第28話 美しい、悪魔
降臨する。
降臨する。降臨する。降臨する。
降臨してはいけないモノが降臨する。
おぞましい。天使と共に世界の敵となる侵略者だ。
世界を壊す存在。人間の次元よりも上位に存在する人の天敵。
まだ距離があるというのに、ここからでも侵食される空間がはっきりと見える。
まるで雷の形をした赤いオーラが世界を侵食している。塗り替えてしまう。
悪魔の姿はまだここからは見えない。だが、天剣から伝わる振動が強くなる。
間違いなくいる。
皇女様からの依頼で来たとはいえ、まさか悪魔と対峙する羽目になるとは。
こうなってしまっては王女救出だけでは済まない。
天使も悪魔も降臨してしまえば放置はできない。向こう側の領域が広がれば力そのものが向こう側から供給されて手が付けられくなる。
雷剣の力で目的地の王宮へ加速する。
道中には倒れ伏す人間しかいない。
魔力も体力も吸われているのだろう。
結界から未だに吸われているからこのまま放置すれば死に至る。
だが、無視する。
悪魔だ。悪魔を何とかしなければどのみち死ぬ。国ごとだ。
焦燥感だけが募る。
俺の力は通用するのか?
切り札は本当に効果があるのか?
悪魔崇拝のクソ共が。馬鹿な事をしやがって。
王宮の扉をそのまま蹴破り、中へと侵入した。
中は……兵士や騎士達が全滅している。
召喚元と近かった所為か、吸われ具合も酷かったらしい。
有事に気付いて来たは良いものの、魔術防御が間に合わなかったんだな。
王国の魔術師連中が早く結界を解けたらいいのだが。
俺の魔法防御も少しずつ突破されている。
僅かに吸われ始めているのが分かるぞ。
王座の間への道は開いていた。
中は……中々素晴らしい事になっているな。
王は首が飛んでいて、大臣らしき連中は柱に磔だ。
そして肝心の王女様は王座の間に縛り付けられている。
手首から血を流しているものの、呼吸はしているようだ。
血は杯の中に集められている。
すでに大分弱っているな。話通り赤い髪をした美人だが、顔色は青い。
横に骸骨のように細い不気味な男が居て、王座よりも奥を眺めている。
ここからでは表情が見えないが、何かをこらえている様だ。
まるで念願の光景を見て感極まっているかのような。
俺は音を消して近づく。
雷剣に魔力を集中させる。
射程圏内まであと少し……。
「感動的だとは思わないかね。帝国最強の冒険者」
バレたか。まぁ隠密は専門じゃないしな。
「何がだ。俺にとっては悪夢にしか見えないのだが」
「ああ、そういえばアハバイン。君は天使降臨を目にした上で討伐したんだったね」
「そうだ。だから違いはあれどこの光景は二度目だよ」
「運が良いのか悪いのか。いや、良いというべきだな。普通の人間が立ち会うことはありえない」
雷剣に手をかける。
「天使の討伐はどうやったのかね? 創世王に関わる道具だと踏んでいるが、予備はあるのか?」
「どうだろうな」
「ふふ。構わない。私はこの光景が見たかった。それだけが悲願なのだ」
「迷惑な一族だ。黙って引っ込んでいればいいものを」
「それは無理というものだ。君も見れば理解できる。言っておくが、君が倒した天使は下位に属するものだと判明している。私が王国を捧げて呼び出したのは……」
続きは残念ながら聞こえなかった。
不気味な男の顔が消し飛んでしまったから。
頭の無くなった首から盛大に血が噴出する。
俺はその隙に一気に走り、王女を抱きかかえて距離を取った。
不気味な男を殺したのは、いつの間にか男の隣にいた少女だ。
黒く長い髪。赤い目に二本の角。
見た目はやや幼い年齢の少女だが、服装は黒い下着のような服のみで、肌が露出している。
露出している肌には見たことのない文字が刻まれている。
悪魔だ。間違いない。少女の頭上には赤い空間の裂け目がある。
悪魔は血に塗れた右手の血を舐めとると、不味かったのか吐きだした。
ざまあない。熱烈なラブコールは悪魔からは気に入られなかったようだ。
悪魔がこちらを向く。
装備している清められたコインが一枚はじけ飛んだ。
見られただけで呪い対策のコインが一枚吹き飛ぶのかよ。
とんでもない相手だ。
魔力と視線だけで圧倒される。
これに比べれば龍ですら恐れるに足りんね。
だがここで戦うのはまずいな。
王女が瀕死だ。ポーションを飲ませてはいるが、巻き添えで死ぬ。
なんとか距離を……。
悪魔がゆっくり近づいてくる。
怖いくらいに整った顔をしている。
そういえば天使も随分整った顔をしていたな。
全く、次元の違う生命体だというのになぜ人間に似ているんだろうなぁ。
これだけ好みの顔をしているのに可愛げは全くないぜ。
悪魔が口を開く。
「魔王様? 魔王様はどこなの?」
可憐な声だった。
道端で聞けば思わず足を止めてしまうような。
同時に天剣の反応が今までで最大になる。
ようやく目を覚ましたか。
「お嬢ちゃん。迷子かな」
「どこ、どこなの? 魔王様」
俺の話は聞いていないようだ。
こうしてみればただの少女だというのに、ああクソ。猛烈な殺意が溢れている。
俺の事は眼中になし、か。
同時に結界が砕ける。
王国の魔導士達か。でかした。
俺は一気に距離をとる。王宮から外に出ると結界が無くなり、代わりに赤い侵食がより広くなっている。
結界を解除したミラ達がこちらに向かってきている。
俺は王女を彼女たちに預け、王都から出るように指示した。
王女の容態が危篤だからか、ごねることなく移動してくれる。
魔導士達が去っていき、悪魔が俺を追ってきたのか外に出てくる。
キョロキョロと周りを見ている。魔王様とやらは此処にはいない。
「起きろ寝坊助。お前の敵だろ」
天剣を開放し、封印していた天使の核を起動させた。
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