなー。


 俺はアカネちゃんの肩に手を置き、うんうんと頷く。


「じゃあ、≪疾走≫を取りな。残ったら取っとけ」

「はーい」


 アカネちゃんはステータスを操作した。




----------------------

名前 柊アカネ

レベル14

ジョブ プリースト

スキル

 ≪身体能力向上lv2≫

 ≪怪力lv2≫

 ≪回復魔法lv3≫

 ≪集中lv2≫

 ≪高速詠唱lv3≫

☆≪逃走lvー≫

 ≪疾走lv1≫new

----------------------


こんなもんかねー。


ちなみに、瀬能やちーちゃんは勝手にやるし、シズルはその都度スキルを取っている。




----------------------

名前 雨宮シズル

レベル16

ジョブ 忍者

スキル

 ≪身体能力向上lv5≫

 ≪疾走lv4≫

 ≪空間魔法lv2≫

 ≪度胸lv2≫

 ≪隠密lv4≫

☆≪忍法lv2≫

 ≪諜報lv3≫

 ≪投擲lv3≫

----------------------

名前 斎藤チサト

レベル17

ジョブ 学者

スキル

 ≪集中lv3≫

 ≪エネミー鑑定lvー≫

 ≪空間魔法lv2≫

 ≪回復魔法lv3≫

 ≪水魔法lv3≫

 ≪風魔法lv2≫

 ≪身体能力向上lv1≫

☆≪記憶術lvー≫

----------------------

名前 瀬能レン

レベル18

ジョブ 重戦士

スキル

 ≪身体能力向上lv4≫

 ≪デコイlvー≫

 ≪鉄壁lv5≫

 ≪怪力lv3≫

☆≪痛覚耐性lvー≫

 ≪空間魔法lv2≫

----------------------




 こいつらもハイペースで成長している。

 瀬能に至ってはミレイさんと並んだ。

 まあ、この1ヶ月でミレイさんもレベルを上げているだろうけど。




「じゃあ、そろそろ行くか」


 俺は立ち上がり、待っている皆に告げる。


「もういいの?」


 シズルが心配そうに聞いてくる。


「大丈夫。時間はあるけど、さっさと行こう」


 俺は片手を上げ、問題ないことをアピールすると、扉を開け、ボス部屋に入っていった。


 ボス部屋に入ると、闘技場に見えるリングがあり、その中央にはミノタウロスがいる。


「どうすんのさ?」


 ちーちゃんが聞いてくる。


「瞬殺してくるわ」


 俺はそう言うと、走り出した。


 俺が走っている途中で、リングを跨ぐと、ミノタウロスが動き出す。

 ミノタウロスは突っ込んでくる俺を迎撃しようと斧を振り上げた。


「遅い!」


 俺は既に跳べる距離まで近づいているのだ。


 俺は走りながらタイミングを図り、左足に力を入れ、跳んだ。

 そして、走った勢いのまま、蹴りを繰り出す。


「ルミナちゃんキーック!!」


 説明しよう!

 ルミナちゃんキーックとは、世界一かわいいルミナちゃんが蹴る!

 以上!


 俺の跳び蹴りはミノタウロスの腹に突き刺さった。


 俺の足に会心の感触が残る。

 そして、ミノタウロスは身体をくの字に曲げ、飛んでいく。

 ミノタウロスは場外に落ち、息絶えた。


「フッ……強すぎるぜ」


 俺様はかっこよく着地し、決めゼリフを言った。


「終わったね。じゃあ、21階層に行こうか」


 ちーちゃんがそう言うと、皆、あっさりと21階層への階段へ歩き出す。


 あれ?

 何かないの?

 すごーいとか、さすがーとか。


「もう見飽きたんだろ。相棒の戦闘は派手だが、さすがに何回もやってればな」


 ガーン!!

 俺の唯一といってもいい取り柄なのに!


 次からはもうちょっと演出を凝るか……


 俺が悩んでいると、魔石とドロップ品を拾っていたカナタがトコトコと小走りで俺の所までやって来た。


「神条さん、すごかったですねー! さすがでし――」


 俺はかわいいカナタを抱きしめた。


「何してるんだ、あれ?」

「センパイを称賛するのがカナタ君だけだからじゃないですか?」

「絵面が普通の男女だから微妙に気になるね。しかも、片方は私の弟」

「当人達はマイペースだから気にはしてないでしょうけどね」


 お前らはカナタのようにリーダーをワッショイする気はねーのか!


 ないよね……

 私、知ってる。




 ◆◇◆




 俺達は21階層へとやってきた。


 21階層は10月のスタンピードの時にも来たが、あの時は最短ルートを通っていったので、探索自体はしていない。


「相変わらず、足場が悪いねー」


 俺の隣にいるシズルが片足のつま先をトントンしながら言う。


「お前はスピードがあるから特に気を付けな」


 21階層からはこれまでの遺跡系ではなく、ゴツゴツした洞窟系になる。

 アリの巣のような雰囲気なのに明るい。

 正直、不気味で怖いし、1人では来たくない。


「21階層は吸血コウモリと吸血トカゲだったよね?」

「だな。≪隠密≫で隠れているから索敵を念入りにな」

「うん」

 

 俺達は21階層の情報を共有すると、探索を開始した。


 22階層への階段の位置はわかっているが、ここから近いので、あえて遠回りをして、探索をしている。

 宝箱があるだろうし、少しでもこのゴツゴツ洞窟での戦闘に慣れておきたいのだ。


 俺達は洞窟を歩いていると、シズルの足が止まった。


「何かいるっていうか、吸血コウモリがいる」

「カナタ」


 俺は洞窟の先の天井を指差した。

 俺もそこに5匹の吸血コウモリを見つけたのだ。


「いきますよー…………ファイアー!」


 カナタが詠唱し、火魔法を放った。


 カナタの放った火魔法は見事に天井に張り付く吸血コウモリに命中し、燃え広がる。

 しかし、端の方にいた1匹は多少燃えたものの、難を逃れ、こちらに羽を羽ばたかせ、襲い掛かってきた。


 それを見た俺と瀬能はそれぞれの武器を構える。

 俺はなるべく魔法を使う気にはなれないので、ショートソードを構えている。

 俺はたいして速くもない吸血コウモリに狙いを定めるが、横にいたシズルが投げナイフを取り出したのを見て、構えを緩めた。


 シズルはすぐに投げナイフを投擲すると、ナイフは見事に飛んでいる吸血コウモリに命中し、吸血コウモリはそのまま地面に落ちていった。


 飛んでいるコウモリにすら、見事に当てることが出来るのが≪投擲≫のスキルだ。

 普通はまず当たらない。


 投げナイフが当たった吸血コウモリは煙となり、他の燃えている4匹も消えた。


「終わったねー」


 シズルは余裕の笑みを浮かべている。


「まあ、吸血コウモリならこの程度か…………」


 ちーちゃんいわく、この21階層と22階層に出てくる吸血コウモリと吸血トカゲは≪隠密≫にさえ、気を付けていれば、強くはないらしい。


 索敵系のスキル持ちが2人もいれば、まず見落とすことはないし、楽勝だろう。


「さて、行くか」


 俺は全員の無事を確認すると、再び、歩き出す。

 そのまま歩いていると、何度か吸血コウモリに遭遇するものの、すべて危なげなく倒した。


「その先は行き止まりだよ」


 相変わらず、ちーちゃんは地図も見ずに教えてくれる。


「宝箱があるかもだから行ってみるか」


 宝箱が出やすいのは、小部屋の他に、通路の行き止まりだ。

 たまにポツンと置いてあったりする。

 逆に通路の途中に置いてあることはあまりない。


「なんかあるねー」


 俺達が行き止まりへ向かうの通路を歩いていると、シズルが何かを見つけたようだ。

 俺の探知スキルは敵しか発見できないので、わからない。


「宝箱?」

「多分ね」


 良いものが入っていると嬉しい。

 21階層くらいになると、宝箱に入っているアイテムの質も上がる。


 俺達がそのまま歩いていると、俺達にも宝箱が視認できた。


「おー、マジで宝箱じゃん」


 俺達は宝箱の近くに集まる。


「罠は?」

「ないねー」


 罠はないらしい。


「じゃあ、開けろ」

「うん。おたからー」


 シズルがかわいい掛け声と共に宝箱を開けた。


 中身は液体が入った瓶だった。


「ポーション?」


 シズルが聞いてくる。

 俺は即座に薬品鑑定を使い、シズルが持っている瓶を見た。


「ただのポーション。レベルは3だな。ハズレではないけど、当たりでもない」


 ポーションは貴重だし、そこそこの値段で売れるが、21階層でレベル3ならそこまで珍しいものじゃない。


「次に行こう」


 俺達は再び、探索を開始するが、宝箱を見つけることが出来ずに、21階層の探索を終え、22階層への階段まで来た。

 もちろん、その間にも戦闘はあったが、全部、吸血コウモリだったため、楽勝だった。


「今、何時?」

「3時。行く?」

「まあ、ここで帰ってもしゃーないし、行ってみよう」


 俺達はそのまま22階層へと向かった。

 

 22階層に着くと、早速、吸血トカゲを見つけた。

 俺はテクテクと歩いて、ショートソードで切り付けてやった。

 吸血トカゲはそれだけで息絶えてしまった。


「弱いねー」

「見つけてさえしまえば、余裕だろ。前に来た時だって、ここら辺では苦労しなかったし」


 俺達はその後、22階層を探索し、宝箱を見つけたりしたが、特に気になるようなものはなかった。

 モンスターも吸血コウモリと吸血トカゲが複数出てきたりはしたが、それらも連携して上手く処理していく。

 そして、俺達は22階層の探索を終え、23階層への階段までやってきた。


「ここまでは楽勝」

「まあ、そこはわかってたよね。問題は次」


 次に23階層は食人蛾とヘルホーネットである。

 この階層は以前に来た時は俺のカボチャ爆弾で奇襲爆破したため、まともに戦ってはいないのだ。

 そして、ちーちゃんいわく、食人蛾とヘルホーネットは強い。


「ちーちゃん、弱点は?」

「虫は火だよ。がんばって」


 まあ、そうだろうな。


「毒はあるん?」

「ないよ」


 毒がないだけマシか……

 俺は大丈夫だが、瀬能は状態異常に弱いからな。


「シズル、カナタにつけ。攻撃は二の次で良いからカナタを守れ」

「了解」

「さて、俺と瀬能はスズメバチ相手にひどい目に遭いにいくかね」

「まあ、仕方がない。それが前衛の役目だ」


 俺達は23階層への階段を降りて行った。





攻略のヒント

 エクスプローラは所属する協会を移籍する時は必ず、協会に申請しなければならない。

 また、許可なく、移籍することは禁止されており、厳罰対象となるため、注意すること。


『エクスプローラ協会HP 協会を移りたい時は?』より

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