第3章 揺れる気持ち
第29話 わがままな決意表明
王国に帰還した私達は休む間も与えられず、女王陛下の元へ召喚させられた。
一連の報告を終えて女王陛下から労いの言葉を貰い、中央図書館へと足を向けた私の肩をレクソスが優しく叩く。
「学園に戻って休もう。中央図書館は逃げないよ」
「そうね。もうクタクタよ。二日ぐらいベッドで寝て過ごした気分だわ」
「だな。何かあれば集まれば良いだろ」
王宮から出るとまるで本当に魔王討伐を成し遂げたかのような凱旋パレードに参加させられた。
壮行会と異なり、疲労困憊な私達の笑顔は引き攣っているだろう。
それぞれの寮に戻る頃には瞼を開けていることすら辛い状態だった。
「こんなときにリーゼがいてくれたらな」
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「あれ、幻かな……?」
「まさか。早くその汚らしい顔を剥ぎ取って休んで下さい」
そこまでこの顔を嫌う理由はなんなのだろう。
顔面偽装パックを剥がし、素顔を晒すと汚れた金髪を撫でながらベッドへと誘われる。
「シャワーは明日で結構です。さっさとお休み下さい」
今日も口が悪いなぁ。なんて考える間もなく、深い眠りに落ちていく。
目覚めるとなんと二日が経過していた。
体力と魔力は完全回復していたけど、精神的な疲労はまだ抜け切れていないようだ。
ベタベタの体と髪をシャワーで洗い流してリーゼが用意した服へ着替える。
脱衣所から出るとデュークが貧乏ゆすりをしながら椅子に腰掛けていた。
「この前はありがと。おかげで助かったわ」
「ふん。……悪かったな」
ぶっきらぼうに返事するデュークは顔を向けずに小さく呟く。
「どうして謝るの? ううん。やっぱりいいわ」
「腕の傷はどうなった?」
エレクシアによってつけられた左腕の傷跡と凍傷はもう残っていない。
レクソスの回復魔法が水属性魔法に匹敵するほどのものであると物語っているようだ。
「お前はもういい。魔王討伐は辞退して普通に学園生活を送れ」
「それは、もう私は不要ってこと?」
「違う。俺が魔王城の主になる。遅くなって悪かったな。あと少しでお前から卒業できそうだ」
デュークは無事に土属性魔法を闇魔法へ転換できるようになったのだろうか。
私はもしかして、とんでもないことをしてしまったの?
これでデュークが魔王になってしまえば、世界の平和が脅かされるの?
でも、それは聞かなかった。
彼はお母さんの願いを叶える為に魔王になるだけ。だから世界をどうこうするつもりなんてない。
そう決めつけていたかった。
* * *
「うん。傷跡は残ってないね。良かった」
現在のボルトグランデ寮に在籍している学生は二人しかおらず、寮長先生もいないから他の寮よりも静かだ。
レクソスにお礼を伝え、左腕の袖を直す。
「ねぇ、レクソス。あの回復魔法は雷属性なんかじゃないですよね」
「バレた?」
いたずらっ子のように笑う。
彼は誰よりも優しくて純粋だ。だから使えるのだろう、光魔法を――
「"氷瀑の魔女"に出会った時から試しているんだ。ボクの雷属性魔法を別の何に転換できないかなって思ってね」
まさか無自覚で光魔法の習得を始めるとは驚いた。
ゲームではこの後に起こる強化イベントでエレクシアと共に成長する予定だけど、私のせいでそれを早めてしまったのか。
「ウルティアから見て、ボクの魔法はどうかな?」
「とても暖かいですよ。まるで光魔法ですね」
「そうか。ボクにも使えるだろうか、光魔法を」
「勇者候補ですからね。きっと使えますよ」
自室から持ち出したレアアイテムである
一度使ってしまったけど、あと一回は使い魔の召喚ができる筈だ。
レクソスの魔力が規定量に達していればの話だけれど。
「いいのかい? これは君が見つけて買ったものだろう?」
「私にはアクアバットがいますから。レクソスの願いを叶える為に使って下さい」
「ありがとう。これで少しは君に近づける」
ボルトグランデ寮の扉を閉ざした私の目の前にはエレクシアが立っている。
どうして彼女がここにいるのか分からないけど、私の知らないところで二人は仲良くなっていたりするのだろうか。
「レクソスは中にいますよ」
「ウルティアは強いし、カッコカワイイし、最高の仲間だと思ってる。あんたはレクソスのことをどう思ってる?」
「勇者候補で、パーティーのリーダーで。……最高の仲間です」
「あたしもそう思ってる。だから力が欲しいの。絶対にあの魔女を倒すわ」
そう言って拳を握る彼女の瞳は燃えるようだった。
エレクシアが最後に放ったブレイジング・インパルスは唯一、私にダメージを与えたけど、ここから更に強化されると思うとゾッとする。
レクソスは勇者になって、エレクシアが最強の火属性魔法使いになって、二人の力で魔王を倒す。
そして、私は結ばれた二人を陰から眺める。
これが当時の私が描いたトゥルーエンドだった。
だけど――
何も手放したくない。
これは私のわがままだ。わがままを通す為には力がいる。
だから、私も彼女に宣言しておこう。
「誰にも負けませんし、誰にも傷つけさせません」
エレクシアが満足そうに笑って拳を突き出す。
多分、彼女は勘違いしているけれど、それは好都合だ。
私は悪役だからエレクシアと同じ道は歩めない。
強めに拳を合わせた私の気持ちは彼女に伝わっただろうか。
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