没落令嬢カノンの冒険者生活〜ジョブ『道具師』のスキルで道具を修復・レベルアップ・進化できるようになりました〜

アルビジア

1日目

第1話 返済期限

「よし、時間切れだ。取り立て開始だ」


 朝8時。返済期限がやって来た。

 予定通りにネロエスト男爵家の屋敷に、金貸し達が雪崩れ込んだ。

 運で成功した成金男爵の父親が、調子に乗って手広く商売した結果——失敗した。

 そして屋敷と財産を全て失うことになった。


 屋敷に残っているのは、一人と一匹だけだ。

 両親から大丈夫大丈夫だと言われて、一人残された三女カノン・ネロエスト17歳。

 ペットの茶色い大型犬パトラッシュ(オス)3歳だ。

 足りない分は娘に払わせると、父親に置き去りにされた。


「ほら、着替えだ。金目の物は全部置いて行ってもらう」

「あのぉ……この子も置いて行かないとダメですか?」

「クゥ~ン」


 部屋にいたカノンに金貸しの男がボロ服を投げ渡した。

 カノンはボロ服を見た後に、床でゴロンと寝ているパトラッシュを見て聞いた。


「あんっ? そんなデカ犬なんか金になるか。要らないから連れて行け」

「あ、ありがとうございます!」


 カノンはお礼を言うと、着ていた高い服をボロ服に着替えて男に渡した。

 そしてすぐに男に、パトラッシュと一緒に部屋から追い出された。


「パトラッシュ、私はどうすればいいの……」

「クゥーン……」


 長い金髪に紫色の瞳のカノンが、屋敷から持ち出される家財道具を途方に暮れて見ている。

 パトラッシュが悲しそうに鳴いて返事した。


 カノンには行く場所も頼れる人もお金もない。

 何不自由なく暮らしてきたから、家事も仕事もしたことない。

 世間知らずのお嬢様には、これから何をすればいいのか分からない。


「お嬢ちゃんお嬢ちゃん、忘れ物忘れ物」

「はい?」


 40代の金貸しの男が、高そうなハサミを持って走って来た。


「髪も売れるから切らせてもらうよ」

「がぁーん‼︎」


 ハサミを鳴らして、ニッと金貸しの男が笑うと、輝く金の差し歯が見えた。

 ショックを受けるカノンだったが、男は慣れた手つきで長い髪を素早くカットした。

 少し長めのショートヘアだけが残された。


「これで借金はギリ回収できた。お嬢ちゃんは自由だから行っていいよ」

「あの、どこに行けばいいんでしょうか? お金も住む場所もなくて……」


 これ以上取れる物はない。金貸しの男は用無しになったカノンを追い払った。

 だけど、カノンに行く場所はない。


「あーそれは困ったな。まあ若いんだから大丈夫だよ。ほら髪代を2500ギルドやるから冒険者ギルドに行ってみな。そこには優しいお兄さん達がいるから、泊めて欲しいと言えば面倒見てくれるよ」

「本当ですか⁉︎ ありがとうございます! 行こパトラッシュ」

「ワン!」


 男は財布から銀貨と銅貨を適当な枚数取り出すと、困っているカノンに渡した。

 カノンは大喜びして受け取ると、男に教えられた冒険者ギルドを探しに街に向かった。


 ♢


「おいおい、お前も悪い奴だな。この髪なら2万ギルドはするぞ」

「何言ってんだよ。散髪代に男を紹介してやったんだ。安いもんだ。三ヶ月も冒険者達に回されたら、世間知らずのお嬢ちゃんも立派なレディに成長だ」

「がっははは! 何が立派なレディだよ! 大人の店で働いているぞ!」

「その時は髪代を追加で払ってやるよ」


 少女と犬がいなくなると、金貸し達が戦利品を見せて喜びあった。

 綺麗な長い金髪2万ギルドと高い服6万ギルドだ。

 令嬢の髪なので庶民の髪よりも高値で売れる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る