秘密のdiary【恋と嘘】

三愛紫月

置き去りにされた八

パタンと扉が閉まって、きゅうがいなくなった。


俺は、その場に膝から崩れ落ちた。


何故、好きだとハッキリ言えなかったのだろうか?


言えなかったんじゃない、言わなかったんだ。


あの日、芽衣子に気持ちを伝えようとした。


「あのさ、芽衣子。これからさ、俺等。この先もさ…。そやから…」


何度もキスをしていたくせに、ちゃんと言葉に出来なかった。


「八。私達、そんなんじゃないやん?友達やんね?違うんなら…」


違うんなら何やったん?


会わないやったん?


会われへんやったん?


芽衣子は、その後から俺の前に一度も現れなかった。


「後悔しとんなら、きゅうにはちゃんと言えよ」


空色のセーターの裾は、まだ濡れていた。


モヤモヤする。


さっき、九の口の中に入っていた左手がジンジンとする。


胸の奥から、ドクドクと痛みを伴う液体が流れるのを感じる。


九が、好き。


さっき、下半身に熱を感じた時により九が好きなんだと感じた。


指を舐められて、下半身が熱を持ったのは、今までの人生でたった二回だった。


芽衣子と九だけ…


でも、ハッキリと男の姿なのにそうなったのは九だけだった。


ちゃんと想いを伝えなくちゃ…。


なのに、連絡先も聞けなかった。


ポタポタと涙を流しながら、九が座っていた場所にやってきた。


何か黒い物が落ちていた。


神様は、いらっしゃるんですね


拾い上げると二つ折りの財布だった。


中を開くと、運転免許証が入っていた。


住所が、わかった。


俺は、テーブルのものをゴミ箱に捨てる。


ハンバーガーは、食えないな。


紙袋にしまった。


お風呂場に行って確認すると空色のセーターの袖は、乾いていた。


ハンバーガーの入っていたビニール袋にセーターを入れる。


フロントに連絡をして帰ることを告げた。


斜めがけタイプの鞄をつける。


「安くないですか?」


「さっきお連れさんが払ってくれたから、お酒代と30分料金ね」


「そうなんですね」


貸しを作りたくなくて、九が払ったのがわかった。


「ありがとうございました。」


そう言われて、ラブホテルを出た。


免許証を見ながらスマホで、九の住所をいれてみた。


ここからは、歩いたら30分以上はかかるか…。


途中で疲れたら、タクシーに乗るかな?


酔ってると思われたくなくて、俺は歩き出した。


結局、タクシーには乗らずに九の家の下まで辿り着いた。


50分は、かかっていた。


暫くすると、誰かが降りてきた。


イケメンだな。


九と一緒だった。


その人は、九に近づいて何かを話して消えた。


彼氏いたのかな?


そうだよな。フリーなわけないよな。


声をかけられて、財布を渡す。


離したくなくて、引き留めた。


キスのその後……………………。


ゆっくりと唇を離した。


「八、僕、付き合った事ないねん。」


「えっ?じゃあ、そっちも…」


「いや、それはない。アホやからモテんかっただけやから」


初めてならよかったなんて、思ってしまった。


「そうか。」


「なんで、切ない顔してるん?童貞がよかったん?」


「そんなわけないやん。」


俺は、首を横にふる。


「でも、男ってそこ使うんやろ。八は、こわない?僕は、怖いわ」


「九が、そのしたい方なら頑張るで。俺も、怖いけど」


「いっきにそこまで進むんは、嫌や。せっかくなら、ゆっくり進みたい」


「それで、ええよ。思春期の子供ちゃうから、我慢できるし」


俺は、九を引き寄せて抱き締める。


「それも、我慢できるん?」


熱を持った下半身に、ズボンの上かられられる。


「ほっといたら、おさまるし。九から、離れたら大丈夫やから」


「ほんまに?ええの」


「ええよ。急がんでも。こんなん自分で直せるし。さっきかって、静まったし。」


「八は、やっぱり優しすぎんねんで」


九は、俺の背中に手を回して抱き締めてくれた。


好きな人と気持ちが、繋がっただけで充分やった。

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