泊まってく?

紙袋の中を広げるとハンバーガーは、ぐちゃぐちゃになっていた。


「もったいないから、チンして食べよか?」


「うん」


僕は、お皿にハンバーガーをうつしてチンした。


「出来たよ」


「なんか、フワフワ通り越してカピカピやない?」


「ハハハ、確かに。やり方悪かったかもやで」


ハンバーガーは、ところどころ固そうやった。


「ナイフとフォークある?」


「うん、持ってくるわ」


ナイフとフォークをはちに渡した。


「八、明日仕事?」


カチャカチャ音をたてながら、八は、ハンバーガーを小さく切っている。


「明日は、休みやけど。きゅうは?」


「僕も休み。コンビニで働いてんねんけど、店長が兄ちゃんの49日言うたら、なんか4日も休みくれてん。」


「いい店長やな?」


「そやけど、収入がな。ほんなら、今日泊まってく?」


その言葉に、八の顔が真っ赤になった。


「なに?熱でたん?いきなり?」


「ちゃう」


「顔冷やす?」


「だから、ちゃう」


「なんやねん」


「好きな人に、そんなんゆわれたん初めてやから…。俺、変な顔してへん?」


「可愛いよ、めっちゃ」


今にも泣き出しそうに目を細めながら、八は笑ってる。


「おてもやんみたい」


「なんや、それ?変な顔なん」


「ほっぺたが赤いって事」


僕は、八の頬を優しく撫でる。


「九、心臓壊れそうや」


「えっ?聞かせてみ」


「うん、聞いて」


僕は、八の胸に耳をあてる。


ドックンを通り越して、バックンバックンって感じだ。


「これ、さんの電話の音が鳴った時の僕に似てる。」


音だけやなくて、心臓が骨を押してるような振動まで伝わる。


「三って誰?また、新しい人やん」


「三は、僕の幼なじみ。八は、ヤキモチ妬きなんやね」


バンッ…


「八、痛かったんちゃうん?」


僕を床に押し倒した八の腕が、テーブルに当たった。


「やっぱり、俺だけ、九を好きなんは苦しい」


八の涙が、僕の顔にポタリポタリと落ちてくる。


「八、ごめん。まだ、わからんくて」


「ええよ。ただ、俺。ヤキモチ妬きみたいやねん。知らんかった。九、俺の事捨てへん?」


「八は、犬みたいやなー。ハチ公って呼ぶで」


僕は、八の頬に手をあてる。


「ええよ。俺は、九だけの犬になる」


バフって音がしそうなぐらいに、八は、寝ている僕に抱きついてきた。


「八、そんなに僕を好きになったん?いっきに?」


僕の胸に顔を埋めた八の髪を撫でる。


「なった。今も、心臓がキュキュって締め付けられてる。ずっと、昔から好きやったみたい。」


「兄ちゃんが、好きやったんやろ?」


「そうやけど。九が好きや。意地悪せんといて」


顔を起こした八は、何とも言えないぐらい可愛い顔をしていた。


「変な顔してへん?きもない?」


「めちゃくちゃ可愛いよ」


僕は、八の両頬を軽くつねった。


「痛い」


「やめる?」


「いや、やめんで。」


八は、僕が考えてるよりもかなりヤキモチ妬きだった。


竹君や、三に会ったら、八は、どうなってしまうんだろうか?


「八、キスする?」


「する」


八が、キスをしてくれる。


「ハンバーガー食べて、酒のもか?」


「うん、飲む」  


八は、僕の体からおりた。


僕の体を起き上がらせてくれた。


「ありがとう」


「ううん」


後ろから抱きついて、右肩に顎を乗せてくる。


「お酒取りに行くから。離して」


「いやや」


可愛すぎる。


とても、兄ちゃんと同じ歳だとは思えない。


僕は、右手で頭を撫でる。


「よしよしって言って」


「よしよし」


「俺ね、愛された事ないねん。だから、人との距離感おかしいねん。」


愛された事ないという八の言葉が僕には理解が出来なかった。


「でも、そのお陰で僕は、八に選ばれたんやから嬉しいよ」


「九が、教えて。俺に愛を…。」


小さな子供みたいな八の頭をよしよしと撫でる。



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