第77話 Nostalgic Facer Ⅲ

 少女は動揺を隠し切れておらず、額には汗がにじんでいた。そればかりか感情がたかぶり、今にも涙腺が崩壊しそうになっている。

 ウィルが組んだ指標としての8つのメニューの内、8つ目の終了を告げるブザーが鳴っていたからだ。




 指標はそれぞれ、戦士ウォリア向けで4つ、魔術士スペルキャスター向けで4つ用意されている。そして、それの適用ランクはDランクからAランクまでである。


 現状でSランク以上の指標は公式には存在していないが、以前のクリスの実技試験の時に使われたデータは9つ目の指標であり、それはSランク相当になっている。

 そしてそのプログラムをウィルは、挑戦者に実行していった。


 ちなみについさっき終了した8つ目のメニューも「New Record」と表示されていた。



「それって、この前のワイバーンと炎龍のやつ?」


「そだよ。それそれ」


「あれは、アタシの記録を抜く事なんて早々出来ないハズよ?ってか、その前に中にいるのは、誰なのよ?お・し・え・な・さ・い・よ・ッ!」


ばんばんッ


「ぎ、ぎぶぎぶ、死ぬぅ」


「どうしても吐かないのね?それならモニターで見てやるんだからッ!」


「げほっ、げふぉっ。い、今やってるのが最後なんだから、終われば出てくるさ。待ってればいいんじゃない?げほげほ」


「それがどうしても「今」、気になるって言ってんのッ!」


「もう、せっかちさんだなぁ」


ぎろッ


「えぇっと、ここをこーして、あーもぅッ!なんでこんな時に着物なんか着てきたのよッ!袖が邪魔で動かし辛いッ!」


 少女は必死にモニターで中で闘っている者を確認しようとしたが、普段から着慣れていない着物の袖が色々と仕事をしてくれたお陰で、切り替えが上手くいかず額には青筋が浮き上がっていた。



「ぷぷぷっ、馬子にも衣装。ぷぷぷっ」


ばこんッ


びーッ


「えっ?嘘……でしょ?さっき始まったばかりで、もう終わり?初めてる人間が、こんなに早く倒せる相手じゃないハズよ?」


 そして少女は色んなモノと格闘している内に、残酷な終わりを告げるブザーが鳴り響いていったのである。

 その音を聞き付け少女は、顔面が蒼白になっていた。


 少女はモニターの操作どころでは無くなった様子で、急ぎコンソールに目を移していく。


「New Record」


 その文字がそこには映し出されていた。それを見た少女は、その場に崩れ落ち泣き出したのだった。



「あれ?泣いてる?泣いてるの?」


「な、泣いてなんか……泣いてるワケないでしょッ!ウィルのクセにッ!」


「へぇ、泣く事も出来るんだね?鬼種オーガの目にも涙かな?」


きッ


「ひぇッ、怖い怖い。鬼種オーガは怖いなぁ。けらけら」


「このアタシの記録を全部抜くなんて、アタシにケンカを売ってるとしか思えないわね。絶対文句を言ってやるんだからッ!なんなら、拳で証明してやるわッ。ふんすッ」


「えっ?そのカッコでやるつもりなんだ?怒りに目が眩むと周りが見えなくなるんだなぁ。逆に別の意味で凄い」


ばっこんッ


ばったんッッッッ


 少女が泣き崩れていたのも束の間のコトだった。少女は目を吊り上げ何かを思い立ったように立ち上がると、ウィルの頭に思いっきり拳を見舞った八つ当たりしたのである。

 そしてその足でモニタールームを出て、トレーニングルームの前で仁王立ちの状態で、中にいる者が出て来るのを今か今かと待っていたのだった。


 なお、モニタールーム内でウィルは1人頭を抱えて悶えていた。



「ふんすッ。ふんすッ。早く出てこい。ぎったんぎったんのけちょんけちょんにしてやるんだからッ!ふんすッ」


ぷしゅー


「アナタねぇ!アタシにケンカ売ってるの?一体どーいうつも……えっ?!」


 トレーニングルームのドアがゆっくりと開いていく。そして少女は鬼の形相をしたまま、中から出て来た者と目が合ったのである。




 セブンティーンは低いエグゾーストを奏でながら、屋敷の敷地内へと入っていく。そして、盛大にブレーキ音を立て玄関先にセブンティーンが停まると同時に屋敷の玄関扉が開き、いつものように3人が出迎えに来てくれていた。



 しかし爺は、セブンティーンから降りた人を見た途端に、驚きの表情のまま固まってしまったのだった。

 サラは固まっている爺を見て首を傾げて、「いらっしゃいませ」とだけ紡いでいた。

 レミは爺の姿を見て、ただ笑っていた。



「本当にお久し振りでございますなぁ、キリク御坊おぼっちゃま」



-・-・-・-・-・-・-



 少女は鬼の形相のまま、半ば八つ当たりの意味も含めてケンカを吹っ掛けていった。だが、ケンカを吹っ掛けていく途中で、少女は気付いたのだった。



「キリク……なの?」


「やぁ、久し振りだな!話しには聞いていたけど、お前、結構強くなったんだな?ってまぁ、お前以上にオレも負けず嫌いなんでな、レコードは塗り替えさせて貰ったぜッ!」


「キリ……ク?本当にキ……リク?」


「お、おう?オレだぜ?なんだ、忘れちまったのか?」


「ば、バカ!ばかばかばかばかばかばかーッ!」


「おっ?どうしたどうした?はははッ。ところで、お前のカッコはなんだ?どうしたんだ?」


「ど、どうせ、馬子にも衣装とか言いたいんでしょ?」


「いや、スゲー似合ってると思うぜ?」


「ちょ、急に何をッ///」


「あぁ、そうか!今日は元旦だったな。どうりで人の通りとかも少ないワケだ。やっぱり日付変更線を越えると日付感覚おかしくなるな」


「ねぇ、キリク?」


「ん?どうした?」


「おかえり……なさい」


「おう、ただいま」


「もう……もう離さないんだからねッ!」

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