第89話 次はどうする?

 俺が家に戻る頃には、おおよそ準備は整っていた。

 ノエルとアーネラは必要な荷物を纏め、セピアとマステマは頼んだ仕事を終えたようだ。


 セピアはクラクラしており、ノエルに背中をさすって貰っていた。


 卒業までは学園に居る予定でこの国に来たのだが、まさか学園が無くなる事になるとは。


 今の俺は下級魔導士をようやく卒業した程度なのだがなぁ。


 学費の返還は行われるようだが、それまでこの国で待つつもりはない。

 クローグスやルリーゼは……まぁ、若いのだし頑張ってくれ。


 この国を出るのは確定している。

 セピアが居るし、そうでなくともだ。


「そうだ、ちょっと来いセピア」

「なにかな」


 回復したセピアがこちらに来る。


「ついてくるなら、成人までは面倒を見る。途中で放り出したりはしないから安心しろ。その後は好きにしたらいい。そのまま一緒に居ても良いし、やりたいことがあるなら出て行っても良い」

「うん、分かった」

「とりあえず俺の姓を名乗れ。家からは勘当されたんだしな」

「良いの?」


 マステマにも名乗らせているのだ。今更一人増えたところで問題ない。


「宜しくお願いします」


 セピアがそう言って俺に頭を下げる。


 まあ、何の能力もない子供ならある程度信用できる場所に預けるだけだが、セピアはそうではない。


 お互い利用できる部分は利用すればいい。

 セピアの事はひとまず置いておくとして、これからの事を考える必要がある。


「さて、移動するにしても足はどうしたものか。徒歩は流石にちょっとな」


 5人で移動するのは骨が折れる。

 セピアは魔導士だがまだ子供だ。

 ノエルやアーネラも優秀だが、旅慣れているわけではない。


 俺とマステマだけならどこへでも行けそうだがな。


「あ、そっか。移動手段が要るよね」


 セピアが俺の言葉を聞いて考えこんだ。

 魔道列車は便利だが、事件の影響で今は運行停止している。


 馬車か何かでも用意するしかないのだろうか。


「アハバインって、トップクラスの冒険者だったんだよね」

「そうだが」


 もっというなら帝国最強だ。


「お金はあるよね?」

「まぁな」


 手元にある資金はそれなりだ。

 ギルドに預けてある金という意味なら、数える気にもならない程度にはある。


 というか、金が一定量を超えた辺りから使う額より増える額の方が多くなってしまった。


 金貸しに預けてある金の利子も、王国からの国債の支払いもギルドの俺の金庫に入っている筈だから、魔道国で過ごしていた間にも増えていることになる。


 ギルドカードに表示された明細を見る。

 以前の数字を覚えていないが、多分増えている。


 セピアに見せる。


「うわ、これ学園の運転資金より多い。銀行でも開くの?」

「開かん。なんでそんな面倒な事をしなきゃならんのだ」


 金の心配をしたくなかったから色々していた結果だ。

 今はそれが実っただけ。


「冒険者って儲かるんだね」

「儲かりはするが、普通に貯めて使うならでかい店を土地から用意したら無くなる程度だぞ」

「十分稼いでると思うけど……」


 セピアはカードを俺に返してきた。


「ならさ、魔道馬車とかどう? 高いけど便利だよ。疲れ知らずの餌要らず。ゴーレムが馬車を引くの」

「ほぉ。動力源は何だ? 魔力か?」

「魔力だけど、必要なのは少しね。走り始めたらその力を魔力に変えれるから割と省エネなんだよ」


 なるほど。

 普通の馬車はよく利用していたが不便も多かった。


「一先ずそれを手に入れるか。問題はどこへ行くか、だが」

「私はご主人様にお任せします」

「私も」


 奴隷二人は俺に追従する。


「面白い所が良い」

「この国以外ならとりあえずどこでも良いかな」


 セピアとマステマは参考にもならない意見だった。


「ならば」


 俺の腰から声が聞こえる。

 ヴィクターの声だ。


 俺の魔力を使って勝手に顕現した。

 俺の魔力総量が増えたからか、そういう芸当も出来るようになったらしい。


「天空の塔に行きましょう。行くべきです」

「天空の塔か。……あそこへ行ったとき、お前も持っていったよな?」


 かつて組んでいたパーティー時代に天空の塔に既に挑んでいる。

 結果は残念ながら登頂できなかった。


 理由は幾つかあったのだが、戦力的な問題があった訳ではない。

 主な問題は食料を含めた生活必需品の不足と天空の塔の仕掛けだ。


 なんせカスガルは火以外はまるでダメ。

 補助系の魔法なんて期待できなかった。

 天空の塔には魔道的な仕掛けも多く、レナティシアが多少対処したもののついに突破できなくなり断念した。


 俺達以外の挑戦者は逆に戦力不足だったらしく、天空の塔はここ100年近く登頂はいないはずだ。


「今なら行けるはずです」


 俺はここにいる面子を見る。


 戦闘能力は低いが、家事を始めとして支援能力が高く補助魔法を収めたノエルとアーネラ。

 荷物持ちに集中させれば、魔法のバックでかなりの荷物も持っていけるだろう。


 見た目は子供だし中身も子供だが、上級魔導士にして知識だけなら超一流のセピア。


 圧倒的戦力に加えて絶対的な防御力を持つ上級悪魔、マステマ。


 マステマより大きく劣るものの、同系統の能力がある天使ヴィクター。

 この面子なら確かに、改めて挑戦すれば突破できるかもしれない。


「そこです。そこ」

「何がだ」

「相棒は私なのにお前はすぐそこの悪魔に頼る。確かに私より強いかもしれませんが」


 そういってヴィクターはマステマを指さす。


「天使、私を指ささないで」


 マステマは気に食わないらしく、その指を弾いた。

 痛かったのかヴィクターは弾かれた指をさすっている。


 天使と悪魔は仲が悪い。

 同じ家に住んでいるのでこの程度で済んでいるらしい。


「天空の塔で私を強化するべきです。そう、なるべく早く」

「そうなのか。あそこは確か登頂に成功すれば天界からご褒美が貰えるという噂だが」


 なんせ前回の登頂者が100年前で既に死亡済み。

 登頂した後の詳しい事も分からない。


「間違いありません。どうせ暇なんだし不発でも構わないでしょう」


 この天使……寝坊助が治ったと思ったら今度は大分生意気になってしまった。


 だが、天剣も大切な相棒であるのは確かだ。

 強化出来るならそれに越したことはない。


「セピア、その魔道馬車はすぐ手に入るのか?」

「あ、うん。魔道列車が出来た後は在庫が余ってるって聞いたから大丈夫だと思う」

「そうか」


 なら、行ってみるか。


 残りの問題はあと一つ……。

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