第54話 ラングリッサ王国の遺跡

『それで、話というのは何でしょうか?』


 部屋に招き入れると、テレサはティーポットを用意しお茶を淹れ始めた。

 机の上には本が置かれており、しおりが挟まれている。


 きっと先程までこれを読んでいたのだろう。

 タイトルを見ると、女性の間ではやっているロマンス小説のようだ。


 彼女は無言で俺にコップを差し出すと、自分もコップを持ち、お茶に口を付ける。


「その前に、テレサはラングリッサ王国に行ったことはあるか?」


『いいえ、行ったことはありませんね。確か、山脈に囲まれた国ですよね?』


 このカプセの街から馬車で二週間程西に向かったところにあるラングリッサ王国。この国は鉱山から得られる鉱石が主な収入源で、掘り出した鉱石を金属や宝石に加工して輸出している。


『ラングリッサ王国がどうしたのですか?』


 テレサは疑問を浮かべると白銀の瞳で俺を見つめてきた。


「実は、最近、ラングリッサ王国で遺跡が発見されたらしいんだ」


『はぁ、遺跡……ですか?』


 俺とテレサとの間には熱量の差があった。無理もない、彼女はまだこの情報をしらないのだから。


「鉱山を掘り進めている最中に発見したらしいんだけどな、今は中からモンスターが出てくるので調査できない状態らしい」


『そうですね、遺跡には強力なモンスターがいる。以前、私とガリオンもサイクロプスと戦ったじゃないですか』


 懐かしい話をする。あれは俺とテレサがパーティーを組み始めたばかりの頃、鉱山にいるサイクロプスを討伐して欲しいとの依頼を受けた時だったな。


 あれから半年も経ったことを考えると、俺と彼女の関係も随分と変わった。

 最初は意思の疎通すら拒否し、汚物を見るような目を向けてきたのだが、今では深夜にもかかわらず、こうして部屋に招き入れ、お茶を振る舞ってくれるようになった。


 俺はそんな感慨深さを感じながら、テレサのパジャマ姿を見ていると……。


『あまりジロジロ見ないでください。目を潰しますよ?』


 テレサは白銀の瞳をギラリと輝かせると物騒なことを言い出した。

 おかしい、先程まで感じていた親密さが完全に消えている。


「それで、その遺跡なんだけどさ、ラングリッサ王国に残っていた古文書を読み解くと、古代文明の賢者が残したものだったらしんだ」


 滅びてしまった文明なのだが、今よりも高度で様々な魔導具が発明されており、一部では今もその魔導具が使われている。


『なるほど、賢者の遺跡ですか、それは興味深いですね』


 テレサは白銀の瞳を輝かせると俺の話に乗ってきた。


「それもそうなんだけどさ、どうやら遺跡の奥にあるらしいんだよ」


『何がですか?』


 テレサは首を傾げる。

 俺は勿体ぶるつもりがないのではっきりと告げる。


「【万能の霊薬エリクサー】が」


 テレサは大きく目を見開くと口を動かし「エリクサー」と確かに言おうとしたが声がでなかった。


 彼女は幼少のころに受けた呪いにより声を失っているのだ。


「テレサはまだエリクサーは試していないんだろ?」


『それはそうです。だってエリクサーと言えば死んでいなければすべての傷を即座に癒してくれる、古代文明が誇る究極の回復アイテムですから』


 現在、精製方法は失われており、誰一人として作ることはできない。

 極まれに古代文明の遺跡から発掘されることもあるのだが、途轍もない効果があるため、手に入れた人物が手元に置き手放すことがないのだ。


『もしかして、その情報を得たからこうして慌てて部屋を訪ねてきたのですか?』


「ああ、ラングリッサ王国までは距離があるからな、遺跡に入れるタイミングになったら即入らないと、他の連中に先を越されてしまうだろ?」


 明日の朝から悠長に準備をして出遅れてしまっては勿体ない。今日伝えて明日出発するつもりだった。


『あなたという人は、本当に……どうしてそこまで』


 先程までと違い、テレサは白銀の瞳を潤ませると俺を見てくる。


「お前さんの呪いは俺が解いてやるって約束しただろ?」


 テレサが散々呪いをで苦しんでいたことは知っている。どうにかしてやりたいとずっと考えているのだ。

 俺がそう答えると、テレサはぼーっとした表情で俺を見てきた。

 よく考えると深夜を回っている時間だ、女性の部屋にあまり長いすべきではないだろう。


 テレサが立ち上がり、回り込んで俺の近くまで来る、右手を伸ばし俺に触れようとしてきた。


「それじゃ、明日出発ということで準備するってことでいいな?」


 ピタリと手が止まり、目が大きく見開かれ白銀の瞳が俺の言葉を探ってきた。

 おそらく、早く部屋から出るように言おうとしていたのだろう。付き合いも長いからそのくらいは察することが出来る。


「それじゃ、俺は部屋に帰るから」


 即座にドアの前まで移動すると、俺はテレサにおやすみの挨拶をする。

 ドアが閉まるまで、テレサは腕を伸ばしていたのだが、俺は特に気にすることもなく部屋へと帰り、荷物を纏めるのだった。


※発売まで後三日(カウントダウン)

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