【詩集】

伽戸ミナ

脱炭素社会

産まれてきたばかりの言葉は、息に乗っていけるくらい軽い。でも段々といろんな意味を負わされて、重くなって、動けなくなって、死んでいく。死語が堆く積まれた山の中から、化石化したものを掘り起こしてきて、仰々しく発表する。この言葉の本来の意味は今と違います。正しい言葉遣いに立ち返りましょう、と現代仮名遣いで書いている。“正しい言葉を遣おう”は“地球を守ろう”くらい馬鹿げている。キャッチフレーズはキャッチ―だから、使ってて楽しいけど、見た目をゴシック建築みたいにしただけの空箱だから、本当は鼻息くらいで飛んでいくんだよ。けれどもその事実だと都合の悪い人が、周りを縄で囲って「お手を触れないでください」の立札を立てる。


ガラスケースに入れてもらえなかった化石たちは燃やされて燃料になる。その炎が空気を温めて、軽薄な若者言葉が産まれる。風が吹くと散り散りになるのを見て、乱れた言葉だって言う。軽いと風に飛ばされるのは当たり前だと思うんだけど、リズミカルで印象派な言葉を理解できない人たちは、現代仮名遣いの大和言葉に固執する。言葉に意味が集まる。埃に水滴が集まるように。磁石に砂鉄が集まるように。都市に人が集まるように。集まるのがこの世の理。数こそが正義。島国の中でマジョリティでいられれば全く問題なし。

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