山本と嘘

―――ピンポーン―――


何の変哲もない呼び出し音がなる。というより、昔懐かしいといった音だ。そう言えば、うちのインターホンもこんな音だったかもなどと、取り留めも無いことを思っていると、山本宅であろう玄関のドアがゆっくりと開いた。


「はい、どちら様でしょうか?」


そこに立っていたのは、聰の記憶の中の山本とは全く違う人物だった。背は低く、髪は短く刈り込まれている。見たこともない人物だ。それに対して記憶の中の山本は背が高くひょろっとしたイメージだった。時の流れということも考えられるが、それにしては余りにも違う。一瞬家を間違えたかとも思い、改めて表札を見直したものの、しっかり山本と書かれている。同級生の山本の家であるかはわからないが、山本さんの家ではあるわけだ。取り急ぎ、無難なセリフを投げ掛けた。


「あの…山本さんのお宅でしょうか?」


聰が尋ねると、男は怪訝そうな顔をした。


「そうですけど…どちら様ですか?」


当然ながら聰たちのことはわからないといった印象だ。だが、ここまで来ては引き下がれない。警戒するような視線に耐えながら言葉を続ける。


「えっと…高校の同級生の宇津保と申します。山本ひろとさん、いらっしゃいますか?」


男は少し考えてから、


「ああ、ひろとなら兄貴です。ちょっと待ってください。」


そう言って家の中に戻っていった。張り詰めた緊張が少しだけ和らぐと、聰とあか里は顔を見合わせた。


「兄貴…?山本くんって兄弟いたっけ…?」


あか里が小声でつぶやく。


「…いなかったと思う」


聰はそう答えた。山本に兄弟がいたなんて話は一度も聞いたことが無い。いたとしたら学校生活の中で一度も話に出ないなんてことはないだろう。


「もしかして、またアハ体験か…」


「あはは。そうかも」


しばらくすると、山本の弟?が戻ってきた。


「どうぞ。中にいますんで」


二人は家の中に通された。聡が前であか里が後ろという順番だ。聡が先にリビングに通されると、ソファに座っていた男が気づき、顔を上げた。


「おぉ!ホントに聰…?」


男は聰の顔を見て、驚いたように声を上げた。


「ひろと…!」


そこに座っていたのは、聰の記憶の中の山本だった。しばらく会っていなかったため、年月は感じられたが、紛れもなく高校時代の友人、山本ひろとだった。


「久しぶりだなぁ!…まさか、会いに来てくれるなんて」


山本は笑顔で言った。


「あぁ…本当に久しぶりだな」


「山本くん久しぶり!」


二人の会話に入り込むように、あか里も声を掛ける。


「あれ?!もしかして…三枝さん?」


「そうそう!覚えててくれたんだ?」


あか里は嬉しくなって微笑んだ。久しぶりに会う同級生の名前が出てこないなんてこともある中で、山本はしっかりあか里の名前を覚えていたのだ。


「勿論だよ!でも、急に二人でどうしたの…?」


山本の質問は当然だ。しばらく会っていない一人の同級生と再会することすら珍しいのに、それが今日は二人で訪ねてきている。


「いや、なんていうか…」


「あ~!!待って待って!当てるわ!」


山本はそう言ってクイズでも始めるかのように、「うんうん」と唸り始めた。


「わかった!同窓会の知らせ?!」


「ブッブー!違います!」


あか里が山本に乗っかるように〇か×を答え始めた。


「え~!違うの~?!…あ…もしかして、合コンの人数合わせ…?!俺無理よ?!緊張してぜんっぜん喋れないんだから!」


「ブブブー!!またまた違います!!」


「何よ~!もてあそぶじゃない?!」


二人は聰そっちのけで大盛り上がりである。


「あ~!!わかったわかった!!」


山本は合点がいったとばかりに声を上げると、ニコニコとニヤニヤが入り混じった顔で聰の方をじっくり眺めるように見てきた。


「…な、なんだよ」


クイズの矛先が急にこちらに向けられたようだが、聰には全く心当たりがない。


「結婚の報告でしょ!!」


「ブフゥッ!!!」


聰は思わず噴き出してしまった。


「あはっ!」


あか里からも、思わず笑い声が零れた。


「何よ!サプライズ?久しぶりに会う同級生に面白いことしてくれるじゃない!」


山本は見当違いの答えを導き出して、勝手にテンションを上げている。


「い、いや!ちがっ!」


「あは~、わかっちゃった~?!」


あか里が聰の言葉を遮るようにカットインしてきた。


「なんだよなんだよ~!やっぱりね~!!」


「なになにぃ~?山本くんわかっちゃってたのぉ?」


「まぁ…何となく…ね?」


山本はどや顔で答える。あか里にすっかり乗せられている。


「待ってくれひろと!違うんだ!」


しかし、あか里は再び聰の言葉を遮るように言った。


「そうなの、山本くん! 実は私たち、結婚することになったんだ~!」


聰は目を丸くした。あか里は何を言っているんだ?山本はというと、あか里の言葉を聞いて、満面の笑みを浮かべている。


「そうか~!おめでとう!」


「え? あ、ありがとう…?い、いや、そうじゃなくって!」


すると、あか里は聰の耳に口を近づけるとコソコソと話をしてきた、


「ねえ、さとくん。せっかく山本くんが喜んでくれてるんだから、今日はこのままで行ってみない?」


「はぁ?!何言ってんだ!ややこしいことすんなよ!」


後ろめたい事など無いのに、何故かあか里に乗せられて聰もコソコソ声で話してしまう。


「だってさ、面白いじゃん!」


あか里は満面の笑みでそう言った。聰はその顔を見て、(コイツ当初の目的忘れてるだろ)と、思わずにはいられなかった。それに喫茶店では強めに付き合っていないことを主張していたというのに。そんな聰の気持ちを見透かすように、あか里は続けてこう言った。


「それにさ、結婚する振りをしてた方が聞きやすいこともあるかもよ」


聰は思わずハッとなった。確かに、結婚を装うことで、山本から色々な情報を得やすくなるかもしれない。しかし、あか里というやつはふざけてるのか狙ってるのか本当にわからなくなってきた。


「…わかった。あか里の言う通りにしよう」


あか里は親指をグッと立ててポーズし、無邪気な笑みを浮かべた。

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