井田真白《いだましろ》

「店長、お米セットしました。」


「ありがとう。」


「大宮さん、足に負担あんまりかけないようにね。」


「大宮さん、米なら俺が炊いたのに…次からは、頼ってよ」


「はい、わかりました。」


そう言って、彼女はニコニコ笑った。


39歳で、働きにやってきた大宮さんはすぐに職場のアイドル的ポジションを確立した。


返事がよくて、笑顔が素敵、おば様達はすぐに彼女を好きになった。


整った顔立ちに、可愛い仕草、正社員やアルバイトの男達も、すぐに彼女を好きになった。


絶対誰にも渡したくない。


彼女がやってきて、一ヶ月目に無性にそう思ったのだ。


帰宅する時にはめられる薬指のリングが憎かった。


「いらっしゃいませ、ご注文は?」


「大宮ちゃん、今日もスマイルいいね」


「ありがとうございます」


旦那さんは、どんな人なのだろうか?


モヤモヤが止まらなかった。


「大宮さん、少し残れますか?」


「あ、えっと、はい。大丈夫です。」


今日は、彼女の旦那さんが出張先から帰ってくる日だった。


わざと、彼女を残業させた。


「これ、味見してもらえませんか?」


「はい」


私は、試作品を彼女に差し出した。


料理のセンスがいい人だった。


決められた唐揚げに、彼女は七味マヨネーズやカレーマヨネーズをかけて食べていた。


トッピングにすぐに採用したのが社員の黒瀬さんだった。


「何か、大根おろしがいまいちですよね?」


「やっぱり、そうだよね」


私は、大宮さんが使ったフォークをわざととって、味見をした。


「もう少し、辛みが欲しいよね。大宮さんもそう思うでしょ?」


「はい、胡椒いれてみます?」


「そうだね」


私は、それを大宮さんの口にいれた。


わざと体をくっつける。


「うん、美味しいです。」


「ほんとだね。これ、本部に提案してみるよ」


大宮さんの腰を持って、引き寄せた。


「店長、あがりますね?」


少しだけ恥ずかしそうにしていた。


心の中で、ガッツポーズをした。


そんな事をちょこちょことしていたけれど…。


さすがに、限界だった。


そんなある日、黒瀬さんが大宮さんの歓迎会をしたいと言い出した。


黒瀬さんは32歳独身で、実は大宮さんを気に入ってると情報を聞いた。


好きになるのわかる。愛想もいいし、綺麗なのにサバサバしてて、笑うと可愛い。


そして、梅酒を飲まされた大宮さんは酔っ払った。


「私が、連れて帰ります」


黒瀬さんが、連れて帰ろうとしたのを引き留めた。


「店長なら、住所わかるわね」


湯田さんが、フォローをしてくれた。


「そうですか、じゃあ任せます。」


黒瀬さんは、そう言った。


私は、大宮さんを家に連れて帰った。


「由紀斗」


そう言った彼女に、水をあげた。


服にビシャビシャにこぼれた。


「服、脱ぎましょう。タオル持ってきます」


私は、洗面所からタオルを持ってきた。


大宮さんの服を脱がせて、体を拭いた。


「由紀斗」


そう言った大宮さんを抱き締めた。


旦那さんが、好きでも構わなかった。


私だって、大好きなのだ。


目覚めて、動揺してる大宮さんをまた抱いた。


「遊びでもいいから、こんな風にしてよ。梨寿りじゅさん」


私の言葉に、梨寿さんは頷いてくれた。


優しさに甘えた。


旦那さんが、出張の時は家にやってきてくれた。


肌を重ねた。


子供がいない事と梨寿さんの優しさに私は甘え続けた。


そして………。


「旦那さんと別れてよ。私のものにちゃんとなってよ。子供に縛られなくて楽でいいんでしょ?私との関係」


本当は、言いたくなかったのに、こんな事…。


「わかった。別れるよ」


優しさを利用した。


梨寿さんの中に、旦那さんがいるのが、今日わかった。


でも、それと同時に梨寿さんと旦那さんは、一緒にいれないのも感じとった。


苦しかったんだね。


子供が出来ない事が、とても…。


私は、最初から興味がなかったけれど…。


結婚してる、梨寿さんには辛い事だったんだと思う。


離婚出来なくてもいい。


私は傍にいてあげたい。



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