第013話 贖罪とパーティー結成


 マイちんの所で成果の精算を終えたあと、昼を回っていたため、食事を取ることにした。

 

 俺達は、私服に着替えた後、協会の真向かいにあるレストランにいた。


「今日はおつかれさま。ここは出すから好きなのを頼みな」

「え、いいよ。今日の成果も全部譲ってもらったのに」

「いいから、いいから。ここは協会に協力している店で、ランクが高いと安くなるんだよ。ここの食材はダンジョン産で、うまいぞ」

「いいの? 本当にありがとう。どれにしようかな? 実は来たかったんだ、この店」


 遠慮していたシズルだが、俺が強く勧めると、嬉しそうにメニューを見始める。


 この店は協会からダンジョン産の食材を直接卸しており、その分、安いうえに、うまい。

 そのため、一般人にも人気で予約待ちがすごいらしい。

 ただ、本来はエクスプローラの福利厚生の一環で建てられた店であるため、エクスプローラなら専用席があり、優先的に座れる。


「私はやっぱり、一番人気のダンジョン定食にする。ルミナ君は?」

「俺もそれにするわ」


 ダンジョン定食はテレビや雑誌で、何度も取り上げられた大人気メニューだ。

 ダンジョン産の食材をふんだんに使っており、俺も最初にここに来て食べた時に感動した。


 俺とシズルは近くにいた店員さんを呼び、ダンジョン定食を注文すると、今後の事を話し合う。


「今後の予定について話そうと思う」

「うん。私のレベル上げをしながら11階層を目指すんだよね?」


 俺が本題を切り出すとシズルは神妙な面持ちで答える。


「ああ、今日のお前の動きを見て、午前中に言った予定で問題ないと判断できた。具体的に言うと、ランダムワープを利用してポーションを取りに行くのは、今から3週間後だ。俺達は9日後にダンジョン学園に入学する。学校が始まれば、昼間はダンジョン攻略が出来なくなるから進捗率は落ちるな」

「そう……よね。休むわけにはいかないかな?」

「ダメだ。俺がお前に指導できるのは戦闘がメインだ。お前の今後の事はもちろんだが、俺も川崎支部に居たから東京本部のロクロ迷宮の事は詳しくない。学園に入学すると、まず、その学園に付属しているダンジョンについて教わる。だから、昼間はロクロ迷宮の特性について学び、ダンジョン攻略は放課後や土日を使うことになるだろう」


 ダンジョンは各ダンジョンごとに出てくるモンスターや罠、フィールドなどが違うため、ここを知らないと、痛い目をみることになる。


「そうね。私達は2人だし…………あの、他の人は頼れないかな? ルミナ君に不満があるわけじゃないけど、もっと人が居れば、安全で早く進めると思うんだけど」

「無理だ。まず、悪いが、≪レッド≫の俺と組むヤツはいないし、初心者のお前と組むヤツも少ない。お前はRainだし、その容姿だから組むヤツもいないことはないが、そういうヤツと組んでもロクな事にならないのは、お前の方が良くわかってるだろう? そして何より報酬で揉める。売れば、何億もするだろうポーションを手に入れて、どう分配する気だ? 下手すると、刃傷沙汰だぞ」


 刃傷沙汰で済むならいい。

 借金、仮免停止、訴訟、そして≪ブラック≫や≪レッド≫入りだな。


「そう……ね。じゃあルミナ君は何でこの依頼を受けてくれたの? 私、ルミナ君に払えるものなんかないよ」


 あるよー、いっぱいあるよー。

 ナニとは言わないけどねー。


「マイちんに頼まれたからだ。俺がエクスプローラを始めて6年間、散々世話になった。おそらく、マイちんがいなかったらとっくの昔に免許を取り上げられている。俺が≪レッド≫になった理由を教えてやる。俺がエクスプローラを始めた時、効率良くアイテムを集める方法が流行った。わざわざモンスターを倒したり、宝箱を探さなくても、持っているヤツから奪えばいい。俺はPKの常習犯だった」

「PK?」

「PK。ゲーム用語でプレイヤーキルの略だ。他のエクスプローラを殺し、アイテムを奪うことだ」

「……え、ちょっと待って、そんな事って」


 シズルは目を見開き、動揺している。


「そう、許されることじゃない。当時の俺達はダンジョン内では、パーティーが全滅しないと死なないという法則から完全にゲーム感覚だった。これは俺だけでなく、他にも結構いた」

「そう…………なの?」

「ああ、今じゃ考えられないだろうが、当時はそれがある種の流行りだった。人を殺している感覚などない。ただゲームのような悪質プレイヤー程度ぐらいにしか考えていない」

「………………」


 シズルは黙ってしまったが、俺は構わず話を続ける。

 

 本当なら黙っていたほうが良いのはわかっていたが、何故かシズルには伝えておきたいと思ってしまった。


「さっきダンジョン内で俺のスキルについて話しただろう? 当時の俺のジョブは≪暗殺者≫だ。だから、≪隠密≫レベルが高い。≪魅了≫を使い、油断させ、殺す。当時の必勝パターンだな。犯行手口とも言う」

「…………」


 シズルは完全に黙ってしまったが、俺の目をじっと見つめ、逸らすことはない。


「当たり前だが、そんなことが横行すると、協会も黙ってはいない。他のエクスプローラに声をかけ、自衛させた。これがあの有名なクラン≪正義の剣≫の始まりだな。だが、PKをやるヤツは後をたたなかったし、協会も後手後手だった。そこで、協会はPK犯の大がかりな取り締まりを行うことにした。まあ、取り締まりというか討伐だな。その結果、PK犯はほぼ捕まった。俺の所には、≪ファイターズ≫のクランリーダーである東城さんが来たよ。戦ったんだが、まるで相手にならなかった。第一線でモンスターと戦うエクスプローラとPKばかりしている俺とでは、差がありすぎたな。その後、お前も知ってるだろうが、ダンジョン法が改正され、PKは殺人罪と同様な罪になり、例の危険度判定制度が導入された。当時PKしていたヤツは大抵≪ブラック≫になったな。俺は手口が悪質なうえ、やりすぎたから≪レッド≫になってしまったよ。本当なら免許を取り上げるべきなんだろうが、有能で将来を期待されていた俺が惜しいってんで、監視を付ける条件で免許取り上げまではしなかったみたいだな」


 東城さんは戦いながら俺を説得し、エクスプローラとはどうあるべきかと何度も伝えてきた。

 

 俺は東城さんと戦って、自分がしてきたことにようやく気づいた。

 

 そして、東城さんをカッコいいと思った。

 俺もこうなりたいと、東城さんみたいな強さが欲しいと。

 まあ、その後、東城さんに師事したが、強さの意味をはき違え、川崎支部を追い出されたのだが。


「これが俺が≪レッド≫の理由だ。知らなかっただろ? この事件は模倣犯を防ぐためと、エクスプローラの印象を下げないために箝口令が敷かれている。この話を知っているのは本当にわずかだ…………言うなよ」


 シズルの目が俺を責めるように感じるのは、俺の罪悪感からだろうか。

 

「俺が何故、お前の依頼を受けたって話だったな? その時から白い目で見られることが多かった俺だが、かばって、いつも味方になってくれたのがマイちんだ。そんなマイちんから頼まれたから、お前の依頼を受けた」


 もう1つある。

 それは贖罪だ。

 俺はエクスプローラとしてダンジョン攻略をしてきたが、頼まれれば、後輩や新人の指導を断らなかった。

 これは当時の悪行への罪滅ぼしと、これからのエクスプローラには、ああいう事件を起こして欲しくなかったからだ。


 俺は決して逸らすことのないシズルの目を見る。

 こいつは俺がこの依頼を受けなければ、間違いなく悲惨な道を行くだろう。

 俺の自己満足でしかないが、俺はそれを見たくなかった、止めたかったのだ。


「シズル、新人指導としては、今日ので十分だ。この後の依頼は別のヤツがいいなら紹介してやる。無償とはいかないだろうが、なるべく、依頼料を下げるように頼んでやる。高ランクのヤツに伝手がないわけではない」


 ≪正義の剣≫、≪ヴァルキリーズ≫、そして、東城さん。

 俺の知り合いで受けてくれそうなヤツはいる。


 俺は高ランカー達を思い浮かべ、シズルに問うと、シズルはその重い口を開く。


「1つ聞かせて。あなたは後悔してる?」

「ああ、そうだな。後悔している。最低なことをしたなと……よく考えたら俺はいつも後悔している気がするな」

「わかったわ。改めて言うわ。私があなたに支払えるものは何もないけど、私の依頼を受けてちょうだい。お願いします」


 シズルは俺に向かって丁寧に頭を下げ、お願いする。


「ああ、わかった。その依頼を受けよう」

「それと、もし良かったら、依頼が、終わっても私とパーティーを続けてくれないかな?」


 え? いいの?

 さっきまでの話で、何でそうなるんだよ。

 頭おかしいのか、この女?


「……それは俺も望んでいることだが、いいのか? お前はRainだろ? 俺と組むと、今後の芸能活動に支障をきたすぞ」


 あのRainに熱愛発覚!

 お相手はイケメンエクスプローラ!! みたいな。


「いいの。どのみち歌手も芸能界も引退してるし」

「引退? そんなニュース、聞いたことないぞ?」

「事務所が辞めないでほしいってことで、休止にしてるのよ。私はもう戻るつもりはないの」


 へー、そうなんだー。

 辞めるの?

 もったいなくね?


「せっかく賞も取ったのに辞めるのか?」

「元々、歌が好きで、動画投稿サイトに自作の歌をアップしてたんだけど、それを見た事務所からCDを出さないかって言われてね。それでデビューしたんだけど、私が歌いたい曲と売れる曲は違うのよ。事務所は当然、売れる曲を求めてくる。でも、それを作詞作曲して歌うのに疲れたわ。本当に苦痛なの。やっぱり趣味は仕事にしたらダメね」


 シズルはアラサーのOLみたいなことを言って、ため息を吐く。


 お前、何歳?


「そうか、じゃあ、正式にパーティーを組もうぜ。先に言っておくが、俺はトラブルメーカーって、良く言われる。後悔するなよ? あとから、やっぱり解消って、言っても解消しないからな」

「いや、解消してって、言ったら解消してよ。束縛が強い男はモテないよ?」


 うっせー。

 ぜってー逃がすか。

 

「ようやく手に入れたパーティーメンバーだ。絶対に手放さない。あと、リーダーは俺な。俺はリーダー以外、やらないから。あ、そうだ、俺の言うことは絶対に聞けよ」

「ねえ? うすうす感づいていたけど、あなたって、かなり傲慢で自己チューじゃない? パーティー解消していい?」


 はえーよ。

 まだ、結成して1分も経ってないぞ。


「ダメだ。お前は今日からドレ、副リーダーな」

「今、奴隷って言いかけなかった?」

「言ってないが、似たようなものだ。パーティーリーダーは神様みたいなものだし」


 シズルがジト目で見てくる。


「これから先、他にパーティーメンバーが増えるかわからないけど、パーティーの管理は私がするわ。あなたは何もしないで」

「よし、任せたぞ。副リーダー!」


 よく働くヤツだ。

 感心、感心。


 シズルがため息を吐くとやっぱり組むの止めようかなとつぶやいた。


 やったー。

 働き者のエロ女をゲットだぜー。




攻略のヒント

 モンスターからドロップできるアイテムの中には、肉などの食材もある。

 この食材はダンジョン産と呼ばれ、非常に美味であり、高値で取引される。

 世界中の食料不足問題の解決に向かうために、一定の供給が望まれる。


『国際連合会議 食料問題』より

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