第096話 さあ、英雄になろう!
俺達が活動している東京本部のロクロ迷宮でスタンピードが発生し、原因となるクイーンスパイダーを倒すという依頼を受けた俺は準備を終え、協会へとやってきた。
俺が協会に着くと、協会のロビーには普段よりも多いエクスプローラの姿があった。
こいつら、スタンピードが起きていることを知らないのか?
この東京本部の協会にはDランク以下しかいないと聞いている。
Dランクというのは弱くはないが、強くもないという中途半端なランクだ。
エクスプローラの中で一番数が多いランクではあるが、そのほとんどが上を目指すことを諦めた情けない連中である。
俺は何してんだろうと思いながらも無視して、マイちんがいる受付へと向かう。
すると、受付の前には、すでにパーティーメンバーの5人が揃っていた。
「おまたせ。なんでこんなに人が多いんだ?」
「この人達がスタンピードに備えるエクスプローラらしいよ」
俺の問いにシズルが答える。
「多くね?」
いつもの倍以上はいる気がする。
「皆、スタンピードがダンジョンの外に出ないように頑張るんだよ」
「ふーん。まあいいか。準備は出来たか?」
「もちろんだよ!」
シズルはまだ例の忍者衣装ではないが、気合い十分といった感じだ。
「ルミナ君、こんなことになっちゃったけど、貴方しか頼れる人がいないの」
受付にいるマイちんが申し訳なさそうに俺に言う。
「たがが蜘蛛だろ? ゾンビじゃないんだから余裕、余裕」
「そう……今ほど、貴方の自信が頼もしく感じることはないわね。これが要望のあったポーションとマナポーション、そして、帰還の結晶よ」
マイちんはそう言って、魔法袋を人数分渡してきた。
「ありがと」
「魔法袋をそのまま持っていっていいわ。いい? 危なくなったら、迷わず、帰還の結晶を使うのよ」
「わかってるよ」
俺はマイちんから魔法袋を受け取ると、パーティーメンバーの5人に渡した。
「神条」
後ろから俺を呼ぶ声が聞こえたため、後ろを振り向くと、武装した伊藤先生がいた。
そして、伊藤先生の後ろにも武装した5人の先生達がいる。
「あれ? 先生達も戦うんですか?」
「ああ、私達が先行して、お前らを20階層まで連れていく」
それは助かる。
「引退してんのに、大丈夫です?」
「私達は元Bランクだ。引退したとはいえ、20階層くらいならいける。それ以降はお前らに任せるしかないがな」
先生達を見ると、確かに、強そうな武器を持っている。
伊藤先生は市販のロングソードだけど。
ごめんね。
「じゃあ、お願いしますわ」
「本来なら、生徒にこんな役目を押し付けたくはないんだが、すまん」
「そう思うなら、今度の中間と期末試験を頼むわー。あの後、母さんにすげー怒られたし」
「それは知らん。勉強しろ」
ちょっとテストを横流しするだけでいいのに。
「来たか、神条」
俺と伊藤先生が話していると、本部長がやってきた。
「逃げたりしねーよ」
「そんなことは疑っていない。それよりも、今回の作戦の流れを説明する。お前らはここにいる教員方に先行されて、20階層を目指せ」
「聞いたよ」
「そうか。その後だが、先生達とここにいるエクスプローラは1階層で待機する。もし、お前らが失敗したら、帰還の結晶ですぐに帰ってこい。そうなったら、他の迷宮に行っている高ランクのエクスプローラが戻るまで時間稼ぎをする」
まあ、そうなるか。
「俺が失敗なんてありえねーけどな。打ち上げの準備でもしとけ」
焼肉でいいぞ!
「そうだとありがたいな。24階層までの地図を渡しておく。ただし、キルスパイダーがどこまで来ているかは不明だ。気をつけろ」
「はいよ」
俺は本部長から地図を受け取ると、地図をちーちゃんに渡した。
「頼むぞ!」
本部長はそう言うと、後ろを振り向き、いつの間にか、こちらを注目していたエクスプローラや先生達を見る。
「皆! これから作戦を開始する! なんとしてもモンスターが外に溢れるのを阻止するんだ!!」
「おー!」
「まかせとけ!!」
本部長が全員に気合いをいれると、皆は拳を掲げ、応じた。
「だから、お前らは遊んどけばいいんだよ……」
俺達が負けると思ってんのかね?
「よし! ついてこい≪魔女の森≫!!」
伊藤先生はそう言うと、他の5人の先生達と共にダンジョンへと向かった。
「俺らも行くか」
「だね!」
俺達は協会の職員やエクスプローラ達に見守られながら、先生達についていった。
先生達のパーティー6人と俺達はロビーを出て、ダンジョンの入口に向かう通路を歩いている。
すると、前方にいつもの警備員2人が見えてきた。
「よう、ルミナ。頑張ってくれよ」
チャラい警備員、榊が声をかけてくる。
「よう。お前らも戦うのか?」
「いや、俺らはエクスプローラじゃねーから無理だよ。お前らがダンジョンに行ったら逃げる」
それでいいのか?
「別に逃げなくてもいいぞ。俺が失敗するわけないからな」
「ひゅー! さっすがー!!」
何かうざいんだよなー、こいつ。
「神条、頼んだぞ」
もう一人の警備員である鈴村も激励してくれる。
「だから、余裕だって」
「頼もしいな。それと、こんな時にすまんが、川崎支部の方は大丈夫だろうか? 俺の実家は川崎支部の近くなんだ」
「へー。まあ、あそこは大丈夫だよ。≪ファイターズ≫のクズ共がいる。素行最悪なあいつらがエクスプローラを続けられているのは実力があるからだ。それにクーフーリンと≪教授≫もいるんだぜ」
実際、≪ファイターズ≫は強い。
魔法職はいないが、戦闘能力は日本のクランの中でも群を抜いている。
「そうか…………」
「それに東城さんがいる。万が一にもありえねーよ」
東城さんは魔法や状態異常を使ってこないモンスターが多いダイダラ迷宮では敵なしだ。
「そうか。すまんな、こんな時に。お前なら何も問題はないと思うが、気をつけてな」
「ああ。行ってくる」
俺は2人に別れを告げ、再び、ダンジョンに向けて歩き出した。
そして、ダンジョン入口までやってきた。
「これから先は私達が先行する。お前らは体力や精神力を温存しておけ。19階層で泊まりになる」
伊藤先生が俺達を見渡し、言う。
今は午後の1時だ。
25階層まで行くのには、どんなに飛ばしても泊まりになってしまう。
「はいよ。無理してギックリ腰になるなよー」
「私達はまだ若い」
全員30オーバーだろ。
おじさん、おばさんじゃん。
言ったら、怒られそうだから言わないけど。
「まあ、よろしくです」
「ああ、行くぞ!!」
俺達はロクロ迷宮へと入っていた。
攻略のヒント
みんなー! 今日も元気ー?
あきちゃんはとっても元気だぜー!!
今日もエクスプローラを紹介するぞー。
第8回目はこの人を紹介しちゃいまーす!
東城ヒロシさんでーす!
この人も超有名!!
あの悪名高き≪ファイターズ≫のボス!!
といっても、東城さんはすごく優しい人なんだけどね。
大きくて、怖いけど!!
東城さんももちろんAランク!
二つ名は≪破壊者≫!!
物騒な二つ名だよね。
でも、二つ名に負けない強さを持っているよ。
武器はモーニングスター。
モーニングスターっていうのは、棒に鎖がついていて、その先にトゲトゲの鉄球がついている武器だね。
よくゲームとかで見るヤツ!
あれを食らったらモンスターもぐちゃぐちゃだね!!
東城さんは元教師で全国各地の素行不良なエクスプローラを集め、更正させようとクランを立ち上げたんだ。
だから、≪ファイターズ≫は悪い人がいっぱいいる!!
≪陥陣営≫のルミナ君も所属していたことで有名だね!
まあ、あの人が更正なんて無理だろうけど。
ちなみに、あきちゃんは東城さんとパーティーを組んだこともあるんだよ!!
すごいでしょ?
まあ、東城さんの戦闘はもっとすごかったけどね!!
叫び声が大きいし、暴れまくるからねー。
多分、モンスターもビビってたと思う。
じゃあ、ここでいつもの裏話でも話しちゃいますか!!
といっても、東城さんはいい人すぎて、悪いところがないんだよねー。
あきちゃんもいつもの悪口が思いつかない。
うーん、何かあったかなー?
そうだ!!
東城さんの奥さんは身長が150センチもない小柄な人だよ!
やーい、ロリコーン!!
まあ、あきちゃんも150センチないんだけどね…………
それに胸は負けてる………
うえーん!
ハァ……あきちゃんは将来に期待しましょう。
では、ではー、次の更新がエクスプローラ紹介の最後になります。
誰でしょう~?
まあ、あのアホしかいないけど。
みんなちゃーんと、毎日チェックしてね?
『≪モンコン≫ことBランクエクスプローラ春田秋子のブログ』より
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