第5章

第081話 安全神話の崩壊


 ダンジョン学園の夏休みイベントである合宿遠征では、ゾンビ地獄により、心に傷を負ったものの、なんだかんだで、旅行を楽しむことができた。

 しかし、合宿遠征を終え、帰宅すると、世界に激震が走るニュースが飛び込んできた。


 それはスタンピードである。


 シロいわく、スタンピードとは、ダンジョン内のモンスターが地上に溢れ出る現象らしい。

 本来なら、モンスターは階層を移動しないし、ましてや、地上に出てくることなんてない。

 

 実際、ダンジョンが出現して10年近く経つが、これまでに地上でモンスターが確認されたことはなかった。

 しかし、偶然が重なれば、起きる現象らしい。

 

 夏休みの合宿遠征では、俺と≪Mr.ジャスティス≫、≪教授≫、ユリコ、クーフーリン、ハヤト君のイロモノ6人はパーティーを組み、名古屋支部のニュウドウ迷宮を調査した。

 その時のことをあまり思い出したくはないが、シャーマンとかいうモンスターのせいで、ゾンビが大量発生していた。

 

 このケースでは、10階層のボスであるデスシャークが強すぎるため、ゾンビでは10階層を越えることは出来ない。

 よって、スタンピードが起きる可能性はないらしい。

 しかし、もし、デスシャークが弱く、俺達の調査が遅れていれば、ゾンビ達は地上に溢れ出ていたのだ。


 おそらく、似たような現象がアメリカのダンジョンでも起きていたのだろう。

 そして、止める者もおらず、スタンピードが発生した。


 これがシロからの情報提供を得た≪教授≫が出した答えである。


 アメリカのスタンピードにより、溢れ出た魔物はアーミーアントだ。

 こいつは戦闘中に仲間のアーミーアントを呼ぶ習性がある。


 これは≪教授≫の推測だが、どっかのアホがアーミーアントと戦闘になったものの、倒すことも、引くことも出来ず、アーミーアントを半永久的に呼び出したために発生した人為災害の可能性が高いらしい。


 不幸中の幸いだが、被害は少なかったらしい。

 スタンピードが発生したカブラ迷宮は、アメリカでは不人気迷宮であり、優秀なエクスプローラはあまり常駐していない。

 しかし、たまたま、Aランクのエクスプローラが里帰りをしており、そいつが食い止め、時間を稼いだのだ。

 その間に、エクスプローラや軍が集結し、スタンピードを押さえ込んだらしい。


 とはいえ、ダンジョンの安全神話は見事に崩れ去った。


 ダンジョンの恩恵により、更なる発展をしてきた世界に、大きな課題が与えられてしまったのだ。

 

 このニュースはダンジョンを所有する各国を大変に慌てさせた。

 特に日本では、俺達が調査していたニュウドウ迷宮でも、スタンピードの可能性があったことが衝撃であった。


 エクスプローラ協会はすぐに調査員を全ダンジョンに派遣し、スタンピードの傾向がないか、調査し始めた。


 おかげで、ダンジョンへの立ち入りが禁止されている。

 俺の予定では、この夏休みに仲間のレベルを上げ、深層に向かえたらなーと思っていたのに、完全に予定を崩されてしまったのである。


 しかも、シロの意見を聞きたいとかで、何度も本部長に呼ばれ、お偉いさん方に説明するはめになったのだ。

 話すのはシロであるため、俺は話すこともなく、ただボーッとシロに付き添っているだけである。


 俺の夏休みはそれで終わってしまった。



「ああ……明日から学校かぁ……この夏休みは合宿遠征だけで、何も出来なかったなー」

「仕方がないでしょ。あんなことが起きたんだから」


 俺は朝から自宅にシズルを招いている。

 

 今日は夏休み最終日であり、シズルに夏休みの宿題を手伝ってもらっていたのだ。

 それも先ほど終わり、今はシズルとお茶を飲んでいるところである。


「しかし、お偉いさん方はうざかったわー。何回、同じ話をさせるんだっつーの!」

「話してたのは、俺っちだけどな。お前は机に突っ伏して、寝てただろ。全員、呆れてたぞ」


 だって、退屈なんだもん。


「結局、日本でも、スタンピードが起きる可能性はあるの?」

「結論は『わからない』だ。何しろ、深層まで調査することは難しいからな。来週くらいには、ダンジョンも開放されるらしいぞ」


 1ヶ月近くも封鎖しておいて、使えねー連中だ。


「それって、大丈夫なの?」


 シズルが心配そうに聞いてくる。


「大丈夫だろ。別に、今までと一緒だ。俺らがダンジョンに行こうが、行くまいがスタンピードが起きる時は起きるし、起きない時は起きない」

「まあ、そうだろうけど、不安ね」

「どっちみち、これ以上封鎖は出来ないらしいぞ。ダンジョン資源の供給をこれ以上ストップには出来ないんだってさ」


 今の世の中では、ダンジョン資源が失くなれば、かなりヤバいことになる。

 ダンジョンが出現して10年、俺達はダンジョンに頼りきりなのだ。


「クラスの子に聞いたんだけど、ダンジョン学園に通うのをやめろって言う親御さんもいるみたい」

「ふーん。まあ、連日、ニュースで騒いでいるからなー」


 アメリカでスタンピードが発生して以来、テレビでは、毎日、ダンジョンの危険性について、聞いたこともない専門家が現れ、面白おかしく報道している。


「ルミナ君のところは何も言われてないの?」

「言われてない。俺、強いし。お姉ちゃんやホノカも特に言われてないな。お前のところは?」


 っていうか、俺の場合は、男に戻るために、ダンジョンに行かないといけない。

 行くなと言われても行く。

 

「ウチは好きにしなさいって」


 ホッ……

 良かった。

 シズルがいなくなると、色んな意味で困る。

 

「他の連中はどうかねー?」

「一応、≪魔女の森≫のメンバーは問題ないみたい」


 それは良かった。

 誰かが欠けると、バランスが崩れるし、パーティーメンバー集めをもう一回やらないといけないため、非常に困るのだ。


「ひとまずは安心だな」

「だね」


 良かった、良かった!

 

「話は変わるが、お前、この後も大丈夫か?」

「大丈夫だけど、何? どっか行くの?」

「実はこの前のゾンビ狩りでレベルが上がってな。メルヘンマジックのレベルを上げたから、それを試しに行きたいんだ」


 あのゾンビ地獄の最後は、俺のヘルパンプキンでシャーマンとゾンビ軍団を一掃した。

 そのおかげでレベルが上がったのだ。


「いいけど、ダンジョンは閉鎖中でしょ?」

「大丈夫。聞いて驚け。新しいメルヘンマジックは空を飛ぶ魔法なんだ!」


 俺は以前、空を飛べる魔法のことをシロに聞き、いいなーと思ったので、メルヘンマジックのレベルを上げ続けてきたのである。

 おかげで、ラブラブファイヤーなどの魔法を仲間には散々、馬鹿にされ、笑われてしまったが。


「空を飛べるの!? それはすごいね!」

「だろう? というわけで、どっかに行こう!」

「どこに行くの? さすがに町中はマズいよね?」


 確かに、マズいかもしれん。

 最近はスタンピードのせいで、過敏になってるし、大騒ぎになる可能性が高い。


「学校に行くか……先生に話して、校庭を貸してもらおう」

「それが良いね!」

「よし! 行こうぜ!」


 俺達は準備をして、学校に行くことにした。





攻略のヒント

 みんな~、今日からはモンスター紹介じゃなくて、予告通り、有名なエクスプローラを紹介してくよー。

 

 まず、記念すべき1回目はこの人!


 木田セイギさんでーす。

 

 みんなも知ってるよね。

 そう、≪Mr.ジャスティス≫だよー。


 木田さんは日本に協会が出来た時からエクスプローラをやってる大ベテランなんだ!

 いわゆる、第一世代だね。

 

 あきちゃん達、第二世代はこの人達に憧れて入った世代だから、初めて会った時は緊張しちゃったよ~。


 ≪Mr.ジャスティス≫は攻守のバランスが非常に良く、しかも、リーダーシップもあり、クラン≪正義の剣≫のリーダーでもあるんだよね。


 まあ、ここまでは皆も知ってるよね。

 それじゃあ、つまんないから裏話でもしようかな。


 ≪正義の剣≫、≪Mr.ジャスティス≫共に木田さんの名前であるセイギから来ているんだよね。

 

 実はこれ全部、自称なんだ!


 クラン名を決めたのも木田さんだし、二つ名を決めたのも木田さん本人なんだよね。

 

 意外でしょ!


 実はナルシス……自分が好きな人なんだね!


 あと、ここだけの話、あきちゃん達、第二世代にはそんなに好かれてない。

 木田さんというよりも、≪正義の剣≫がね。


 あの人達はすぐにあきちゃん達を馬鹿にするんだよね。

 

 ちゃんとやれって。


 ひどいよねー。

 

 あきちゃん達は真面目にやってるのに~。


 おーっと、愚痴や陰口は良くないからこの辺にしておこー!



 次の更新も、エクスプローラ紹介をしていくからみんなちゃーんと、毎日チェックしてね?


『≪モンコン≫ことBランクエクスプローラ春田秋子のブログ』より

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