第82話
「会ってきた!? 柊生徒会長の妹さんと獅々神の弟に!?」
「ouioui」
4時限目の体育。いつも通り見学をし、サッカーしているクラスメイトと2組の生徒達を見ながら私は今朝の出来事を二宮君に話した。
ちなみに仕事の関係で、今日の二宮君は3時限目の途中からの登校です。
「支持者とそのライバルさんとは直接話をしときたかったからね? 二人のクラスを柊生徒会長に聞いて今朝会いに行った」
「どんな感じだった?」
「――……良い意味で特別な人達? 妹さんは柊生徒会長から茶目っ気を取り除いた感じで、赤羽後輩は逆にフレンドリー。クラスメイト達との関係も正反対で、妹さんの方は怖がられてて逆に赤羽後輩の方は慕われてた。――私が教室を去った後に数名に駆け寄られて『大丈夫!?』って声を掛けられるぐらい慕われてましたよ」
それに、私を見て一目散に距離を取ったクラスメイト達と違いこの二人は普通に――いつも通りの対応をしてくれたと思うからそれだけで第一印象は好印象。特に妹さんの方は見た目が柊生徒会長の面影がある状態で中身が仕事モードの麻紗姉さんっぽさがあるから普通に
「そ、そうか。――ちなみに吹奏楽部にも……翡翠部長にも会いに行ったのか?」
何やら恐る恐る聞いてくる二宮君。私は残念そうに首を横に振ります。
「いいや? 行きたかったけど柊生徒会長に”死にたいの?”って断念させられました」
「あぁ良かった。野球部の甲子園強制辞退の件で吹奏楽部の大勢がお前さんを恨んでいるだろうから、呑気に一人で会いに行ったら楽器が血で濡れてたぞ」
「あらあらそれは何故でしょう?」
私が一体何をしたと? しかも運動部と違って被害らしい被害を被っていない文化部の吹奏楽部がどうして私を恨むので?
「何故ってお前……野球部の甲子園辞退、それの原因になった事件を引き起こしたんだ。マスコミのせいで霧島先輩と島之の血縁が明るみになった今、多くの生徒が霧島先輩の凶行の訳に気づいてる」
「!」
あらあら。”夏の災厄”と呼ばれた例の事件。これが単なる乱闘騒ぎではなかった事を、私が偶々現場に居合わせてしまった憐れな巻き添えではないと生徒達が感づいていると? ――でも、
「? それと吹奏楽部さんになんの関係が?」
「甲子園が無くなれば吹奏楽部の応援合奏も無くなるだろ?」
「あっ……え? それだけ? たったそれだけの事で殺される程に恨まれているの私?」
大衆の面前での演奏の機会を一つ失った程度じゃん。それだけテレビに出たかったって事? 相当にマスメディアに追い詰められておいて?
「それだけって言うな。甲子園――特に夏の甲子園で行う応援合奏は吹奏楽コンクールの次に大切なんだよ。それと部員によっては彼氏の最期の晴れ舞台だ」
「へぇ」
「雑な上に軽い」
「そりゃそうだ。甲子園やら彼氏の最期の雄姿が見られなくなったのはご愁傷様だけれど、それで私を恨むのは筋違い。恨むんだったら”夏の災厄”なんて大層な事件を起こした霧島先輩であり、甲子園を強制辞退させた学校でしょうよ」
「だとしたらそれを提案した私は相応に恨まれて当然ってわけだ」
「「!?」」
背後の校舎から見知った声が聞こえる。驚きながら振り返ってみると校舎に取り付けられた窓から柊生徒会長が。しかもどうやら美術の授業だったようで、その手にはデッサン用の鉛筆が握られていた。
「やぁサボり魔のお二人さん。授業に参加せずに雑談とは良いご身分で」
「それはそっちもでしょう 絵を描いなさい絵を」
「安心したまえ。――符條さんこれどう?」
柊生徒会長の隣でデッサンしていたクラスメイトに自分の絵を見せる。すると絵を見せられたクラスメイトは決め顔で一言「素晴らしい芸術だ」と答える。何故か柊生徒会長ではなく私達を見ながら。
そして興奮した符條さんがその絵を友達にも見せようと呼びに行こうとした所を呼び止め、絵を渡してそのまま友達の所まで持って行かせた。
「二人にも後で見せてあげよう。――さて」
周囲に居るのは私達3人だけ。意図的にこの状況を作ったと言わんばかりの表情で二宮君を見る柊生徒会長。
「――なぁ柊。さっきの発言はどうゆう事だ?」
視線を交わし、声が真面目になる二宮君。柊生徒会長は一瞬だけ目を伏せ、短く息を吐いてから再度二宮君と視線を合わせる。
「そのままの意味だよ二宮君。野球部の夏の甲子園強制辞退の大元の原因はこの私にある。私が幾つかの部活動の大会やコンクールの出場辞退を学校に進言したんだ」
「ッ!?」
柊生徒会長の言葉に、二宮君は目を大きく見開いて絶句する。
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