第56話 試験開始

 魔道学園が始まるまではかなりだらけて過ごしていた。

 食べ歩きをしたり、最新の魔道書を買い漁ってみたり。


 宿の庭を借りて簡単な魔法のトレーニングも行った。

 マステマが既に理論を把握していたので、非常に嫌だったがマステマが教師役だ。


 試験内容は既に分かっている。

 ノエルは水、アーネラは風。俺は雷。マステマは火を選択し、それを打ち出すトレーニングを行った。

 元々奴隷達は素養として魔力のあるものを選んだし、簡単な魔法は元々使える。

 俺も我流ではあるが戦いに魔法を持ち込んでいたのだ。


 この程度の事はすぐにみんな出来た。


 問題はやはりマステマの出力だろう。

 茨の杖を握ったマステマは威圧感的にも完全に上位魔導士そのものだ。

 カスガル程では無いが。

 もし悪魔としての力抜きで魔導士として今のマステマと戦うとしたら、大分苦戦するだろう。


 ちなみにマステマが買わされた箒は宿に寄付した。

 掃除する分には問題ないらしい。


 宿の人間からも色々と国の事を聞く。

 魔導士の大国と言われていても普通に暮らす人はどこもそう変わらないらしい。


 魔導士見習いが沢山いるので、そういう面では便利ではあるとのことだったが。


 魔導士となるとそもそも一気に数が減るとの事だ。

 魔道の研究の為に学園に残るもの以外は外に出て行ってしまうらしい。


 なので魔導士見習いは幾らでもいるのだが魔導士となると少ない。

 その分残っている魔導士は魔道の研究を重ねてかなり上位の者ばかりだとか。


「お客さんも魔導士を目指すんですか?」


 宿屋の娘が話しかけてくる。

 何日も泊まっているうちに仲良くなった。


 まあ一番良い部屋に入ってるからだろう。


「そうだよ。四人で魔道学園にな」

「おー、凄いですね。もうすぐ入学試験ですし、頑張ってくださいね」


 そんな事を話しながら日々を過ごし、遂に魔道学園の試験が始まる。


 現地で改めて確認したのだが、どうやら入学試験は年二回行われる。

 何度でも試験は受けられるのだが、その度に試験費用が必要だ。


 試験内容はシンプルで、何らかの魔法で的を打ち抜けばいいらしい。

 ただし、使って良いのは指定された杖のみ。


 魔道具のようなアイテムの使用は無し。

 魔石も特殊な装置で感知されるようになっている。


 そこまでして入りたいのだろうかと思ったが。

 入った後の方が大変だというのが分からないのかもしれない。


 俺達は買った魔導士の服にローブを羽織り、試験に向かう。


 ノエルもアーネラも見た目だけなら新進気鋭の魔導士だな。

 見た目が良いとこういう時に映える。


 マステマも見た目は最上級なのだが。

 二人に比べて背が低いのでやはり見習い感がある。

 俺は……まぁ少し年が離れているし、そのまま魔導士っぽい男だな。


 試験会場は賑わっていた。

 沢山の黒いローブに身を包んだ、魔導士見習いの候補生達が並んで順番を待っている。


 試験費用を支払い、同じく順番を待つ。


 一人一人の試験の進みは早い。

 内容が魔法で的を打ち抜くだけだ。そりゃ早い。

 数人の教官が試験を見守り、的が打ち抜かれたら土から再び的を作り出している。


 偶に構えるだけで魔法が一切出ることなく、ずっと構えたまま棒立ちしている候補生もいる。

 散々粘るが、時間切れになれば即追い出された。


 そうしてまずノエルから順番が来る。


「その服装は……まぁ恰好から入るのも悪い事ではないか」


 教官はそう言って的を生み出すと、ノエルに早速試験を促す。


 杖を渡されたノエルはその魔力を水に変換し、水弾を生み出して的を打ち抜く。


「合格だ。魔力も、魔法の手順も素晴らしい。優良組だ」


 ノエルがまず合格し、通された。

 次にアーネラ。

 アーネラも服装が上位魔導士の着るものだったため、教官が少し考えこむ。


「試験開始」


 アーネラは風を生み出し、それを凝縮する。

 そしてそれで的を打ち抜いた。


 的の中心は見事にくりぬかれている。

 くりぬかれた後には出っ張りもなく、教官が指で撫でると指に何も引っかからない。


「見事だ……優良組」


 教官は手元の紙に◎をつけた。


 次はマステマだ。

 茨の杖を持ち込もうとしたのでやめさせた。

 話を聞いていないのかこいつ……。


 教官は服装に何も言わない。そう言う事もあるだろうと思っているのか。

 マステマは用意された杖を渡されてテンションは最低だ。


 やる気なさげに片手で火を生み出す。

 黒い火を使うのは事前に止めた。あれは引火すると消すのが大変なのだ。

 ごちゃごちゃ言われたくない。


 恐らくそれが更にマステマのやる気を削ってしまい、あくびをしながら小さな火を的に当てる。


 火は的を燃やして消えた。


 教官は少しだけ悩んだが、マステマが再び欠伸をしたのを見て紙に△と記した。


「一応合格だ。入れ」


 そしてようやく俺の順番が来た。

 マステマではないが俺も欠伸が出るほど退屈している。


「ふむ、元冒険者……偶にいる。試験開始」


 杖を持つ。魔力を雷に変換するのだが、想定よりも使用魔力が多い。


 教官は思わず俺を見る。


「随分な魔力だな。これは優良組か」


 うーん、普段魔法を使う時に剣を媒体にしているからか勝手が違うな。

 雷剣ならすんなりと雷を生めるのだが……。


 道具に頼りすぎていた弊害が出た。

 そういえばカスガルが言っていたな。


 お前は調整が下手だと。

 冒険者としてやる分には問題なかったが。


 そして今の俺は魔力だけなら相当なものだ。

 つまりその相当な魔力がざるに魔法に使われてしまう。


 するとどうなるか。

 的ではなく教官の頭に雷が飛んでいき、見事なアフロが生まれてしまった。


 流石に教官も魔導士だ。

 雷によるダメージは無効化したのだが、髪までは咄嗟に守れなかったのだろう。


 教官は震える手で紙に△と書いた。


「一応合格、だ。名前は覚えておこう。アハバイン・オルブスト君……ん? どこかで聞いたような」


 アフロのまま考え込む教官。

 その為、他の教官に奥に通される。


 どうやら優良組とそうではない組で分かれるようだ。


 マステマと同じ扱いらしい。

 嘘だろ……。

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