2日目

第10話 道具屋段ボール

 朝6時。元男爵令嬢の朝は意外と早い。


「ん~~んっ、はぁ~。今日も頑張らないと」


 質素なベッドから出ると、カノンは立ち上がって大きく背伸びをした。

 ここから優雅に朝食を食べて、所持金を0にしたら終わりだが、そこまで馬鹿じゃない。

 馬小屋のパトラッシュをペチペチ叩いて起こすと、顔を洗って訓練所に向かった。


「さあ、パトラッシュ。朝の運動ですよ」

「クゥ~ン」


 寝起きの運動はキツイ。パトラッシュが悲しく鳴いた。

 訓練所に到着すると、昨日のスライムが90匹に増えていた。

 倒しすぎないように注意して、二人で60匹だけ倒した。


 あとは残り30匹を、三部屋に10匹ずつに分ければ、お昼頃には90匹に増えている。

 訓練所に残飯が置かれるのは、朝、昼、晩の冒険者ギルドの酒場の食後だ。

 スライムは残飯を食べると、すぐに分裂して増えていく。


「んんッ~! これは重たいですッ!」


 小銅貨1900枚を大銅貨1900枚に進化させた。

 布袋の重さも1.9キロ→9.5キロに進化した。

 頑張ってカノンは持ち上げようとしたけど、無理だった。

 パトラッシュが背中に乗せられずに済んで、ホッとしている。


「あのアイテムポーチがあれば、持ち運びも簡単そうなんですけど」


 カノンは壁にぶら下がっている、緑色のアイテムポーチを見て考えている。

 お金を稼げるようになったから、アイテムポーチが欲しいようだ。


「そうだ。売ってもらえるか聞いてみましょう」


 必要だと結論すると、お金の入った布袋をパトラッシュに見張らせて、カノンは冒険者ギルドに向かった。

 昨日の失礼な男職員とは違う、眠そうな顔をした20代前半の男がカウンターに座っていた。


「おはようございます。すみません。訓練所のアイテムポーチが欲しいですけど」

「んぁ? アイテムポーチ? ダメダメ。あれは売り物じゃないよ。欲しいなら道具屋で売っているよ」

「道具屋に売っているんですね。ありがとうございます」

「はぁい。おやすみぃ~~」


 眠そうな職員が断ると、売っている場所をカノンに教えた。

 カノンがお礼を言って出て行くのを、職員は大欠伸しながら見送った。


「これだけあれば買えますね」


 訓練所で約3キロ——6000ギルドの大銅貨を持って、カノンは道具屋に出発した。

 お店に入れないパトラッシュには、引き続き残りのお金を見張ってもらう。


「はぁ、はぁ……足が痛いです」


 街の人に道具屋の場所を尋ねながら、木板に壺が描かれた道具屋に到着した。

 歩き慣れてないから、両足がパンパンになって痛がっている。


「がぁ~ん‼︎ 23万ギルドもするなんて! 全然足りないです!」

 

 色々な商品が沢山並ぶ、道具屋の店内をカノンは見て回る。

 探しているアイテムポーチを発見したけど、その価格に驚いている。

 便利な道具がそんなに安くはない。


「う~ん。あっ、そうだ!」


 普通の人なら、ここで諦めて帰る。そしてお金を貯めてから買いに来る。

 だけどカノンは少し考えると思い付いた。


「すみません。6000ギルドで買える、壊れたアイテムポーチはないですか? 紐とか切れ端でもいいです」


 カウンターにいる小さな眼鏡をかけた、50代の優しそうな男店主に聞いてみた。


「あっははは。そんなんでいいなら、タダでいいよ。変わったお嬢さんだね。裁縫でもするのかい?」

「はい。修復して使おうと思います」


 店主は珍しい客に軽く笑うと、若い少女に使用目的を尋ねてみた。

 予想した範囲の答えが返ってきて、納得したようだ。


「それは感心だ。持って来るから、気に入った柄があれば、好きなだけ持って行きなさい」

「本当ですか⁉︎ ありがとうございます、おじ様!」


 店主は完全に裁縫好きの少女だと勘違いしている。

 店の奥に置かれていた段ボール箱を持ってきた。

 段ボールの中には、アイテムポーチ以外の布切れ、革切れも山積みに入っている。

 カノンはもう一度お礼を言うと、段ボールごと貰った。

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