やってしまった、俺
「何してんだよ。」
入ってきた井田さんに、叩かれた。
パリン…
机にフラッと当たった反動でマグカップが割れた。
「ごめんなさい」
とっさに謝った。
「だから、嫌だったんだよ。両方いけるやつは」
そんなつもりじゃなかった。
ただ、あまりにも悲しそうな
「
「マグカップ、私が片付けるよ」
「じゃあ、ご飯するね」
梨寿さんは、キッチンに行った。
「ごめん。」
井田さんは、俺を睨み付けた。
一緒に、破片を拾う。
「由紀斗さんが、梨寿の事まだ好きなのもわかる。梨寿が、由紀斗さんをまだ好きなのもわかってる。でも、私は絶対に渡さないから」
「わかってるよ。俺だって、渡すつもりないから」
井田さんは、柔らかい笑顔を浮かべてくれる。
「悲しそうな顔してたんだろ?」
「えっ?」
「梨寿と何の話してたか知らないけど…。悲しい顔してたんだろ?」
「何でわかるんだよ。」
「梨寿の事、好きだからわかるよ。どうしようもないぐらい、抱き締めたくなるぐらい悲しい顔する時がたまにある。」
「そっか」
「その時、抱き締めてあげないと梨寿は消えちゃうんだ。知ってるよ。見てきたから…。」
「消えちゃうって?」
井田さんは、話をやめた。
「これ、袋ね。小さい箒とちりとり。掃除機とってくるね」
「うん」
梨寿さんは、掃除機を取りに行った。
「とにかく、また今度話すよ。今回だけは、許してやるよ」
井田さんは、そう言った。
消えちゃうって、どういう意味なのだろうか?
「掃除機するから、どいてね」
「はい」
梨寿さんは、コードレス掃除機で掃除をしてくれた。
消えちゃうって言葉が、ずっと頭の片隅に引っ掛かっていた。
「おはよう」
由紀斗が、降りてきた。
「おはよう、千尋」
「おはよう」
「トラック借りに行かなきゃな」
「うん」
梨寿さんは、朝御飯を持ってきてくれる。
「手伝うよ」
井田さんも、手伝いに行く。
俺は、由紀斗を見れなかった。
「何か、あった?」
「ううん」
梨寿さんを抱き締めた事が、ばれたくなかった。
「食べようか」
「うん」
井田さんも梨寿さんもなかった事にしてくれていた。
向い合わせで、席に座る。
俺は、やけに喉が乾いた。
「いただきます」
「いただきます」
四人で、食卓を囲む。
目の前の井田さんが、人差し指を押し当てた。
黙ってくれるようだった。
俺は、小さく頷いた。
「由紀斗、今日はベッド運んでくれるんだよね?」
「ああ、解体して持ってくよ」
「わかった。」
女の人は、強い。
梨寿さんは、何事もなかったように由紀斗に話していた。
俺には、出来なかった。
朝御飯を食べ終わった。
井田さんが、俺に話しかけてきた。
「何事もなかったようにしなきゃ、怪しまれるよ」
そう言われた。
「女の人は、すごいよ。俺は…」
「ハハハ、そりゃそうだよ。私と関係持ってたんだから梨寿は…。まあ、普通にしときなよ」
「ありがとう」
俺は、由紀斗の元に行った。
「トラック借りていこうか?」
「うん、あ、あのさ」
ブー、ブー
「ごめん」
由紀斗は、電話に出た。
「もしもし、えっ?急に無理だよ。」
何やら、怒っていた。
電話を切って、俺を見た。
「ごめん、今日の夜。梨寿と実家に行かなくちゃならなくなった。」
「そうなんだね。」
「ごめん、千尋。井田さんと一緒にいれないよな?だったら、一緒に」
「無理だよ。俺が行ったら、ご両親に怒られるよ。井田さんが、いても部屋にいればいいから」
「ごめん」
由紀斗は、俺を抱き締めてくれた。
謝らなくたっていい
俺は、さっきした事が頭の中に流れていた。
「さっ、用意して行くか」
「うん、先に降りてて」
「わかった」
由紀斗は、先に下に降りていった。
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