第45話

「こっちへ帰る途中で梨達がいつも買い出しで使ってるスーパーで棗を見つけてな? 再現レシピの進捗状況を確認しに行く――という体で二人が無理をしてないか心配だからと遠回しに言ってたから乗せてきた」


「ちょっと!?」


「あらあらまあまぁ」


 内心ニヤニヤしながら心配性な二宮君を見ると、耳まで真っ赤な二宮君がいらっしゃった。


 これがツンデレって奴ですか? なんとまぁお可愛い事。


「休憩中か?」


「yes。行き詰ってたから前に淳兄さん達に教えて貰ったホスト&キャバクラ流の”気晴らしの会話術”を実践しながら休憩しとりました」


「おぉそうか。それは良い事だ。――おや?」


 そう言って淳兄さんは私を誉めた後、手を洗う為に赴いた台所で混ぜかけのタルタルソースを見つける。


「味見しても良いか? 帯々君」


「!? は、はいどうぞ……」


 淳兄さんとの歳の差16歳、年相応にたどたどしく答える久遠少年。こうして一緒に住んで早一か月経つのだけれど、未だに淳兄さんとこの場に居ない麻紗姉さんの二人には何処か臆する所があるみたいです。


「じゃあ頂かせて貰うね――んっ!? フッ……なにこれ? 納豆の主張が強いね? 口に入れてすぐ――あれ? 納豆食べてる? って、勘違いしたよ」


「! す、すみません……え?」


 笑みを零しながらもう一口、二口三口と納豆風味のタルタルソース口に運んでいく淳兄さん。そして感想と行動が合っていないと思ったらしい久遠少年は、あわあわしながら「不味いんじゃ……? え?」と、言葉を零します。


 まぁうん。気持ちは分かる。てか懐かしい。何時かのヤクグラタンを思い出すわい。


「ん? あぁごめんごめん。確かに美味しくないけど不味くもないよ? 納豆も嫌いじゃないし。――ただ面白くってね? 口に入れた時、最初は確かにタルタルソースだった筈なのに飲み込んだ後は”あら納豆?”で、終わってくるのがさ? ――ほれ」


「あ、頂きます。――! おぉ確かに”あら納豆?”で、終わりますね」


 隣で興味深そうにしていた二宮君にも食べさせると、淳兄さんと同じ感想を口にした――ので!


「丁度良い。今夜はそれを使いましょうか?」


 準備が出来た夕飯のアボカドコロッケカレーに、二人が面白いと絶賛していたタルタルソースを全て掛てしまいましょう! なにカレーからカレー擬きになっただけで味は旨い。そこはちゃんと保証します。

 

 ――で、何とも言えない顔をしていた二人は結局最後は美味しかったと感想を言い、食後に手作りデザートと温かい飲み物を頂きながら進捗状況を聞いた淳兄さんが少年の料理ノートを見ていきます。


「! ふーん……さっきの納豆さんにも赤で丸が付いてるんだね? ――……あ」


 突然、何かに気づいた風の声を零す淳兄さん。淳兄さんは自身のスマホを取り出して何かを調べ――そして笑みを浮かべた。


「分かったの?」


「いや? ただこれだろうってのは見つけた」


「「!?」」


 私の質問に即答する淳兄さんと、それを聞いて驚く二宮君と久遠少年。そして二人が何かを発する前に淳兄さんは久遠少年を見た。


「聞くか?」


「!? お――あっ――……」

 

 突如として振って湧いた幸運に、一瞬嬉々とした表情が浮かぶ。が、表情はすぐに固まって、急に答えが得られるとかもしれないという状況に表情がどんどん曇っていきます。


 やっぱり答えは自分で探したい。でも正解を知っている人がすぐ近くにいるのなら縋りたい! ――と、こんな感じでなんとか必死に踏み止まってるみたい。


「……」


 なんとか良いアドバイスが出来ないものか? と、思いつつ私には経験不足と役者不足で無理だなと開けた口を塞いだ私と代わって、経験豊富で適任の人の口が開かれる。


「人生の先輩としてちょっとしたアドバイスをしてあげよう。――もしも思考を放棄してもう楽になりたいと思うまで悩んで、それでも答えが出ないなら”頼りにしている相手だったらどうするか?”で、考えてみると良い。それか誰かを思って悩んでいるのなら”その人だったらこの状況でどんな選択をするのか?”で、考えてみる。俺はこれで妹の麻紗緋や師匠である四季先生によく助けて貰ってるよ」


「! 九々なら」


 納得できたのか、久遠少年は大切な幼馴染の名前を言って目を閉じる。

 すると、その数秒後にはいつぞやの路地裏で二宮棗が私に向けたのと同じ”揺るぎない覚悟を匂わせる様な、そんな真直ぐな眼差し”で、淳兄さんを見据えていた。


「まだ! 聞かずに頑張ります。まだ手遅れじゃないから」


「――そう。ならこっちの考え方も変えてみると良い」


 と、淳兄さんは意味深に見せて貰った料理ノートを指で数回叩きます。その意味深な行為はまるで”全ての正解はこのノートにあるよ!”と、言っている様に思えた。


「――……!! まさか――」


 数秒の思考末、淳兄さんの意図を汲めたのか久遠少年は自身の料理ノートに釘付けになった。

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