体調が悪いと嘘をついた。


「由紀斗、初めて排卵チェッカーに線がついたよ。タイミングとってみてよ。」


お弁当屋で、働いて三週間が経った日の事だった。


「疲れてるのに」


「お願い」


「わかったよ」


何で、こんな風になったかな?


「もう、いれるから」


「待って、まだ。痛い」


痛いのに、優しくしてくれない。


「それ、痛いからやめて」


私も由紀斗に痛みしか与えられていなかった。


今朝、検査薬をゴミ箱に投げ捨てた。


真っ白だった…。


さっき、お腹が痛くなってトイレに行ったら生理がきていた。


体調が悪いって、嘘をついた。


店長、優しくしてくれたのにごめんなさい。


私は、ベッドに横になった。


子供が欲しいから結婚した訳じゃなかった。


でもさ、愛してる人の子供は欲しいじゃない。


だから、頑張ったんだよ。


なのに…。


駄目だった。


店長が、マッサージしてくれた優しかった。


久しぶりに、優しくされた気がした。


店長みたいな可愛い人と結婚する人は幸せだよね。


友達のsnsを見ては、ため息がでる。


料理を載せる為に、始めたsnsに何故か友達申請がやってきて


仕方ないから、友達になった。


楽しそうな子供の写真に、イライラした。


また、妊娠したんだ。


この子、四人目だっけ?


あ、こっちは結婚して一年だっけ。


胎動のムービーとか載せてる。


へー。くだらない。


私だって、赤ちゃん欲しかったよ。


遺伝子レベルで、嫌われてるよね。


一時間だけ寝て、起きた。


晩御飯しなくちゃ、お腹痛い。


冷蔵庫を開ける、今日何しようかな?


由紀斗の好きなぶり大根できる。


コトコトたいてると、由紀斗が帰ってきた。


「ただいま」


「おかえりなさい」


スーツを脱ぎに行った。


手洗いうがいをして、リビングにやってきた。


「由紀斗」


「なに?」


「また、駄目だった。ごめんね」


「そっか…。わかった」


由紀斗は、一瞬悲しそうな顔をしたけど普通に戻った。


「桜ちゃん、妊娠したみたいだから、産まれたらまた何か贈っとくね」


「そっか…」


「由紀斗、私、もう辛いよ」


「わかってる」


由紀斗は、私を抱き締めてくれた。


「ごめんね、またナーバスだから、今日」


「わかってる」


「私達だけ、一生選ばれないのかな?由紀斗」


「いつか、選んでくれるから…。大丈夫だから」


「いい加減な事言わないでよ。由紀斗は、若い人にいけばいいかもしれないけど、私はもう39歳なんだよ。」


また、由紀斗に怒鳴りつけてしまった。


「俺は、梨寿りじゅしか考えてないんだけど」


「ごめん、言いすぎた。料理作る

ね」


「あれがきたの?」


「生理?」


「うん、イライラしてるから」


「きた、今日…」


「そっか、じゃあ仕方ないよ」


由紀斗は、そう言って笑った。


自分が、嫌になる。


キッチンに立って、お味噌汁を作る。


私は、優しくできない。


由紀斗に、もう優しくできない。


長い間、子供に囚われ続けた私は由紀斗といれないよ。


これを通りすぎたら二人でいれるのかな?


どれだけ、苦しめばそこにたどり着けるの?


「由紀斗、ビール飲む?」


「うん」


私は、ダイニングにぶり大根と味噌汁とサラダを置いた。


「いただきます」


二人で、食べる。


「明後日から、出張だから。何かいる?お土産」


「いいよ、わざわざ買ってこなくて」


「わざわざ買ってきたいから聞いてるんだよ。」


「小豆が好きだから、小豆のものでよろしくね」


そう言って、笑った。


「わかった。」


由紀斗といるのが、辛い。


最初から、結婚何かしなければよかった。


恋人同士なら、楽しかった。


お互いを想い合っていた。


「美味しいよ。ぶり大根」


「よかった」


美味しいって言ってくれるのが嬉しい。


「サラダのドレッシング、梨寿が作ったでしょ?」


「そうなの!わかる?」


「わかるよ。美味しい」


「よかった。」


由紀斗とこうやって過ごしてるの幸せだよ。


なのに、何で?


子供が必要になるんだろうね?


おかしいよね。由紀斗



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