第15話
「んぃーっ! いい天気だぁ」
と、私こと――六出梨は全身で昼過ぎの太陽と秋の丁度良い涼しさを感じながら自宅のマンション前の玄関で伸びをする。
今日は土曜日。しかもちょっと特別な土曜日。なんだと思います? ――そう! 昨日の中間試験を終えてから迎える最初の休みなのです!
「元気だなぁ」
「ぬっ! どうしたんだい二宮君。まるで悪酔いしたサラリーマンの休日みたいになっとるね」
「……うっさいよ」
と、頭痛による悪態を付きながら私の隣に立つ二宮棗。彼が何故、私のマンションの玄関から状態異常をこさえて現れたのかを説明すると以下の通り。
1、中間試験が終わった昨日、我が家に集まって打ち上げ。参加者は現学生の私と二宮棗。学生以外は四季先生と淳兄さんと麻紗姉さん。――あらあらまあまぁいつメンじゃないか。
2、折角だから明日の土曜日は数駅先のショッピングモールへ遊びに行こう! と、淳兄さんと麻紗姉さんが提案。
3、喜ぶ私と相反して遠慮する二宮棗だったが、現役キャバ嬢である麻紗姉さんが個室(二人が共有している寝室)へ連行――されたのだが約1分程で二人共々退出。麻紗姉さんからの「行くよね?」に「はい」と言ってその首を縦に振った。ちなみにこの時の二宮棗はほんのり涙目である。
4、食後のデザートである、淳兄さんと麻紗姉さんが買ってきた酒菓子数種類をそうだと知らずに食べていたとの事。ちなみに私は一つ目を口にしてからの記憶がない。
以上。私が目を覚ました時は悲惨の一言。ある者は床、ある者はテーブルの上、ある者は椅子の上、ある者はトイレの中で死んだように眠っていた。
――はい。優しい私は朝一でスーパーと薬局に買い出しに行ってアサリの味噌汁と半分は優しさで出来ている薬を酔っ払い達に振舞いました。偉いでしょう? 凄く偉いでしょう! 酔っ払い共による空き瓶と酒菓子の包み紙等で表現した現代アート――タイトル(リビングとトイレの地獄絵図)に、私のみ別種の頭痛に悩みながらもなるべく起こさないように静かに片付けたりしましたから!!
「お待たせェ」
「悪い待たせた」
「いえ……ぬ? 四季先生は?」
私と二宮棗が先に出てから数分後にスーツ姿の麻紗姉さんと淳兄さんが現れたのだが、一緒に出てくると思っていた四季先生の姿が無かった。ちなみに私と二宮棗は制服です。
「寝言で救急車を連呼してたからァ、私達の部屋で冷えピタさん張って寝かせてきたァ」
「あぁ。とりあえず近くに水とスポドリとゼリーを置いといたし、スマホも充電しておいたしまぁ大丈夫だろ」
「あらあらまあまぁ左様で」
私はスマホを取り出して四季先生に『アサリの味噌汁があります』と、一報を入れる。――まぁ、麻紗姉さんによってアサリは食い尽くされましたが。
「じゃあ行こうか? 確かお師匠の車はあっちにあ――……」
「ん? 淳兄さん?」
「お師匠の車マニュアルじゃん……」
「ァ」
「? 淳兄さんマニュアル免許でしたよね? なにか問題が?」
珍しくやっちまったという顔で四季先生から拝借した車のキーを見下ろす淳兄さんと、そんな淳兄さんを同じような顔で見る麻紗姉さん。ちなみに昨日は二人とも四季先生の車でこっちに来ている。
「確かにマニュアル免許だが……生憎とマニュアル車は教習所でしか乗った事がない」
「あらあらまあまぁ……意外」
「あぁよく言われてるよ。残念ながら運転が楽しいと思えなくてな……むしろ自分ではあんまり運転したくないってのが本音だ」
「それにまァ? 私達の活動範囲は決まって人通りが多い所だからねェ」
「――……本当になぁ」
と、麻紗姉さんのフォローにスッと淳兄さんの目からハイライトが消える。その眼差しからは”何度頭ボウリングの玉な奴らを轢き殺したいと思った事か!”という不満が滲み出ていらっしゃった。
「どうしますか? 先生を叩き起こしますか?」
「……いや、タクシーを呼ぶ」
「それならァレンタカーの方が都合良いんじゃないのォ」
「え? 普通に電車で行きましょうよ」
「「「駄目」」」
「あらあらまあまぁ」
そう二宮棗の提案を却下してスマホを取り出そうとする淳兄さんと、その案の延長線上にある案を提示する麻紗姉さん――に、私が別の案であり最適案を出したのだが何故か全員から却下されました。
「何故? 片道数千円だか一日何千円より片道200円の方がお得なはず……それにここから駅までは10分程度で着くのに」
「「「……いや」」」
「――……まさかとは思いますがぁ、私を気遣ってます? それとも10分程度も歩けないと思ってますぅ?」
「「「……ぁいや」」」
全員、左に泳いだ目が今度は右に泳ぐ。――ふっ、舐められたものですね? と、私は無言で準備運動をして、
「走ってやるッ!」
と、宣言をして全力ダッシュをした。
――。
――――。
――――――。
「――ほらスポドリと塩タブレット。それからこのウェットティッシュでデコを拭け冷えピタ張るから」
「ぁ、あい……ありが、ありがとっ……んっ……」
ま、まさか走り出して5秒と持たんとは思わなかった。まさか片道10分が30分になるとは思わなかったです……。
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