天空の塔編

第91話 思ったより快適な旅路

 基本的に馬車で移動する際の一番の問題は、暇をどう潰すかだ。

 かつてカスガル達と冒険していた時は話す話題も多くなく、暇つぶしに苦労したものだ。


 今思えばあいつ等こっそりいちゃついてたな。


 幸い魔道馬車は御者も要らず、揺れも少ない。

 多少の魔物は馬ゴーレムが轢いてしまうし、大型の魔物が出た時は知らせてくれる。


 そもそも馬車が速い。一度盗賊が現れたがこちらに追いつけず、遠距離から魔法で殲滅した時は少しばかり面白かったな。


 とりあえず今回はセピアも居る。

 無くなってしまった授業の時間に当てるとしよう。

 馬車の中ではノエルやアーネラもやる事が無いので丁度良いだろう。


「仕方ないなぁ~」


 教師役はセピアも満更でもない様だ。

 適度に休憩を挟み、授業を荷台の中で受ける。


 食事は初日に傷みやすいものを先に食べておく。

 最寄りの町まではそれほど離れていないのだが、これは旅をする上で暗黙の了解のようなものだ。


 魔道馬車の最大のメリットは夜でも構わず走る事だろう。

 馬ゴーレムの目には明かりが搭載されており、夜間でも問題ない。


 流石に速度を落とさないと揺れて目が覚める事になったので、少し速度を緩めにしておく。


 荷台の中でシーツを敷いて5人で寝る。

 商売をするわけではないので荷台は空いているが、流石に5人で足を伸ばして寝ると少し狭いか。


 馬ゴーレムの走る音だけが夜の中で耳に響く。


 ノエルやアーネラはもう寝てしまった。

 寝つきが良い。奴隷として訓練されていたのだろう。


 セピアも寝ている。

 寝言で何かつぶやいている様だが、能天気な顔をしているので大したことではなさそうだ。


 マステマは横になっているものの尻尾が動いている。

 眠れない様だ。そもそも悪魔に睡眠は必要ないので俺達に付き合っているだけだからな。


 そっとマステマの方を見ると、紙に何か書いていた。


「見ちゃダメ」


 俺に気付いたマステマが両手で俺の顔を押し退ける。


「何を書いていたんだ?」

「……本」

「本ってお前」

「手元のは読みつくしてしまったから、それでも読みたいなら自分で書くしかない」


 作家のような事を言い始めた。


「そうか。書き上げたら読ませてくれ」

「んー、良いよ。でも今はだめ。途中だし、まだ色々悩んでるから」


 そう言ってマステマは再び紙に何かを書き始めた。

 気になるが、無理に見ようとしたら怒り出すのは目に見えていたのでそっとしておく。


 趣味を持つのは良い事だ。

 悪魔は長く生きるので尚更だ。


 破壊と殺戮だけが楽しいと思われては人間側としても困るからな。


 俺も本は読むが、書こうとは思わない。

 マステマがどういう本を書くのか楽しみにするとしよう。





 数日ほどそんな日々を過ごして、一番近い町に到着した。

 小さな町だった。

 宿屋も小さく、無理に此処で泊まる必要はなさそうだ。


 食料は干し野菜などが売られていたのでそれを買う。


 水で戻して、味付けをして煮るらしい。


 肉は町の中で消費してしまうようだ。

 道中の魔物から入手した方が良さそうだな。


 幸いこの辺の魔物は食える魔物ばかりだ。


 清潔な水は魔法なり魔石でいくらでも手に入る。


 早々に立ち去ろうとすると、妙齢の女性に呼び止められた。

 町長の妻らしい。


「冒険者様でしょうか?」

「そのようなものだ」


 冒険者の籍はまだ残している。


「大きな人食い鶏が町の周りに出始めまして……何とか退治して頂けないでしょうか」


 小さな町に寄ると、こういう事は多い。

 冒険者ギルドに依頼をする金が無かったり、依頼をしに行くにも命がけであったりと色々と理由はある。


 確実に金にはならない依頼だが、昔ならカスガルとレナティシアは二つ返事で請け負っていた。


 今の俺達も急ぐ旅ではない。


「ついでに退治しておく。代わりに肉だのは全部貰っていくからな」


 依頼料を貰わない代わりに素材は総取りする。

 一瞬だけ町長の妻の眉が動いたのを見逃さない。


 安く使って素材は折半という魂胆だったのだろう。

 これも何度も経験済みだ。


 人間住む場所は違っても考えることは同じという訳だな。


 安請け合いをするからカスガル達は金が溜まらんのだ。


 無料で町の危険は取り除くのだからそれで満足してもらう。


 肝心の人食い鶏はセピアに戦わせてみた。

 丸焼きにしようとしたので、人食い鶏の金になる部分は羽とくちばしであることを教える。

 セピアは頷いて水の魔法で人食い鶏を溺死させていた。


 解体は風の魔法で器用に人食い鶏を捌いていく。


 上級魔導士は思った以上に器用だった。

 セピアに腕力は無いが、これなら必要はないだろう。

 セピアに使える魔法を聞いてみる。


「空以外全部だけど?」


 一言そう言った。

 なるほど、これが元名門魔導士一族か……。

 セピアが食うに困る事はなさそうだ。


 血抜きまであっという間に終わらせてしまった。


 肉は切り分けられ、金になる部分は乾かせて袋に。

 要らない部分は燃やして灰に。


 特化していたカスガルとは違い、セピアは万能といった感じだった。


 これで約束は果たした。引き続き天空の塔へ向かう。

 肉は燻製にせずとも保存の魔法で対処した。

 5人もいて、マステマはよく食べるので腐る前に消費しきれるからだ。


 そんな感じで旅を続けながら移動する。


 体を洗うのは川を利用した。

 セピアがどうしてもというので男女で分かれる。


 旅をする上では時間の無駄なのだが、まあ今は余裕があるから良いだろう。


 



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