第19話 強いということはそれだけで憧れの対象になる
ワイルドベアーの左右の足を使った嵐のような攻撃を、大河は地面に突き刺すようにして構えた盾をしっかりと体で支えることで受けていく。
丸太のような太さの足とその先にある鋭い爪から繰り出させる連打は一撃一撃が重く、盾に攻撃があたる度に衝突音が辺りに響き渡る。
その攻撃の苛烈さに大河は反撃出来ず、それを見たワイルドベアーは更に攻撃を加速させる。
しかしフィジカルまかせで単調なワイルドベアーの攻撃は、守りを固めた大河の防御を崩すことが出来ない。
それどころか防御の上から削られるオーラを、回復薬を使うことで回復する余裕が大河にはあった。
それに気が付かないワイルドベアーは、獲物を倒せない苛立ちから力任せの大振りな振り下ろしで大河を吹き飛ばそうとする。
しかしその強烈な攻撃でも大河を僅かに後退させることしか出来ない。
渾身の一撃と連打による疲れから動きが止まったワイルドベアーにすかさず大河は反撃する。
左足で踏み込み、左半身を捻りながら右手のロングソードを真っ直ぐ突き出す。
回転により勢いのついたその一撃はワイルドベアーの左足に当たり、そのままワイルドベアーを吹き飛ばす。
「……すげぇ」
少し離れた先で行われている戦いを、剣は食い入るように見つめていた。
回復薬を使ってなんとか動くことは出来るようになった剣だが、この戦いに参加する気にはならなかった。
エリアボスのドロップアイテムに興味はあるし、助けられたからと遠慮しているわけでもない。
剣は初めて見る自分よりも格上のプレイヤーの戦いをただ見ていたかったのだ。
サービス開始からプレイし《ゲートキーパー》まで撃破している剣は平均的なプレイ
ヤーよりかなり進んでいる。
実際に友達の中でも一番進んでいたし、剣は自分より強いプレイヤーを直接見たことはなかった。
だからだろうか、初めて自分より強いプレイヤーに出会い、しかもそのプレイヤーがワイルドベアーとソロで戦っているという普通じゃない出来事に剣は興奮していたのだ。
大河の一撃により吹き飛ばされたワイルドベアーは、大河の方に向き直ろうとして痛みに悲鳴を漏らす。
痛む左足に気を使いゆっくりと大河に向き直ったワイルドベアーはそのまま怒りの目で大河を睨みつける。
そんなワイルドベアーに大河は挑発するように手招きをする。
小馬鹿にするその仕草は怒りに燃えるワイルドベアーをさらに焚き付け、左足の痛みを忘れたかのよう大河に向かって突進を開始する。
がむしゃらに突っ込んでくるワイルドベアーに大河は盾を構えることで応える。
「無理だ!!」
自分があっさりと吹き飛ばされたワイルドベアーの突進を受け止めようとする大河を見て思わず剣は叫んでしまう。
しかしその叫びは届くことはなく、ワイルドベアーと大河が衝突。
「カウンター!」
する瞬間に大河がスキルを発動させる。
淡い光に包まれた大河にワイルドベアーがぶつかると、淡い光がワイルドベアーに向かって走り、突進の勢いや力を跳ね返す。
カウンターによって自らの力を返されたワイルドベアーは、弾かれるように地面を転がる。
大河もダメージを受けているがワイルドベアーほどではなく、左手の盾を投げ捨てると回復薬を使いながらワイルドベアーに向かって走り出す。
衝撃から未だ転がるワイルドベアーに大河は飛びかかり、そのまま両手で握ったロングソードを突き刺す。
凄まじい咆哮をあげワイルドベアーが暴れるが、飛び乗った大河は両足に力を込めて振り落とされないようにして、再度ロングソードを振り下ろす。
暴れるワイルドベアーの右足が大河を打ち据えるが、ここが正念場とばかりに大河も攻撃を繰り返す。
「くらえええっ!!」
そして大河がワイルドベアーの顔面にロングソードを突き刺すと、それが最後の一撃となりワイルドベアーは光に変わる。
ワイルドベアーが消えたせいで地面に投げ出された大河は、光が吸い込まれるのを感じながら右手を空に突き出し勝利の雄叫びを上げるのだった。
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