第23話 どこまでも決まった覚悟

フェアリーが右手に持った槍のような武器を構えてゴブリンの群れに突っ込んでいく。

そこに人数差を考えた動きなどはなく、ただ一番近いゴブリンに狙いを定めるフェアリー。

ゴブリンの体目掛けて突き刺すように飛び込んでくるフェアリーを、盾を持ったゴブリンが庇うように横から飛び出して遮る。


フェアリーは攻撃が防がれたことが気に食わないのか、そのまま盾を持ったゴブリンに攻撃を繰り返す。

小さな槍から繰り出される四方八方から迫る鋭く重い一撃をゴブリンは正確に防御し、反撃はせず更に守りを固める。


そうしてフェアリーの意識を引きつけたところに、別のゴブリンが攻撃を仕掛ける。

横合いから迫るゴブリンのショートソードが当たる寸前に気がついたフェアリーは、槍で攻撃を受けるが空中では威力は殺せず吹き飛ばされる。


強制的にゴブリン達から距離を取らされたフェアリーは羽ばたくことで姿勢を制御しようとする。

そこに弓や投石でゴブリンが追撃を仕掛けるが、姿勢を戻そうとしていたフェアリーは回避行動を取ることが出来ない。


的が小さく当てにくいにも関わらずゴブリンの放った一撃は正確に命中し、フェアリーは苦痛の声を上げる。

怒ったフェアリーは自身の体ほどの大きさの炎の塊を作ると、それでゴブリン達を焼き払おうと解き放つ。


直撃すれば無事ではすみそうにない炎撃に、再度盾を持ったゴブリンが立ち向かう。

炎の塊は盾にぶつかると直ぐには爆散せず、そのままゴブリンを押し込んでいく。

盾に身を預け踏ん張るゴブリンに、ぢりぢりと盾越しに熱さが伝わってくる。


そのまま限界を迎えた炎の塊は爆発し、盾を持ったゴブリンは巻き込まれ吹き飛ばされるが後ろのゴブリン達は無事だ。

邪魔な盾を排除したフェアリー空中で大きく回転すると、ゴブリン達から飛んでくる攻撃を避けながら再度突撃を開始する。



大河は目の前の激戦を眺めながら、想像よりもゴブリン達が強いことに驚いていた。


(あのゴブリン達もイベント補正されてるのか。あんな連携、《ダンジョンガーディアン》戦でしか見たことないぞ)


目の前のゴブリン達のような連携は3~5階層で出現するゴブリン達には見られず、大河が見たことあるのは《ダンジョンガーディアン》戦だけだ。

それらのことから、それ相応の強化があのゴブリン達にもされているのだろうと大河は推測する。



(フェアリーもゴブリンも特殊強化されている…。これはなにか意味があるのか?)


大河の目的はモンスターとの契約の方法を見つけることである。

そのために目の前の戦闘をじっと観戦しているわけだが、わかったことは出現しているモンスターが特殊強化されているということだけだ。


(このイベントエリアがモンスターとの契約に関するものであることは間違いない。ならば、フェアリーかゴブリン、どちらかのモンスターとの契約についてわかるイベントなはずだ)


モンスターはプレイヤーを攻撃せず、プレイヤーがモンスターを攻撃して初めて敵対すること。

片方だけでなく、出現するモンスター全てが特殊強化されていること。

露天商NPCが望むものを手にするにはよく考えて選ばなくてはならないと言っていたこと。

これらのことから大河は、もしかしてどちらかのモンスターに協力すればいいのか?と考えた。


(フェアリーと協力してゴブリンを倒す、もしくはゴブリンと協力してフェアリーを倒す。成功すれば協力したほうのモンスターとの契約方法が判明する。ありえそうな展開ではあるな)


両方のモンスターがかなり強力になっており、協力したとしても負ける可能性があることもイベントとしてありそうな気がする大河。

確証が持てない大河だが、この他にヒントらしきものも見つかっていないため現状それがこのイベントの正体だと思うことにした。

そして大河がどちらか協力するかだが、大河はフェアリーにもゴブリンにも協力しないことにした。



大河は他のプレイヤーよりも多くの時間DWOをプレイしている。

それ故にDWOのAIと接する機会も多く、その反応に驚かされることも多い。

サーボから始まり、ダンジョンのモンスターや遭遇した露天商NPCなど、AIとわかっていてもそこに人間と同じような感情や知性を感じることが大河にはあった。


今、大河の目の前で行われている争いは予め用意されていたイベントだと大河は思う。

だが、フェアリーとゴブリンからは確かに彼らの意思を大河は感じる。


怒りを剥き出しにしてゴブリンを追い払おうとするフェアリー。

暴走するフェアリーの圧に押されることなく冷静に連携していくゴブリン達。


用意された舞台でも、演じる役者は本気で挑んでいる。

この戦いは彼らのものであり、横からきた大河が混ざっていいものではないと大河は思ってしまった。



モンスターとの契約についてはわからないのは残念だが、成果だけ求めるのも面白くない。

イベントの結果がどうなるかわからないが、彼らの戦いの決着を見届けようと大河は目を凝らす。




戦いは当初の大河の予想通りフェアリー優勢で進んでいた。

ゴブリン達の予想外の連携があったものの、縦横無尽に飛び回るフェアリーにゴブリン達は徐々に翻弄されだしている。


高所から槍を使った急降下や旋回しながらの炎の矢などとにかく動き回るフェアリー。

それに対してゴブリン達も懸命に攻撃するが、致命打を与えることは出来ず逆に一体一体と数を減らされていく。


炎の塊の一撃から持ち直した盾持ちのゴブリンがなんとか復帰したが、その時には残りのゴブリンは盾持ち含めて3体のみだった。

盾持ちゴブリンはダメージから動きが鈍く、残りのゴブリン達も満身創痍だ。

対してフェアリーもダメージは蓄積しているもののまだ余裕が見え、勝ったつもりなのか口元には笑みが浮かんでいる。



このままフェアリーが押し切るかと大河が固唾を呑んで見守る中、フェアリーが再び炎の塊を作り出す。

どうやら盾持ちゴブリンに邪魔されたのを根に持っているらしく、同じ魔法でトドメを刺そうとしているようだ。


盾を構えるゴブリンだが、その手はダメージからか震えている。

足もふらついており、炎の塊をもう一度受けきることは出来ないだろう。

にも関わらず盾持ちゴブリンに悲壮感はなく、残りのゴブリン達も落ち着いている。


なにか考えがあるのかと大河は訝しむが、状況は圧倒的にフェアリーが有利だ。

そのままフェアリーが炎の塊を解き放とうとした時、大河はフェアリーの後ろ花畑にゴブリンが潜んでいることに気づく。


(伏兵か!)


いつからそこにいたのか、仲間達がやられている間もじっと息を潜め絶好のタイミングを図っていたのか。

今まさに炎の塊を放つ瞬間に、伏兵ゴブリンはフェアリーに向かって手に持った槍を放つ。



意識が完全に前方に向いていたフェアリーに背後からの攻撃が直撃する。

思わぬ一撃にフェアリーは地面に投げ出され、炎の塊は盾持ちゴブリンから僅かに外れた場所に落ちる。

辺りに炎が広がるがゴブリン達は無事だ。


空から落とされたフェアリーは痛みに顔を顰め、フラフラと浮かび上がる。

致命傷にはならなかったが、相当なダメージを受けているようだ。

痛みを堪え辺りを見回すフェアリーは、自分の花畑にゴブリンが入り込んでいることに気づくと一瞬で何が起こったかを悟る。


直様伏兵ゴブリンに炎の塊をぶつけようとするが、それでは花畑も巻き込んでしまうことに気づいたフェアリーは痛む体を無視して自ら飛びかかっていく。

フェアリーの空中からの槍の一撃を、伏兵ゴブリンはショートソードで受け切る。

常ならばそのまま攻撃を繰り返すフェアリーだが、蓄積したダメージのせいか一瞬動きが止まってしまう。


その隙を伏兵ゴブリンは見逃さず、受け止めた槍を掴むとフェアリーごと投げ飛ばす。

見た目通りの軽さのフェアリーは空中で姿勢を整えることも出来ず花畑に投げ出される。


そこへ盾持ちゴブリン達も合流し、伏兵ゴブリンと合わせフェアリーを追い詰める。



ノーダメージを含めた4体のゴブリン達と満身創痍のフェアリー。

大河も流石にこれはゴブリン達の勝利だろうと決着を悟る。



ゴブリン達が近づく中、フェアリーは起き上がり飛び上がろうとするが力が入らないのか座り込んでしまう。

そうして近づいてくるゴブリン達が、自分の花畑を踏みしめていることに気がつく。

常なら怒りの表情を浮かべるはずのフェアリーは、何を思うのかそれをただじっと見つめるだけだ。


ゴブリン達がフェアリーの前に着たときには、その通り道の花は踏み荒らされ無残な姿になっていた。

フェアリーをゴブリン達が取り囲み、それでも油断しないのか盾のゴブリンが前にでてくる。

しかし踏み荒らされた花を見つめるフェアリーはそれにも反応せず、フェアリーにもう戦意がないと思ったのか、最後の一撃を放とうと伏兵ゴブリンが盾ゴブリンの変わりに前にでる。


最後の瞬間まで見届けようとフェアリーを見つめる大河は、フェアリーの頭上に光るなにかがあることに気づく。

急速に大きくなるそれは、次第に花畑に影を落とすほどになり、ゴブリン達も漸く気がついた。

急いでフェアリーにトドメを刺そうとするが、それより早く炎の塊が花畑に落下する。



フェアリーが盾ゴブリンに放った炎の塊の倍以上の大きさのもの威力は凄まじかった。

フェアリー自らを巻き込んでゴブリン達を吹き飛ばし、花畑はなくなり代わりにクレーターが出来ていた。


結果だけ見るなら引き分けだろう。

勝負内容ならゴブリン達の勝ちだろうか。


ただ大河は見ていた。

最後まで見届けようとしていたために。

炎の塊が自らを焼く瞬間、フェアリーは確かに笑っていた。

まるで踏み潰された花たちの敵も取れず負けてしまうくらいならば、花畑と一緒に消えてやろうというような清々しい笑顔だった。


その笑顔をみた大河はフェアリーの苛烈なまでに激しい意思を少し格好いいと思ってしまうのだった。

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