第24話 "エデン"ダンジョン
冒険者登録を行ってから十日ほど経過した。
俺は地道にダンジョン攻略へ向かい、魔物を狩っては素材を剥いで換金し、金を得ていた。
けれどその間に日本の情勢は大きく変貌していった。
都内のモニターは十二年ぶりに現れたナンバーズ5のニュースで持ち切りになり、新潟県から各地への疎開も速やかに始まっていた。
対魔物戦を鑑みて半ば要塞化され、冒険者が多く住む都内に逆疎開する人さえ少なくはないとか。
スマホでも確認できるニュース映像の中には、沿岸部の高さ六十メートルの防壁が無残に崩されているものさえあった。
誰もがナンバーズ5の話題を口にして、それはダンジョン攻略中の冒険者でさえそうだった。
他にも全世界的に見てもナンバーズの出現は十年ぶりであり「日本の株や不動産を売り払う動きが世界的に起こっている」ともローリンがふと口にしていたが……ともかくここ最近は、ナンバーズ5蒼竜の話を聞かない日は一日たりともなかった。
「日本海側に潜伏しているらしいナンバーズ5、まだ見つからないそうですが……いつになったら発見できるんでしょうかね」
杉並区某所の歩道をゆっくり歩きながら、瑠璃川もやはりナンバーズ5についてそう言った。
瑠璃川の大学は杉並区にあるらしく、俺も杉並区内の某所──元C級ダンジョンのスギナミ第十四ダンジョン──に用事があったので、途中まで一緒に向かっている最中だった。
まさか昼飯を買いに立ち寄ったコンビニでばったり出くわすとは思わなかったが。
「さてな。協会職員の知り合い曰く、魔力探知にも引っ掛からないそうだし、無人潜水艇を使っての索敵も海中に溢れ出ている海棲魔物のせいで不可能なんだそうだ。お陰で日本海側は常にナンバーズ5の襲撃に備えて、協会主導で手練れの冒険者で固めているんだとさ」
「なるほど、だから最近都内に冒険者が少ないんですね」
そのお陰でボス戦参加の競争率が低下し、俺は新たにD級とC級でそれぞれ一体ずつのボスの撃破に成功していた。
ただし得られた攻略報酬の魔道具は
「高橋さん。私、大学が向こうなのでここで失礼しますね。ただ、高橋さんはこれから元C級ダンジョンに行く予定……なんですよね? 魔物もいないダンジョンで何をするつもりなんですか?」
瑠璃川は首を傾げていた。
攻略済みのダンジョンには「元」という単語が付き、冒険者なら自由に出入りが可能で、場合によっては協会の許可を得て魔法石採掘に人が入ることもある。
俺が魔法石を掘りに入っていた場所も、元〇〇というような呼ばれ方のダンジョンだった。
「攻略済みのダンジョンでちょっと試したいことがあるんだ。それじゃ、また今度な」
「はい、お疲れ様です」
そうして瑠璃川は大学があると思しき方向へと歩いていく。
その背を見送ってから、俺はその辺のベンチに腰掛けコンビニで買ったおにぎりの包装を剥きながら、さっき瑠璃川が言っていた言葉を反芻するように呟いていた。
「……魔物もいないダンジョンで何をするつもり、か。実は半分くらい俺が聞きたい気分だ」
言いつつ、自らのスキルウィンドウ、その一部に視線を向ける。
+++
高橋直人
スキル:
体力 :350/350
魔力 :460/460
攻撃力:500
防御力:380
速度 :600
幸運 :300
経験値:170/250
【次のレベルアップまで80の経験値が必要です】
【残り三日以内にレベル2に達しない場合、ペナルティが発生します】
+++
「各ステータスは少しづつ上がっているけど、ペナルティってのは何なんだ一体」
スキルウィンドウの一番下のペナルティに関する情報は、つい先日、ローリンにナンバーズ5の話を聞いた直後に現れた。
まるで俺に、強くなることを望むかのように。
ペナルティの正体は分からないが、レベルを上げないと問題が起こるのは間違いなさそうだ。
このウィンドウの意味深なメッセージもあり、俺は日々ダンジョンで魔物やボスを討伐していたのだ。
けれど経験値はまともに溜まる気配がなく、表示される残りの日付は日々減少していった。
A級ダンジョンの番人だったオーガ戦で溜まったと思しき120という数字から、たったの50しか経験値が上昇していない。
「……倒した魔物の強さとか格に応じて経験値が貯まるっていうのは間違いなさそうだな」
それでA級やB級のダンジョン出現情報をずっとスマホで調べていたのだが、出てくるのはC級やD級ばかり。
このままでは残り三日でレベルアップなんて無理だろ、と今朝家で悩んでいたら、何とスキルウィンドウが新たなメッセージを表示したのだ。
【レベルアップ期限まで三日を切ったことにより、”エデン”ダンジョンへの参加資格を得ました。指定するダンジョン内まで移動してください】
……こんなメッセージを貰ったものだから、俺はやむなく指定地である元C級ダンジョンのスギナミ第十四ダンジョンを目指してきたという次第だった。
何が起こるのかは分からないが、ひとまずスキルウィンドウの導きに従ってみた形になる。
「スギナミ第十四ダンジョン……二年前に魔法石採掘で来て以来だな」
いざ現地に到着してみれば、相変わらず薄暗い路地裏にぽっかりとダンジョンゲートが開いている。
中に入ればスタンダードな石壁と石床のダンジョンだ。
しかし魔法石も採りつくされ魔物もいないダンジョンに他の人間がいるはずもなく、中にいるのはやはり俺だけのようだった。
「で、こんなところで何をさせようって言うんだ?」
問いかけると、スキルウィンドウが反応した。
【旧ダンジョンの残留魔力を再利用……成功。”エデン”ダンジョンゲートを構築します】
次の瞬間、魔力が捻じれる感覚と一緒に目の前に新たな円形のダンジョンゲートが開いた。
ダンジョンの中にダンジョン、俗にいう二重ダンジョン状態だ。
そしてスキルウィンドウは俺に端的なメッセージを示した。
【挑戦可能回数:1回】
「つまり一度失敗したら終わりって寸法か」
しかしC級やD級ダンジョンより経験値を稼がせてくれるなら何でも構わない。
この一回でクリアしてやろう。
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