第16話

「ちょっと! スマホを返しなさいよ!」

 

 こんな奴らにスマホが握られていると思うと、ゾッとする。

 早めに取り返しておきたい。

 そう思い右手を伸ばすと、男はサッと避け、私の腕を掴んだ。


「バーカ、簡単に返すわけ無いだろ?」

「ちょっと、離して!」

「離さねぇよ。一緒に楽しもうぜ」


 私は必死に暴れるが振り解けない。

「おい、そいつ男が居るから手を出さない方がいいぞ」

 と、竜司が言うと、男は薄気味悪い笑顔を浮かべ「そんなの構わねぇよ。口封じすりゃ良いだけだ」


 握られた手から、見たくもないこいつ等の過去が流れてくる。

 ――本当にクズ野郎共だ。

 こいつ等、こうやって何人もの女の子を手に掛けてきたのだ。


 私は怒りをぶつけるかの様に、男に向かって思いっきり体当たりをした。

 男はよろめくが、転ばずに踏みとどまった――。


「このやろう!」

 と、怒りを買ってしまったようで、男は凄い形相を浮かべ、私のスマホを握ったまま拳を振り上げる。

 怖いッ……私の体は硬直してしまい、その場で目をギュっと瞑るしか出来なかった。

 

 ――様子がおかしい。

 時間が止まったかのようにまだ殴られない。


「なに俺の女に、手を出してんだよッ!」

 

 え? え? 嘘でしょ!?

 聞き覚えのある声がする。

 私はゆっくり瞼を上げた。


「優介!」


 なぜか優介が私のスマホを回収して、男の手を掴みながら睨んでいる。

 どうして? 何でここにいるの?


「良太、奈緒の方を頼む」

「分かった」


 なぜか良太君もその場にいて、奈緒の方に向かっていく。


「美穂からその薄汚い手を、さっさと離せよ」



 ――男は優介を睨みつけながらも、分が悪いと思ったのかスッと私を握っていた手を離した。

 私は直ぐに逃げ、優介の後ろに立つ。


「チクったら、ただじゃおかないからな」

「それはお前らの態度次第だよ」

「ちっ」

 と、男は舌打ちをしながら、私達の横を通り去っていく。

 私は後ろから襲われないかと心配し、男から更に離れた。


「奈緒さんを離せよ!」

 と、良太君の声が聞こえ、慌てて奈緒の方に視線を向ける。


「うっせぇッ!」


 竜司が奈緒から手を離し、良太君を突き飛ばす。

 良太君はバランスを崩し、尻もちをついた。

 竜司がその瞬間を狙って、私たちから離れる様に逃げていく。


「大丈夫?」


 奈緒が良太君に駆け寄り、手を差し伸べる。

 ――良太君は一瞬、手を出そうとするが、恥ずかしかったのか、パッパッと両手の土を払うと、自分で立ち上がった。


「うん、大丈夫」

「まったく……無茶するからだよ」

「面目ない」

「――でもまぁ……ありがとう」

 と、奈緒が頬を赤らめて言うと、良太はニッコリ微笑み「どう致しまして」


 なんだか微笑ましい光景だ。

 どうせだったら二人が付き合えば良いのに。

 私は心からそう思った。


「美穂もだぞ」

「え?」

 と、私は声を出し、優介の方に顔を向ける。


「まったく無茶しやがって」

「面目ない」

 

 優介はニコッと微笑み、私のスマホを差し出す。


「良太の真似をするな」

「テヘッ」


 私は舌を出しながら、スマホを受け取った。

 よくみると優介の体が微かに震えているのが分かる。

 優介でも怖かったんだね。


 私もそう……気丈に振舞ってみたけど内心、泣きたいぐらいに怖くて、震えが止まらない。


「――ありがとう」

「あぁ……」


 本当は感謝の言葉だけじゃ物足りず、優介に触れたかった。

 だけど今は――。


「ねぇ、優介」

「なに?」

「どうしてここに居るの?」


 優介はなぜか、良太君の方へと視線を向ける。


「――ごめん、言えない」

「そう……分かった」

「それじゃ、帰ろうか? 送っていくよ」

「ありがとう」


 優介が良太君の方に向かって歩き出す。

 私も後に続いた。


「良太」

「なに?」

「奈緒を送って行ってやれよ」

「あ……う、うん。分かった」

「奈緒を宜しくね」

「うん。それじゃ奈緒さん、行こうか?」

「うん」


 二人は肩を並べて歩き出す。

 私達はそんな二人を黙って見送った。


「俺達も行こうぜ」

「そうね」


 私たちも肩を並べて歩き出す。

 今日は優介のおかげで助かったけど……もうあんな思いは二度としたくはない。

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