竹の秘密

俺は、きゅうと別れた。


まだ、時間あるしカフェでもよろかな…。


「竹、いらっしゃい」


「コーヒーお願い」


「はいよ、もうええんか?」


「充分楽しんだから。」


「あいつにとめられんかったら、やってたやろ?竹。また、いつでも、誘ったるから」


「いや、大丈夫。」


「そうか」


カフェのオーナー工藤春士くどうはるしと出会ったのは、二十歳の時に勤めていたバイト先だった。


「はい、コーヒー。ゆっくりしてきや」


「ああ」


俺は、あの日の記憶を思い出しながらコーヒーを飲む。



10年前ー


「九、向こうで寝ろや。ごめんな、竹。先、風呂入ってくるわな」


「うん、わかった。」


15歳の九は、無防備に若のベッドで寝ていた。


「なぁー。キスってどんなん?」


「なんやねん、急に…」


さっきまで、そんな事を聞いてはしゃいでいたのにもう寝落ちか…


可愛いなぁ。


やっぱり、九は…。


明日で、成人式を迎える。


俺は、やっとおとんのお荷物を卒業できる。


九の寝顔を見てると、胸がドキドキした。


そういや、時々、九に感じてた気がする。


唇、若さで荒れてるな。


カサカサやったら、女の子に嫌われるで


ちょっとぐらい、さわったってバレへんよな?


俺は、九の唇をさわった。


さわったら、もっとしたくなって…。


「九の初めて、もろていい?」


うんって、頷いた気がしてキスをしてしまった。


「竹ー。あがったで。」


若が、ドアを開けて唇を離した。


「竹、何してんねん」


「ごめん、俺、やっぱり帰るわ」


バレてないと思ったのに、バレていた。


「待って」


若に腕を掴まれた。


「離して」


「竹、それは恋やないで。恋やない。ただ、弟みたいに思ってるだけなんやで。大人になっても、好きやったらそうかも知れんで。でも、それは、ちゃう」


「大人って、若。明日には、大人やで」


「だから、違うねん。それは、恋と…」


「離せ」


俺は、若の手を振り払った。


大人って、明日からやろ…


何が、違うねん


気づいたら、バイト先まで歩いていた。


「竹ー。えらい薄着やん。寒いやろ?」


「はるさん」


「なに?泣いてるんか?うち、来る?」


「はい」


5つ年上のはるさんのアパートに連れてきてもらった。


ダウンもスマホも若の家に忘れてた。


「はい、ココア。あったまるで」


「いただきます。」


「何があったん?」


俺は、さっきの出来事をはるさんに話した。


「ハハハ、幼なじみの弟にキスしたんかぁー。なんか、わかるけどな。俺も一人っ子やし」


はるさんは、煙草に火をつけた。


「謝るべきですよね」


「どやろな?ちゃんと、竹は自分を理解した方がいいんちゃう?」


「理解ですか?」


「俺も、ダンチュー好きやで。男子中学生。明日も、休みやろ?俺が遊んどるやつと遊んでみ。そいつ、男好きやから。自分の癖に気づいてみたら?その弟が好きなんか…。ダンチューなだけが好きなんか。そいつの連絡先、教えとくわ。」


「はい」


手際よくはるさんは、紙に書いて渡してくれた。


「はいよ。成人式終わったらあってみたらいいねん」


「はい」


「じゃあ、風呂はいってこい。新しいタオルとパジャマと下着はあるから。」


「はい」


何も疑わずに、シャワーに入って、何も疑わずに朝を迎えた。


「あー。ごめんな。」


目覚めた時の異様な光景に、俺は本当にこの人と同じ癖なのかと思った。


「誰?はるさん。」


「バイト先の子。ほら、竹。成人式間に合わんなるで」


パンツ一丁の先輩と制服の男の子。


ミスマッチで、気持ち悪さを覚えた。


「ありがとうございました。」


俺は、昨日着ていた服に着替えて家を出た。


さむっ…。


スーツにスマホ…。


若の家に行くしかないよな。


俺は、仕方なく若の家にきた。


「竹ー。遅いやろ?」


「竹君、成人式楽しんでな」


「ありがとう」


この胸の痛みは、消す事にしよう。


「行くで」


何事もなかったように、若の両親の車に乗って、美容院に寄って、スーツに着替えて、何事もなかったように、成人式は、終わった。


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