第2話 おおむねシナリオ通り
普段から温厚な父に魔法を教えて欲しいと頼み込むと、これまでに見たこともない形相で有無を言わさず拒否されてしまった。
忘れていた。私の父は親バカだった。
続いて母の元へ行き、魔法を教えて欲しいと頼み込むと、日常生活でも使用できる簡単な風属性魔法を教えてくれた。
それから数日間、必死に練習したけど一度も風属性魔法は使用できなかった。
けっこう悩み、辿り着いた答えはそもそも風属性魔法が私に合っていないというものだった。
両親共に風属性魔法を操るのだがけど、どうやら私にはその魔力が遺伝していないらしい。
ウルティアは氷というゲームバランスを崩壊させる魔法を操っていたから風属性魔法の応用だと勝手に決めつけていたけど、それは間違いだった。
そこで、私は自分がどの属性魔法を使用できるのかを知る為に、手に込めた魔力がどのように変化するのか実験した結果、手のひらがびちゃびちゃになった。
なるほど、水属性魔法か。
そうなるとゲーム内のウルティアは水属性魔法を変換して氷にしていたということになる。そんな事が可能なのか分からないけど、やれるだけやってみよう。
一時間後、水の性質変化をマスターした。
前世の記憶があったことも手助けになっただろう。しかし、最初から才能があったのかもしれない。
とはいえ、屋敷と庭先にしか出られない私は大々的に魔法の練習を行えず、手のひらの上で水を遊ばせる程度しかできなかった。
そこで庭師さんにくっついて剪定の手伝いという名目で魔法を使用したり、メイドさんにくっついて洗濯という名目で魔法を使用したり、コックさんにくっついて食料調達という名目で魔法を使用したりした。
習い事があるから屋敷の中では如何にも貴族令嬢な振る舞いを続けたけど、本当はこの長い髪をバッサリと切り落として森の中を駆け回りたい気持ちでいっぱいだった。
一年後には水分身と名付けた魔法を使用できるようになったので、分身体を部屋に引き籠もらせて本体である私は魔物の出る森でレベル上げに勤しんだ。
限られる時間の中で効率良くレベルを上げなくてはいけないから、必然的に広範囲攻撃魔法の開発、習得に至った。
中でも面白かったのがマリンという著者の本に書いてあった自動防御魔法だ。
それに攻撃要素を加えると敵意や殺意を向ける相手に対して防御と攻撃を自動に行う鉄壁の魔法に進化させることができ、この魔法を重宝した。
そして遂に計画実行の時を迎える。
最果ての地という最終ステージへ向かい、魔王城へと乗り込もうとしたのだ。
道中に出てくる高レベルの魔物達をものともせず、自動防御攻撃魔法が蹴散らしていく。
難なく魔王城へ辿り着き、城中を突き進むと玉座に座る男性が驚いた表情で私を見下ろしていた。
「こんにちは。私はあなたの手下にはなりませんので」
「なにを言っている小娘。どうやってここまで来た?」
「門番さん達はみんな倒しましたよ」
魔王の放つ攻撃魔法に反応した自動防御魔法にも驚いたようだ。
これで私の言うことを信じてくれるだろうか。
「もしや、水属性攻撃魔法も扱えるのか?」
「はい。少しだけですが。……試してみますか?」
「撃ってみろ。遠慮はいらん」
ではお言葉に甘えて。
私は渾身の力で直射型射撃魔法をぶっ放した。まだ魔力構築は未熟だが、これでも昔よりも威力は向上している。
魔王の手によって攻撃魔法はかき消され、彼は満足げに頷いて腕を降ろした。
「世界は広いな。いずれは立派な水属性魔法使いになるだろう。そのときには俺の側近になってくれるか?」
「お断りします」
「そうか、そうか。では俺はお前を手下にするのは止そう。気をつけて帰れよ」
わざわざ魔王の元へ出向き、先手を打ったのだ。
これで私が魔王の手先になることはないだろう。
もしも、お誘いに来たときはもっと強力な砲撃魔法をくれてやる。そのときの為に更に腕を磨いておこう。
こうして安心して貴族令嬢と水属性魔法使いとしての二重生活を送れるようになった。
しかし、数年後にはゲームのシナリオ通りに私の日常を揺るがす事件が起こる。
これはゲーム内で終盤に語られる内容だから盛大なネタバレになるので申し訳ないけど、私の家族は国王軍と魔王軍の戦闘に巻き込まれて屋敷もろとも殺害、破壊される。
その生き残りがウルティア・ナーヴウォールであり、偶然通りかかった魔王に拾われることで、人間でありながら魔王の手先になるというシナリオとなっている。
両親や使用人達と不仲ならばともかく、良くしてくれているのに奪われてたまるものか。
私はこれまでに良い子を演じてきた分のわがままを通すことにした。
「お父様、この屋敷に飽きました。別の場所でもっと大きな屋敷を持って下さい」
我ながら意味不明なことを言っていると思う。
しかし、父は私のわがままに喜び、すぐに新しい屋敷を造らせてそちらに移り住んだ。
引っ越し後、見事に戦闘の流れ弾で旧屋敷は業火に焼かれ、両親は私を一家の守り神と讃えてくれた。
これで魔王と出会うきっかけすらも無くした。フラグブレイカーの称号を得てもおかしくない筈だ。
私はひっそりと自由に学園生活を送り、勇者の魔王討伐とメインヒロインとのエンディングを見届けた後に、適当な貴族の息子と恋愛でもしようかと呑気に構えていたのだけれど……。
「お前がウルティア・ナーヴウォールだな。俺は魔王だ。俺に従え」
玄関前には自称魔王が立っていた。
あぁ、さようなら、私の隠居生活。というか、君はどちら様?
こうして見事に両親を人質に取られた私は人間でありながら魔王の手先になった。と言えば聞こえはいいがこの自称魔王は私と同じ十歳だ。
そんなに私を仲間にしたいのか!?
これだと幼馴染みのようだけど大丈夫か!?
本物の魔王はどこに行った!?
そんな私の叫びも虚しく、時は流れる。
まだ私にはフラグブレイカーの称号は早かったらしい。
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