白と赤のベール

藤咲 みつき

第1話 旅

 白と赤のベール

 キャラクター

 主人公 フレイマル・キアラ(キアラ) 性別女 歳17 姉、フレイマル・ミィリアを探して旅をする少女。聖職者であり執行者でもある。弱きを助け悪をくじくなどではなく、自分が正しいと思った事にしか罰を下さない。

 サブ フレイマル・ミィリア(ミィリー) 性別女性 歳24 執行者として教会の大司教よりも地位が高く、極秘裏に協会の仕事をしていたが、とある事件、神が消えた日(テオスレーテ)以来その姿を見た者はいない。

 セリア 性別女性 25歳 ヴァンパイア ルシアと駆け落ちする際、村人一悶着があり、その時に仲裁などをしてくれたのが、キアラの姉ミリィアだった。

 今は古城にて上級魔族のルシア眷属となり、何不自由なく暮らしていた

 ルシア 性別男 259歳 ヴァンパイアで、数年前、小さの村の村娘と情熱的なお恋に落ち、駆け落ちをする際、ミィリアに村人との仲裁をしてもらったことのある古城の主。根はやさしいが、怒るとそれなりに怖い

 















 世界は神の祝福を受けている。

 誰もが知ってる一文で、この世界に暮らす全ての人がそれを疑うことなく信じているのは事実だろう。

 でも私は、あの日神様が姿を消した日にその場で見てしまった。

 祝福など最初からなかったのだと。



「お金が無い」

 フレイマル・キアラは姉から譲り受けた錫杖を杖にしながら、寄りかかり、街道の木陰で休んでいた。

 彼女フレイマル・キアラは現在17歳の少女で、姉を探す旅をしている。

 シスター服はどこで見かける事もない全身白に、さらに下はスカートでこれは白のスカートに少し赤い線が入ったデザインの者だった。さらにベールまで白なのだが、彼女の髪が黒く長いためか、白と黒がよく目立ち、言ってしまえば悪目立ちする格好をしている、しかしすぐに聖職者であるという見分けも付くので、わりと旅では重宝していた。

 なので、旅の路銀を恵んでもらうなどもできようものだが、彼女は絶対にそれをしない、しなかったがゆえに、ここ2日ほどまともなものを食べていないのだ。

「2日前に寄った街でしっかりお仕事しておくんだったぁ」

 キアラは聖職者で、教会の仕事をしていたのだが、姉を探すという名目で大司教様より許可をいただき、旅をしている、その旅のひと手間で協会が指定している危険人物の捕縛をするという仕事が彼女に課せられているのだが、彼女はその仕事をしない、というか時と場合によりすることを放棄していた。

 この仕事をしていれば、基本立ち寄った場所にある教会で援助が受けられたり、報酬が出たりするのだ。

 しかしながら、彼女は教会の仕事ではなく、普通に掲示板などに張り出されている仕事を旅の道すがらにして路銀を稼いでいた。

 もちろん、教会の仕事もしたときはしっかり頂いているが、援助という名目でいただく路銀はすべて断っていた。

 彼女の信念というか、自分がこの度をするうえで決めたいくつかの制約に、この度は自分の使用なのだから、援助を受けるのはおかしいという、まともな意見だが、それでのたれ死んだら元もこうもないだろ、という一般的な人の考えとは少しずれて居た。

「おお、白い服のシスターさんだ。ありがたやぁ」

「ああ、どもぉ」

 街道を通りかかった老人の旅人が、彼女を見るなり拝んできた。

 彼女は苦笑いを浮かべながらそれにこたえる。

 白い服のシスターは世界に3人しかいないと言われている、一人話はキアラの姉、もう一人はキアラ自身、そして最後の一人についてはキアラはあったことが無い。

 白い服のシスターは、幸運を運び、神に祝福を受けた聖女としてあがめら見かけたらいい事が起きると伝えられている。

 だが、彼女はあがめられるたび、拝まれるたびに思う。

「(神様なんていないわよ)」

「あのぉ、いきなりで申し訳ないんじゃがのぉ」

「え、あ、はい。なんでしょう?」

 拝まれるたびにキアラは悪態をついてしまうのが癖になっていたので、老人に申し訳なさそうに話しかけられたことに半歩ほど遅れるような形で、慌てて問い返す。

「ワシは近くの村に住むんじゃが、近頃うちの村で立て続けに誘拐事件が起きていてのぉ。何とかならんかね?」

「おじいさんの村の名前ってなんです?」

 この辺に土地勘が無いキアラは、とりあえず村の名前を聞いてみた。

「ホウリ村じゃ」

「あ~、なるほど。騎士団が来ないわけだわ」

 誘拐と言えば、近くの騎士団が街から出向いてくるか、ギルドの冒険者の人たちが魔物胎児や、誘拐、雑用まで何でもこなしてくれて、依頼を出せば絶対に来てくれるのだが。

「近くに古城あるでしょ?」

「え、はい、ございますがぁ」

 キアラは確認のために老人にそう聞くと、彼はあっけに取られておずおずと答えた。

 ホウリ村、通称いけにえ村。

 教会では有名な話で、近くの古城に上級魔族のヴァンパイアが眷属とともに住んでいるらしく、数年に一度忘れたころに人をさらっては、さらわれていた時の記憶を消して村に帰す、などという事を繰り返し、生活しているらしく、冒険者界隈でも有名な話で、正義感のある冒険者が勇んで何度となく挑んだが返り討ちにあっているようだ。

「おじいさん、ご飯と路銀で手を打ちましょう!」

「へ?!」

 しかしキアラは知っていた、数年前、姉がこのヴァンパイアを改心させていたというのは。

 姉が行方不明になり、また悪さをしているかもしれないが、私から好都合だ。

 というのもミィリアが行方不明だという事は身内、教会の人間以外知らず、それをもしこのヴァンパイアが知っているのだとしたら行方不明の原因も知っているかもしれないという事だ。

 渡りに船とはこの事だ。

 キリアの事情を知らない老人は、実に嬉しそうに微笑みながら、ありがたやぁと言ってキリアを拝んだ。

「・・・・」

 そこでキリアは何か変な違和感を感じ、老人を見るが、彼は特に変わったことはなく、村へと案内し始めた。

 ほどなく歩くと、ホウリ村へとつく。

 村は入り口から端まで見渡せるほどの、おおよそ10件ほどしかない本当に小さな村だった。

「こんにちは・・・長老、お客様ですか?」

「ああ、最近起きてる誘拐事件について調べてくれることになった聖女様じゃ」

 老人が村で畑仕事をしていた一人の男性に話しかけられ、キアラを紹介しながらそう言う。

 男性は大変人の好い笑顔を浮かべながら会釈をしてきた。

「あ、どもです」

 キアラも会釈をし、それにこたえるが、何だろう、先程老人が見せた笑顔に似ていて、なんとなくだが背筋に寒いものを感じる。

 キアラはそう思いながら、さてどうしようかと思った。

 なんとなくだが、ここに居てはいけない気がしてきていた。

「あの、先に古城へと足を向けてみても良いですか?」

「かまわんが・・・お腹がすいているのではないですか?」

 先ほどまで死にそうになってはいたキアラだったが、ニコリと微笑むと。

「修行で鍛えておりますので。この先でよろしいですか?」

 そういい、錫杖を入り口とは反対側の森の奥へと指をさすように掲げる。

 長老と言われた老人は、なんとなく迷ってはいたが、すぐに頷く。

 キアラは気にすることなく進んでいく、村を突っ切る形となるので、自然と村に入るが、入った瞬間、空間が歪む様な感覚にとらわれ、視界が一瞬歪む

「(結界魔術ですか・・・・でもこれ、外からの侵入を防ぐものじゃないわね、内から出さないための者ね)」

 静かに、特に不振に終われないように進んでいく。

 すると、家々から次々に人が出てきて、こちらの様子をうかがうようなしぐさをする村人たちだったが、特に変な節がある人間はどこにもいない。

 特に警戒されることなく、村に出口、古城跡がある道へと入る。

 すると村の入口へ踏み込んだ時と同じような感覚、視界が歪む感覚にまた囚われる。

 どうやら結界の範囲から出たらしい。

「(この結界・・・村の周囲じゃない。なんなのこれ?)」

 要領を得ない出来事に首を傾げそうになるが、村人がまだ視線を向けていることに気がつき、キアラはそのまま森の奥へと進むことにした。

 妙な違和感を感じる。

 なんだろうとキアラは考えながら進み、少しすると森が開け小さな湖と、その近くにそこまで大きくはないが古城があった。

 古城は湖の中央にある島にあり、そこまでは石畳の橋がかけられていた。

「お姉ちゃんに聞いてた話どうりね」

 ミィリアが巡礼のお勤めから帰るとキリアは良く旅の話をせがんだ、その時にこの古城とそこに住むヴァンパイア、ルシアと村娘セリアの恋物語を。

 ミィリアの話が作り話でないのならば、おそらくこの古城にすんでいるのはルシアであるとキリアは思っていた。

 城門まで来ると、門は破壊されており、普通に入り込むことができそうで、壊れたもんの隙間からキアラは城内へと入る。

「わぁお、何だこりゃ」

 入り口から左右にある花壇には、白の百合の花が満開のその大きな花を広げており、それがとてつもない数埋まっていた。

「多いわね」

 あまりの百合の花の多さに呆けて突っ立ていると。

「あら、お客様?」

 キアラは誰かに声を掛けられ、そちらに顔を向けると、そこには金髪の髪をなびかせ、真紅のドレスに身を包んだ女性が儚い笑みを浮かべており、絵本の中のお姫様の柔らかな笑みにも見えた。

「あの、セリアさんですか?」

「え、どうして私の名前を。どちら様?」

 キアラは事前にルシアとセリアの話を姉ミィリアより聞いていたので、思わず話に聞いてた女性に会えたことの喜びから、何も考えずにそう声をかけていた。

「あ・・おほん、わたし・・・」

「もしかして、ミィリアの妹さん?」

 こちらが名乗る前に、セリアが胸の前で手を叩いたと同時にそう言ってぽわぽわとした笑みに変わる。

「その錫杖、彼女の者でしょ。わぁ、聞いていたとおり可愛い」

「え、あ、あの」

 慌てふためくキアラとは対照的に、セリアはキアラに歩み寄ると、その手を取り、その場でぴょうんぴょんと飛び跳ねて喜んだ。

最初の儚い感じの印象から一変、あまりのイメージ変化にあっけに取られていると、彼女はひとしきり喜んだあと、真剣な表情になり。

「助けてください!」

「へ?!」

 鬼気迫る形で、セリアはキアラにそう告げたのだった。

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