第79話

 昨年の20XX年”夏”。

 初恋相手であり幼馴染であった私に裏切られたと騒いだ島之さん。そんな妹の傷心を癒すべく兄である霧島先輩がおこなった私刑がキッカケで始まってしまったお祭り騒ぎは、人権軽視がモットーのお役職様方による生徒達への度が過ぎた取材鬱多数・自殺未遂1名という災害へと発展。下がり続ける私立高としての評判をこれ以上落とさせないように学校側が生徒達にした弾圧制裁と、従わせる為におこなった野球部の甲子園強制辞退。


 これ等全てがあった昨年の夏を”夏の災厄”と、生徒達はそう呼んでいるらしいです。


「ありがとうございます」


 完全に思い出せた訳じゃないけれど、それでも四季先生と柊生徒会長の奮闘のお陰で朧気に記憶が戻ったので不服ながらもお礼を言う。だからね二人共? その手にある金槌を置きたまえ。静まりたまえ。私は二世代前の電化製品じゃないぞよ。


「元はと言えばねぇ? 君が乙女三人に対してどっちつかずの対応をしてたのが悪い! しかも霧島先輩の妹さんとは幼稚園の頃からの付き合いだったんだろう!? 据え膳食わぬは男の恥という言葉を知らんのか君は!!」


「知らないよそんなもの。そもそもあの三人が私に好意を持っていた事すら知りませんでしたし……あと据え膳食ったら最悪果てた瞬間に命も果てるのだが?」


「あっ……いやでもだね……」


「傍迷惑な好意のせいで味覚障害まで患ったのだが? ねぇ四季せんせっ?」


「……はい」


「ごめんなさい。――ただ分かって欲しい。立場のせいで当時の私も抜け毛が笑えないレベルで大変だったんだ」


 振り上げた金槌を下ろし、双方しょぼくれた様子で椅子に座り直す。思い出したくもない過去を思い出した為に少々キツイ物言いになってしまった。


「梨兄ちゃん味覚障害だったのか?」


「……」


「ん? あぁ大丈夫。普通に暮らしている分にはもう何ともならないから」


 心配そうに聞いてきた九々少女にそう言って安心させ、ついでに少々荒ぶってしまった心を落ち着かせます。私の身体のこと以外で心配を掛けたくないから。

 ちなみにその隣では多少なりとも昨年の夏の事件を知っている帯々少年が複雑そうな顔を浮かべております。


「とりあえずホワイトボードに書かれた運動部が赤羽後輩を支持して前の……部活動と生徒会と学校の三角関係? を戻そうとしているのはわかった。――で、その前の三角関係とは如何に?」


 万年部費が出ない帰宅部なので話に出た三角関係が分からない。一体全体どうゆう構図なのだろうか? 普通に考えれば三角ではなく学校がトップの縦一列だと思うんだけれど。


「――……と、前はこうゆう構図だったんだ」


 私からの質問に答える形でホワイトボードに関係図を書いてくれる柊生徒会長。


「教室で予算案の話をした時に『学校側と顧問を含めた部活動側との間で取り決められた目標が達成されたかどうかで判断される』って話をしたじゃない? つまり今は学校と部活動がこうして繋がって、その繋がった線の下に我々の生徒会がある。――で、その前は学校と生徒会の位置が逆だったんだ。しかも文字の大きさで表したように今の生徒会よりも圧倒的に立場が弱い状態で」


 確かにホワイトボードに書かれている関係図、特に前の関係図では繋がった線の下に書いてある学校の文字が圧倒的に小さい。その隣にある今の関係図の生徒会は上二つよりも気持ち小さい程度なのに。


「なんで? 学校があるから生徒があるんじゃないの?」


「お! そこの小学生良い質問だ」


 そう九々少女を誉めて、柊生徒会長は新旧二つの関係図の上にグループと追記。


「前提条件として我々が通うこの学校は私立校だ。なら当然、一番上にはこの学校を経営するグループの存在がある。じゃあグループがこの学校に期待している事はなんだと思う? はい小学生!」


「! え、えーと……将来有望な生徒を育て上げる?」


「正解。じゃあその優秀な生徒とは? 何を基準にそれを決める?」


「基準……成績? テストの点数とか大会で表彰されたりとか?」


「正解。では全国学力テストでトップを取るのと、何らかの全国大会で優勝するのとではどっちが目立つと思う?」


「全国大会!」


「全問正解! ご褒美に一つだけお姉さんに我儘を言う権利を与えよう」


「本当! なら明日から帯々兄ぃのクラスで授業受けたい!!」


「えぇ……なにその健全で可愛すぎる我儘。生徒会長権限で許可しよう」


「いや駄目ですよ。九々も他のにしましょうね」


 やれやれと、しかし一緒に授業を受けたいと言ってくれたからか何処か嬉しそうな表情を浮かべて九々少女の頭を撫でる帯々少年。九々少女も一瞬残念そうな顔を浮かべたけど、大好きな帯々少年に頭を撫でられた事で満足そうにはにかんだ笑顔を浮かべた。


 あらあらまあまぁ、本当にこの二人は愛くるしいですねぇ。

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